漫画家・鈴ノ木ユウさん×出産カメラマン・繁延あづささん対談――出産、そして家族のものがたりを紡ぐということ<前編>

漫画家・鈴ノ木ユウさん×出産カメラマン・繁延あづささん対談
――出産、そして家族のものがたりを紡ぐということ<前編>

妊娠・出産インフォ

昨秋のテレビドラマ化を経て、連載3年目に入った漫画『コウノドリ』(講談社)。作者の鈴ノ木ユウさんは、わが子の出産を目の当たりにし、子育てを経験することでこの作品を描きはじめました。そして、雑誌や広告などで撮影をする傍ら、ライフワークとして「出産写真」をカメラに収めている写真家・繫延あづささん。今年初めて出産写真を1冊の本にまとめ、その内容には賞賛の声が上がっています。

出産の“奇跡”を目の当たりにし、創作活動を行ってきたお二人が、出産、子ども、家族をテーマに対談。自身の作品への思いや、お互いの作品への感想も交えながら、思う存分語っていただきました。

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イメージとは違った、わが子の出産、誕生

――お二人は実は一度会って、お話をしたことがあるそうですね。

繁延さん(以下・繁延):そうなんです。『コウノドリ』はドラマ化される前から読んでいて、鈴ノ木さんってどんな方なのだろう? とずっと気になっていました。そして、私の出産写真の本『うまれるものがたり』(マイナビ出版)が出たときに、本を読んでいただけないかなと思っていたら、友人のつてをたどってお会いすることができて。

鈴ノ木さん(以下・鈴ノ木):たしかJR高円寺駅前のカフェで会ったんですよね。おしゃれなのか、どうなのかよくわからないような(笑)。

繁延:そうそう、いい意味で微妙なところ(笑)。私も昔よく行っていたお店で、好きな場所。かっこよすぎないから落ち着けるんです。

鈴ノ木:で、最初に会ったときにお互いのことがなんとなくわかったんですよね。出産という同じ題材を俯瞰する目をもって表現していることと、同じ“中央線の匂い”(※)がしたということで。初めて会った人なのにスッと話ができたというのが第一印象でした。
(※編集部注 お二人とも若い頃はJR中央線沿線にお住まいでした)

繁延:そうですね。出産に対する“違和感”から作品を作りはじめたというところも似ていると思いました。

――違和感というのはどういうことですか?

繁延:自分で経験する前は、出産ってもっときれいで、もっと感動的なものだと思っていました。この上ない感動の瞬間が訪れると思っていたのですが、そんなことはなくて、激しい痛みに耐えた後で、全身が脱力し、放心状態に…イメージしていたものとのギャップが大きすぎて、自分が間違えてしまったような気持ちになりました。

鈴ノ木:僕も妻の出産に思いがけず立ち会ったのですが、イメージしていたものとは違いました。ドラマなどであるように、お父さんが分娩室の外の廊下で待っていて、赤ちゃんの泣き声が聞こえて「生まれたか!」みたいなことはなかったですし、生まれたばかりの赤ちゃんって血まみれで汚いし、かわいくねーじゃんと(笑)。

――お二人とも自分が思い描いていた出産シーンではなかったわけですね。

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鈴ノ木:ええ。出産の現場では、“遠く”から見ていることしかできなかった。その場にはいるんですけどね。ただ、そこにいたこと、立ち会えたことは本当によかった。妻だけでなく、お医者さんや助産師さんたちも戦っているんです。そんな姿に心を打たれて、じわじわと胸に迫るものがありました。そして、産まれた子どもを見ても“あんまりかわいくねーじゃん”と一瞬は思ったのに、子どもを抱いたら“かわいい”と思えたんです。

――繁延さんは、ご自分の出産はいかがでした?

繁延:私は助産師さんやまわりのことなんて見えてなかったですね。私、一人目のときは友人のカメラマンが出産に立ち会っていたんですよ。「作品にしたいから撮らせてほしい」と言われて。

――ということは、最初は“被写体”だったのですね。

繁延:ええ。産後1か月くらいにその時の写真を見せてもらったんですけど、それはそれは「自分が見ていなかった風景」がたくさん写っていました。出産時は、自分の主人の手くらいしか見えていなかったですから、すごく新鮮でしたね。

鈴ノ木:それだけでも見えていて、すごいじゃないですか。

繁延:あ、そうか(笑)。そんな状態だったのと、産後はすぐ赤ちゃんのお世話が始まったこともあって、産んだ実感がなかったんですよ。だから、陣痛のときに夫が私の汗をぬぐっている写真を見たときは、まるで自分と夫じゃないような感じさえしました。でも、写真を眺めているとだんだん自分が産んだという実感がわいてきました。変な感じですよね、自分の目の前に赤ちゃんがいるのに、客観視した他人の写真でそう思えたんです。

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鈴ノ木:写真家だから、ビジュアルから感じる力が強いというのはあるかもしれないですね。僕は産んだことはないからなんとも言えないですけど、うちの妻は確実に僕のことは見ていなかったですねぇ(笑)。僕に完全に背を向けていたので、とにかく背中をさすって、「大丈夫か?」って声をかけるしかできなかった。

繁延:産む側は、余裕はないですからね。私、主人にもカメラを渡していて撮るように言っておいたんですけど、実際に主人が私に冷静にカメラを向けていることに、イラッとして、そのカメラを取って投げたりしましたね。でも、彼は訳がわからずそのカメラを拾ってまた撮ろうとするけど、また私が投げて(笑)。

鈴ノ木:どんな感じで?

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『うまれるものがたり』(マイナビ出版)より

繁延:もう奪い取って投げる感じ(笑)。自分がお願いしたことなんですが、完全に冷静さを失っていました。「私がこんなに必死なのにあなたは何をやってるの?」みたいな気持ちになったんですよ。でも、それを説明する余裕もなくて。鈴ノ木さんの奥さまはどんな感じでしたか?

鈴ノ木:彼女も必死でしたね。いざ産む直前になったときにすごく苦しそうにしていて、本気で「え、死んじゃう?」って思ったほどです。

繁延:あぁ、私も一人目のときはそんな心境になる苦しさでした。

鈴ノ木:人って苦しむとこんな顔をするのかとも思って。

繁延:そうそう。私は写真を撮っているので、妊婦さんの顔で陣痛の進み具合が予測できる部分があります。傷みが本格的になると、特有の表情になります。たぶん、ふつうのときに見せない、やってみようとしてもできない顔。それほど痛い。

鈴ノ木:ええ、ヨソじゃ見せられない顔になっていますよ(笑)。

 

自然分娩も帝王切開も出産は誰もが必死…その風景を伝えたい

繁延:出産撮影を始めるとき、とても容姿端麗で落ち着いたご夫婦の出産写真を撮影したことがあったのですが、初産では奥さんも旦那さんも必死なわけです。登ったことのない山を登るようなものですものね。みんな必死で余裕がなくて、いつものきれいさや落ち着きは、もうなくなっている。奥さんは髪を振り乱し、必死の形相でしたし、旦那さんは焦燥している顔でした。でも、私はそれを美しいと思ったんです。そのときにご本人たちには言えないけど、とても素敵な風景ですよって思って撮っていました。出産の瞬間だけでなく、産後放心している様子とか、全部が素敵な風景に見えました。私は、その感動と美しさを写真で伝えるべく撮っている感じがします。

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鈴ノ木:すごくわかる気がする。取材で帝王切開の出産に立ち会ったこともあるんですが、陣痛もないし、お医者さんと最初はにこやかに話しながら臨むわけですが、いざ始まるとお腹は開くし壮絶で…これは決して楽な出産ではないと思いました。赤ちゃんが生まれたときに感じることって、自然分娩でも帝王切開でも一緒。知らない子でも感動しました…もうおじさんなんで、感動しやすくなっているってこともありますが(笑)。

繁延:いえいえ、出産は感動しますよ。それに無事に生まれて当たり前でないこと、いま生きているのが当たり前でもないということに気づかされますよね。まだこの世に生まれていない子の人生が、出産から、そこから始まる。出産は「命」の存在を強く感じます。

鈴ノ木:それは本当にそう。男の人は、生まれるまで妻のおなかの中で命が宿っていることがリアルじゃない気がするんですよね。おなかをさすって赤ちゃんが動いているのがわかっても、どこかで「本当に?」と思っている。そういう、今まで経験したことのない10か月を過ごして、生まれてきた赤ちゃんを見て「本当にいたんだ!」と思って、やっと実感する。非常に不思議な感じがします。男は妊娠や出産について、当事者ではないから理解しようと思ってもすごく難しいことが多いんです。理解はしたいけど理解できない部分は絶対にある。その理解できない部分を僕は『コウノドリ』で描きたいんでしょうね。

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『うまれるものがたり』(マイナビ出版)より

繁延:出産には、あまり知られてないけどもっと知られるべき現実がある。鈴ノ木さんの作品には、それがたくさん描かれているじゃないですか。私が出産する前に読んでいたら、「イメージと違う」「間違えてしまった」と思わずにすんだかもしれません。だから『コウノドリ』を読んで出産できる女性や、その旦那さんはいいなと思います。

鈴ノ木:ありがとうございます。たしかに僕が『コウノドリ』の連載を始めたとき、出産の問題はタブーという雰囲気はちょっとありましたよ。女の人は知ってほしいけど「どうせわからないでしょ」と思っている部分があるし、逆に男の人は聞いちゃいけない、知っちゃいけないと思っている。そういった、面と向かっては話しづらい事柄を漫画という形で描くことによって、出産の現実を受け入れやすいと思ってもらえるようになったとすれば、うれしいことだなと思いますね。

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繁延:私も出産のことを夫にわかってもらいたかったけど、それを伝えるのって難しいですから。

鈴ノ木:ですよね。でもまあ、偉いのはなにより女性です。僕はもう、子どもを産んだときの妻を見ているので、彼女には一生逆らえないと思っています。女の人にはかなわない。だから、いま8歳の息子が妻に生意気な口をきいていたら、ゴツンします。基本、子どもに手を挙げることはないですが、それだけは必要なことだと信じています。

繁延:なんだか、鈴ノ木さんの優しさを感じますね。

鈴ノ木:優しいですよ、僕は…それが、妻にも伝わっていればいいんですけどね(笑)。

対談の<後編>はこちらからどうぞ。

 

【プロフィール】
鈴ノ木ユウ(すずのき・ゆう)
1973年、山梨県甲府市生まれ。大学卒業後はロックスターを目指していたが、漫画家に転向。「ちばてつや賞」入選後、『モーニング』誌で2012年8月、短期集中連載を行った『コウノドリ』が人気となり、2013年春から週刊連載に。昨年10月には本作が綾野剛主演で『コウノドリ』(TBS系)としてドラマ化。今年5月、第40回講談社漫画賞(一般部門)に輝き、現在、単行本の発行累計が350万部に達する大ヒット作になる。プライベートでは妻と8歳の息子の3人暮らし。

繁延あづさ(しげのぶ・あづさ)
1977年、兵庫県姫路市生まれ。県立明石高校美術科卒業後、桑沢デザイン研究所ID科に学ぶ。その後、写真家の道に進む。雑誌・広告の写真撮影や執筆、カメラ教室の講師をするとともに、ライフワークとして出産撮影に取り組んでいる。著書に『うまれるものがたり』(マイナビ出版)、『カメラ教室~子どもとの暮らし、撮ろう~』(翔泳社)など。今年夏に、写真を担当した『あなたが自分らしく生きれば、子どもは幸せに育ちます』(小学館)と、10月に『こどものみかた 春夏秋冬』(福音館書店)が出たばかり。現在、長崎で夫、11歳・9歳の息子、3歳の娘の5人暮らし。
http://adusa-sh.sakura.ne.jp/

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