「風しん」予防は社会、職場全体の問題 風しんワクチンの接種はなぜ大切?  Vol.1

「風しん」予防は社会、職場全体の問題 
風しんワクチンの接種はなぜ大切? Vol.1

妊娠・出産インフォ

主に春先から初夏にかけて流行する「風しん」。「子どもがかかる」「それほど症状が重くない」といったイメージがあるかもしれませんが、妊娠中の女性が感染すると、生まれてくる赤ちゃんに白内障や難聴などの障害を招く可能性がある病気です。

医師であり、厚生労働省健康局結核感染症課の国際感染症情報専門官を務める氏家無限さんに、風しんという病気の特徴と、昨今の流行、そして、先天性風しん症候群(congenital rubella syndrome:CRS)についてお話を聞きました。

自然感染が減ったことで起こった風しんの問題

風しんは一般的に5月頃に発生のピークを迎えることが多い感染症です。この季節はさわやかで過ごしやすい季節で、大勢の人が外に出かけ、移動します。また、4月から始まる新年度によって、新しい人間関係を育むときでもあります。免疫のない人が感染している人と接触する機会が多いので、風しんの感染が増えやすくなります。

風しんは、予防のために1970年代からワクチンが使われるようになりました。それまでは感染するのが当たり前の病気。ワクチンが開発される以前には、国内でも毎年数10万人の規模で発生し、5,6年ごとに大規模な流行が起こり、100万人を超えるような流行が継続的に見られていました。

小さな子どものうちに風しんにかかることで免疫をもつといった状況から、子どもに定期接種を行うことで、かからなくてもワクチン接種によって免疫を獲得できるようになり、だんだんと流行が減りました。風しんにかからない人が増えてくると、感染が広がりにくくなるため、免疫をもっていない人も感染せずにすみます。これを「集団免疫」と呼びますが、子どもの時にワクチンを接種していない場合には、免疫を持たずに大人になる人の割合が増えて、全体の感染者数は減るものの、感染する人の年齢が高いほうにシフトしていきました。流行が起きやすい年齢が子どもから、ワクチンを接種していないけれど感染もしていない大人へ変わってきたというわけです。

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2012年から13年にかけての流行は、14,000人を超える風しんが報告され、2004年以降ではいちばん大きいものでした。しかし、自然感染が当たり前だった1970年代以前の時代を含めた、数十年という長い期間で見てみると、流行の規模自体は小さくなってきているとも言えます。

ただし、今回の流行では30代から40代の成人男性の間で特に感染した人が多かったことが特徴で、この流行によってこれまで45人もの先天性風しん症候群(CRS)の子どもが生まれ、社会問題となっています。流行の中心にいたのが、自然感染とワクチン接種の時代の狭間の人たちで、ちょうど出産世代に当たったのです。

2回のワクチン接種が重要な理由

風しんウイルスの免疫のない妊婦さんが感染すると、おなかの子どもが先天性風しん症候群を発症する可能性があります。妊娠のどの時期に、どれくらいのウイルスの曝露(ばくろ)を受けたかということが、障害の種類や度合いに影響します。

ワクチンでの予防が大切となる同じウイルス性の病気に「麻しん」がありますが、風しんは麻しんに比べると、病原性はそれほど高くありません。そのため、妊婦さんが麻しんにかかるとほとんどの場合、流産してしまいますが、風しんの場合は流産せずにすみます。けれど、胎児の心臓、目、耳といった臓器の形成期である妊娠の初期に風しんに感染すると、きちんとした臓器形成がなされずにCRSとして子どもが生まれてくるということが起きえます。

妊婦さんが風しんにかかると、必ずおなかの中の子どもが先天性風しん症候群を発症するとは限りませんが、妊婦さんが風しんにかからなければ、CRSの子どもが生まれてくることがないことも事実です。

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そのため、CRS対策としてまず行いたいのが、将来妊娠したいと考えている人も含め、妊娠される女性が準備段階の間に十分な風しんに対する免疫(抗体)をもっておくこと。妊娠してからではワクチンを接種することはできません。また、現在は確実な予防のため抗体検査で免疫を確認するか、2回のワクチン接種をおすすめしています。

風しんのワクチンは、生ワクチンといって、弱毒の生きたウイルスを用いたもの。ワクチンを接種することによってワクチンのウイルスは感染した時と同様に、体内でどんどん広がり増えていきますが、本当のウイルスと違って悪さをすることはほとんどありません。そうして、自分の免疫が反応して、ウイルスをやっつける方法を学習して、まるで本当に病気にかかったような、いわば“感染の予行練習”をします。

ただし、この予行練習(ワクチン接種)で100%の方に感染に対する準備(免疫)ができるわけではありません。1回の接種でも約95%の方はきちんと免疫ができますが、5%弱の方は免疫ができないということが起こるからです。そのため、2回接種することで99%以上の方がワクチン接種で事前に感染に対する準備を整えることができるのです。

2回接種を推奨するもう一つの理由は、より確実な準備(高い免疫)のためです。予行練習では“本番”、つまり実際に感染した場合と比べると、準備の度合い(獲得できる免疫)が低くなりがちです。麻しんのような強いウイルスに対しては、長い時間が経過してしまうと、準備(免疫)が十分ではなくなって軽く感染してしまうこともあるため、2回のワクチン接種が求められるのです。2006年から子どもの定期接種では2回の接種を行っていて、2008年から2012年にかけては、それ以前の制度で1度しかワクチン接種をしていない中学生と高校生にも追加接種を行って、2015年度に25歳になる人までは2回の麻しん・風しんのワクチン接種を受ける機会がありました。

先天性風しん症候群の子をゼロに 現在の対策とこれから

妊婦さんがワクチン接種で事前に妊娠の準備をすることに加えて、海外の風しんの流行を注視することも必要です。昨今、国際間の人の移動がとても増えています。現在、日本で風しんの流行は見られていませんが、CRSをゼロにするためには、海外から入ってくる風しんにも注意を払わなくてはなりません。2012年の流行も、実は従来から日本にあったタイプのウイルスではなく、海外で流行っているタイプのウイルスによるものでした。国内で流行がない状態でも、必要な対策を継続的に行っていく必要があります。

具体的な対策として、現在は1歳の年齢、小学校入学前の年齢の合計2回、麻しん・風しんワクチンの定期接種を行っています。そのほか、妊娠を希望している女性の方などが、風しんの免疫があるかどうかを確認するための抗体検査を、無料で受けることができる制度もあります。また、一部の自治体では抗体検査で免疫のなかった方などに対して、風しんワクチンの接種費用も助成しています。

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先天性風しん症候群を予防するには、妊娠する前に女性に免疫をもっていただくことが大事ですが、女性だけの予防では、2013年に見られたような男性間での流行を食い止めることはできません。いちばん確実な予防方法は、風しんにかかる人が誰もいない状況を作ることです。風しん、先天性風しん症候群の知識を広め、一人ひとりが風しんの予防の必要性を理解し、社会全体で対策に取り組むことが大切です。

CRSの患者会のお母さま方とお話しする機会がありますが、ある方がおっしゃっていたのはこんなお話です。「自分が妊娠中に風しんにかかったときに、子どもを産むことをすすめる人がいなかった」「『産まないほうがいいのではないか』という助言ばかりだった」と。その後、実際にお子さんを産んで、症状はあったけれども軽くすみ、今ではほとんど問題にならないくらいになっているそうです。

もちろん、そのような方ばかりではないですし、当事者の方にしかわからないことがたくさんあると思うのですが、風しんについて、CRSについて、正しい知識を得てもらうことが何より大切です。全国に16か所ほどの産婦人科の専門医療機関で相談窓口を設け、適切な検査、説明、カウンセリングなどを受けていただくための体制をとっていますので、もし万が一、妊婦さんが風しんにかかった疑いがある場合は、あわてずに主治医の産婦人科の先生を通じて、専門の医療機関にご相談いただくことが重要だと思います。

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【プロフィール】
氏家無限(うじいえ・むげん)
厚生労働省 健康局結核感染症課 課長補佐・国際感染症情報専門官/医師
昭和大学医学部卒業。長崎大学 熱帯医学研究所、国立国際医療研究センターなどを経て、現職に。著書に編者の一人としてたずさわった『ワクチンで困るケースをみんなで話してみました ケースを学ぶ予防接種の実際』(南山社)、『グローバル感染症マニュアル』(南江堂)がある。

【関連リンク】
風しんについて/厚生労働省
http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/rubella/

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