連載「高橋たかお先生のなんでも相談室」 子どもにとって「生まれてから12か月」が意味すること

連載「高橋たかお先生のなんでも相談室」 
子どもにとって「生まれてから12か月」が意味すること

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今回から始まった新連載「高橋たかお先生のなんでも相談室」。日々、小児医療の最前線で多くの子どもと接している慶應義塾大学医学部の小児科教授の高橋孝雄医師が、ママやパパが抱えがちな疑問や不安に答えていきます。

第1回目のテーマは誕生からの1年間の子どもの成長について。あらゆることがそうであるように、子どもの成長のペースも個人差があります。そのことで思い悩んだり、不安に感じたりするママ、パパもいることかと思いますが、果たして親はわが子の成長を見守る際、どんなことに注意し、子どもの「どこ」を見ていればいいのでしょうか?

一児の母でもある出産準備サイト編集スタッフKが高橋先生に伺いました。

 

成長の目安は身長、体重のほか、頭囲も

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スタッフK(以下、K):赤ちゃんの成長の早さには本当に驚かされます。何もできない状態で生まれてきたのに、首がすわり、体がしっかりしはじめ、1年が経とうとする頃には、歩くことができるようになる子もいます。発達をうながすために、親は何をしたらいいのでしょうか?

高橋先生:まずお話しておきたいのは、1年ではなくて12か月ですね。大人にとっての変化は1年単位で感じられるものかもしれませんが、子どもは、特に生まれてからの1年間の赤ちゃんは、1か月ごとに成長し、発達していきます。5か月と8か月、10か月と12か月では、驚くほどの変化がありますから。

K:おっしゃる通りですね。

高橋先生:また、赤ちゃんに起こる変化には「成長」と「発達」があり、これらは似ていますが違うものなんですね。お父さんとお母さんは、これらを両方意識しながら育てていく必要があります。

K:なるほど。「成長」と「発達」はどのように違うのでしょうか?

高橋先生:はい、成長というのはその名のとおり“長くなる”こと、大きくなることですね。親はその都度、背が伸びたな、体重が増えたかな、などとても気になるところですね。でも、頭が大きくなる、ということも大変重要なことなのです。身長、体重、そして頭囲。この3つの数値が正常な範囲にあること、つまり“成長曲線”に沿って増えていれば一安心だというわけです。

K:身長、体重はよく聞きますが、頭囲も重要な要素なのですね。

高橋先生:そうです。なぜなら、頭囲の増加は脳の発達と密接に関連しているからです。ところで、頭の大きさは遺伝的要因、つまり生まれながらの個性で決まる場合がほとんど。食事の内容など、環境の影響を一番受けやすいのが体重ですが、身長や頭囲は、実は生まれる前から遺伝的な体質によって決められている部分が大きいのです。つまり、ご両親の背が高ければ、お子さんも背が高くなる可能性が高く、ご両親の頭が大きめであれば、お子さんの頭囲も大きくなる可能性が高い、ということです。

K:なるほど。

高橋先生:例えば、発展途上国などで飢餓によってひどい低栄養になった子どもたちでも、特に頭囲については、大きな影響を受けずに、守られることが知られています。さらに、妊娠中に胎盤の働きが低下して胎児が低栄養の状態になっても、生まれてくる赤ちゃんの頭囲は比較的正常に保たれていることが知られています。

K:そうなんですね。知りませんでした。

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高橋先生:いずれにしても身長、体重、頭囲などの数値が正常に推移していると、順調に“成長”しているということです。これが、成長の話です。次に発達について説明します。“成長”により体が大きくなり、そこに「機能」が宿る過程が“発達”です。生まれたての赤ちゃんの脳は直径10センチくらい。頭囲でいうと33センチくらいですが、これが1歳の誕生日頃には46センチくらいまでに大きくなっていきます。大きくなった脳には、大事な神経の機能が宿っていくのです。

K:成長するにつれ発達するというわけですね。

高橋先生:そういうことです。逆に言うと、“名は体を表す”ではありませんが、頭の形、大きさなど、成長の異常が発達の異常の表れであることがあります。とはいえ、成長や発達には大きな個人差がございますので、頭の大小や形の特徴を、あまり気にする必要はありません。先ほど述べましたように、生まれつきの体質の表れであることも多いので。

K:心配があれば先生に相談することが大切ですね。

高橋先生:ええ。一般的に、お父さん、お母さんが子どもの成長についていちばん気にしているのは体重、それから身長ですが、頭囲はあまり気にされませんよね。

K:頭囲は小さいほうが「小顔」でいいかな、なんて思う方もいるかもしれませんね。大人の世界では「小顔」って、褒め言葉ですし(笑)。

高橋先生:ハハハ、そうですね。実は子どもの成長や発達にとって、ちょうどいい脳の大きさ、ちょうどいい頭囲、つまり正常範囲というものがあります。これをデータ化したのが母子健康手帳にもある成長曲線の中の頭囲曲線です。このグラフはとても重要です。首から下も確かに大事だけど、神経発達の機能が宿るのは脳ですから。脳に機能が宿って、立ち上がり、おしゃべりをするようになるのです。

K:そう聞くと俄然気になります……。目安となる頭囲ってどれくらいなのでしょうか?

高橋先生:生後4か月で、だいたい頭囲40センチあることが目安だと言われています。

K:「4か月で頭囲40センチ」と覚えればいいですね。発達面ではいかがですか?

高橋先生:すべての発達には個人差や誤差があるので、まず、そのことを良くご理解いただきたいと思います。その上で、たとえばのお話をさせて頂くと、赤ちゃんには「声を出して笑う」という発達指標があり、生後4か月を過ぎても声を出して笑わなかったら、発達が思うように進んでいない可能性についてチェックをしても良いかも知れませんね。また、たまに「ウチの子は、生後1か月でハハハって笑ったのよ」ってお母さんもいますけど、そんなに早く声を出して笑う子はいませんよね(苦笑)。残念ながらお母さんの勘違いでしょう。発達につきものの個人差を経験から良く知って、その上で発達の遅れや異常に早く気付くことは、なかなか難しいことです。ここが、ベテラン小児科医の腕の見せ所でしょうか(笑)。

 

生後3、4か月は発達をチェックする大事な時期

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高橋先生:生まれてから最初の12か月間っていうのは、文字通り何もできなかった子どもが、人間としての機能を獲得するための期間なんですね。生後12か月間で身に着ける人間としての機能は何かというと、一つは「言葉によるコミュニケーション」。二つめが「2本の足で歩くこと」。三つめは「小さな物を親指と人差し指でつまむ」ということです。

K:よくよく考えると、たった12か月で、そこまでの機能を獲得するってすごいことですよね。

高橋先生:そうですね。先ほど生後4か月頃の頭囲の大きさ、発達の目安について話しましたが、最初の12か月を「1」とすると、3か月で「4分の1」。ここに“第一関門”があり、ここで赤ちゃんの成長や発達具合をチェックすることがすごく大事なことになります。だからこそ3、4か月健診の時はいろいろなことが詰め込まれているんです。繰り返しになりますが、お医者さんはそこで、成長(身長、体重、頭囲の増加)と発達(声を出して笑う、など)がしっかり進んでいるか、つまり体が形作られて、そこに必要な機能が宿ってきているかを、しっかり診ています。

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K:3、4か月健診では、「頭囲40センチ」と「声を出して笑うこと」などをチェックしているということですね。

高橋先生:目でものを追うようになるのも3、4か月ですし、首が座ってくるのも3、4か月なので、そのあたりも確認します。
そして、第2関門は6か月頃にあります。この時期のポイントのひとつは「つかむ」こと。

K:ものを握る、ということですか?

高橋先生:はい。生後6か月だと周囲の人や物に盛んに興味をもち、自分から手を伸ばしてつかむようになります。先ほど、12か月で獲得すべき機能の三つめに「親指と人差し指でつまむ」を挙げていますが、6か月での「つかむ」はその中間地点です。まずは、この時期につかむことができることが重要となってきます。

K:「つかむ」と「つまむ」は違うんですね。

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高橋先生:そこは明確に違います。人差し指と親指でものを“つまむ”ことは、人間特有の高度な機能なんですよ。
指先で小さいものをつまむという行為は、実はサルにはできません。人間の場合、12か月くらいになると、小さなゴミとか髪の毛などを指先でつまむことができるようになりますが、これが順調に発達していることを示しています。

K:全然知りませんでした! いずれにせよ、まずは6か月でものを「つかむ」ようになっていたら、順調だということですね。

高橋先生:そういうことです。でもすべてのことには誤差があるので、プラスマイナス2か月くらいは平気でずれると思っていてください。ちなみに、立つのは12ヶ月くらい、歩くことができるのは平均で14か月とされていますが、これも個人差がありますので、あくまで参考程度に。

K:個人差があるとはいえ、親としてはついつい子どもの発達ペースって気になってしまいますけどね(苦笑)。先ほど、12か月で「言葉によるコミュニケーション」ができるようになるとおっしゃられていましたが、これはどのくらいのレベルのことを指しているのでしょうか?

高橋先生:“意味のある言葉”を一つ言えるようになる程度です。別に正しい言葉でなくてもかまいません。ごはんが「まんま」とか電車が「じゃ」とか。1歳児健診のときに必ず聞かれる質問ですね。

 

子どもをかわいいと思って育てれば大丈夫!

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K:生後12か月までに、親がこういうことをすると、発達を妨げるということはありますか?

高橋先生:わが子を心からかわいいと思えれば大丈夫。それで十分です。

K:そうなんですか?

高橋先生:はい。もちろん重い病気や慢性の病気、生まれつきの体質に苦しんでいるお子さんや育てにくいなと感じるお子さんもいます。母乳が足りないために粉ミルクの併用もやむを得ない場合もあります。小児科医や保健師などがそのような場合にお力になります。でも大多数の子は、多少の個性はあったにしても、遺伝子の力で正常に成長し、正常に発達することが約束されて生まれてくるわけです。心配はいらないのです。子育ては楽しむためにあるもので、とくに最初の12か月を楽しむかどうかで、それからの子どもの見え方がずいぶんと変わってきます

K:最初の12か月を楽しむ……ただ、いろいろとどうやって子どもを育てたらいいか、悩むことの多いママ、パパも多いと思いますが。

高橋先生:それはそうだと思いますが、自分の子に自信をもって育ててほしいですね。1か月健診から始まり、3か月、6か月と、順次、“関門”(=乳児健診)を通過していくようであれば、まずは大丈夫です。あまり細かいことを気にせずに楽しむことがいちばんです。

K:何が正しい子育てなのかを求めてしまったり、夫婦間で意見が違うと悩みが深くなってしまったりという話もママ、パパからよく聞きますが、それは気にしなくていいことなんですね?

高橋先生:新米のママ、パパが正しい子育てを追及しても、子どもの健やかな成長・発達には大きな影響はない、と理解していただきたいです。むしろ、細かなことを気にしすぎるがあまり、夫婦仲がよかったのに、子育てのことでけんかばっかりしてるなんてもったいないですよ。赤ちゃんから幼児になってもそれは同じことで、保育園にするか、幼稚園にするかとか、お受験させるかどうかとか、ありとあらゆる場面で子どもを大事にしたいという気持ちがあまり強すぎると、本来“幸せの種”のはずの子どもが心配事になっちゃうんですね。

K:それでは本末転倒になってしまいます。

高橋先生:はい。とは言っても、「先生、子育ては大変なんですよ!」って意見ももちろんわかります。そもそも、「あー楽しい!」と思って子育てしている人も少ないと思います(笑)。特に一人目のお子さんについてはどうしても不安になりますからね。でも、ほとんどの子どもはちゃんと育ってくれるんです。そのことに自信を持ってほしいと思います。

子どもが初めて立った瞬間、子どもはニコッ~と笑うんですよね。それは一生で唯一の瞬間で、子どもは覚えていないけど、それに立ち会えたお母さん、お父さんは絶対に忘れないですよね。子育ては大変です。でも、その大変な時期を楽しく、前向きに過ごしてほしい。我が子が初めて立った時に見せたあの笑顔のような、絶対に忘れることができないかけがえのない瞬間を、12か月までの間にどれくらい味わえるか。みなさんには、ぜひとも多くの幸せを感じて、子育てをしてほしいと思っています。

 

<プロフィール>
高橋孝雄(たかはし・たかお)
慶應義塾大学医学部 小児科主任教授 医学博士 専門は小児科一般と小児神経
1982年慶応義塾大学医学部卒業後、米国ハーバード大学、マサチューセッツ総合病院小児神経科で治療にあたり、ハーバード大学医学部の神経学講師も務める。1996年帰国し、慶應義塾大学小児科で現在まで医師、教授として活躍する。趣味はランニング。マラソンのベスト記録は2016年の東京マラソンで3時間7分。別名“日本一足の速い小児科教授”。

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