特別対談 少子化や待機児童はどうなる? 「2020年以降の日本の子育て」

特別対談
少子化や待機児童はどうなる?
「2020年以降の日本の子育て」

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小さな子どもを持つ親御さん、そしてこれからママ、パパになろうという方々にとっては、将来の日本の子育て環境がどのようになっているのか気になるところでしょう。ご存知のように、日本では少子(高齢)化が進んでおり、その傾向は今後も続くことが予想されています(2015年は年間出生率1.45と前年に比べ上昇はしたものの、1991年以降、緩やかな減少傾向にあります。 ※厚生労働省「平成27年人口動態統計の概況」、内閣府「平成26年度版 少子化社会対策白書」を参照)。

これだけ少子化問題が叫ばれてもなお、その波を食い止めることができないのはどうしてでしょうか。そしてその解決策はあるのでしょうか。そこで出産準備サイトでは、現状の子育て環境を鑑みつつ、“2020年以降の日本の子育て”をテーマに、おふたりの専門家に対談を依頼。

産婦人科医であり第2次・第3次安倍内閣で内閣官房参与として少子化対策・子育て支援を総理に進言してきた慶應義塾大学医学部名誉教授の吉村泰典先生と、少子化問題を専門とする社会学者で、内閣府「少子化危機突破タスクフォース」の一員としても活躍する中京大学の松田茂樹先生が意見を交わしました。

 

◆「働く女性が増えたから少子化が加速した」はおかしい

——まずは、現在日本が直面している少子化問題の原因について伺いたいと思います。おふたりはどのような点にその要因があるとお考えですか?

吉村泰典先生(以下、吉村):一般的に言われている少子化の原因としては、「女性の社会進出」があります。キャリア形成を望む女性が多くなり、それに伴って未婚化や晩婚化の傾向が強まり、なかなか子どもを持てない……それが少子化の要因になっていると。

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戦後から70年代初頭までは上昇傾向にあった婚姻率と婚姻件数ですが、その後は右から下がり

——女性の社会進出が進むにつれて、未婚化や晩婚化の傾向が強まったとはよく聞きますが、こうやって表で見ると、こんなに下がっているんですね…。

吉村:ところが海外においてはね、そうした“働く女性”が多いにも関わらず、少子化を克服した国はいっぱいあるんですよ。ですから僕は、女性の社会進出が少子化の原因とは単純には言えないんじゃないかとは思っています。

松田茂樹先生(以下、松田):その通りで、働く女性が増えてきたことが、必ずしもダイレクトに少子化に結びつくものではないです。それは世界どこでもそう。最新の研究では、女性が子どもを持とうとしたときに、子育ての役割と他の役割(仕事や自分の生活等)とのバランスがとれるということが、出生率の高い国に共通する条件なのではないかとも言われています。

——女性が家の外で働くことと子育てをうまくバランスを保ちながらやれている社会では、出生率が高いというわけですね。

松田:はい。ですから、たとえば仕事においては、ものすごく働くコースと、少し緩い働き方のコース、そして一旦は専業主婦になるものの、復職して同じような職に就けるコース…など、選択肢を整えてあげることが日本にも必要なのではないかと思います。

吉村:その通りですよね。一口に「働く女性」といっても、ものすごく多様性があるわけですから。

松田:仕事というのは、やはり選択するべきものですし、自分の能力、体力、価値観によっても違ってきます。しかし日本では、少し緩い働き方に対する待遇が低すぎる。

——少し緩い働き方、つまりパートタイムであるとか時短や定時で帰れる仕事に対して待遇が低いと。

松田:そうですね。パートにしても昇進の機会が少ない。子育てと仕事が両立しやすい国というのは、そうしたところがしっかりと作られているため、さまざまな働き方のチョイスができるんですよ。そのようなワークライフバランスの問題は、日本の少子化を考える上で大きな問題かと思います。

吉村:日本の場合、女性は結婚をしないと子どもを産めない状況にあります。婚外子は約2%くらいしかないわけです。僕はこれも少子化の一因じゃないかと見ています。出生率を回復してきたヨーロッパの国々をみると、婚外子の割合が50%を超える国はいくらでもあるんですね。オランダに関しては、この30年で10倍近くも増えている(アメリカ合衆国商務省「Statistical Abstract of the United States 2012」など参照)。日本でも近年、婚外子を巡る環境は良くなってきてはいると思うんですけど、欧州で起こったような急速な変化はやはり日本では起こりにくいですか?

松田:急速に婚外子が増えるとはみていません。その理由を二つ挙げると、ひとつには、日本はまだ婚外子を法的に保護する仕組みが弱い。もうひとつは日本だけでなく、韓国やシンガポールなどについても言えることですが、アジアでは依然として家族や結婚に重きを置いています。家族制度が強いんです。それに対し欧州では、いわゆる伝統的な家族生活よりも個人の生き方重視、自己実現重視といった価値観の変化がこの数十年の間でありました。もちろん日本で同じようなことが起きれば変わるかもしれませんが、それはなかなか難しいと言わざるを得ません。

吉村:となると、日本において出産は、結婚とセットと考える必要が今後もあると。

松田:そうですね。データをみても、子どもをもうける前に結婚したいという意識が強いようです、若い世代でも同じですね。

 

◆日本は子育てしやすい国、しにくい国?

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——現状の日本における、子育てを巡る環境については、どのように考えていらっしゃいますか?

松田:日本での子育ての良いところは、ひとつは「安全」ですよね。医療の分野も死亡率は低いですし、犯罪なども含めて安全面は素晴しい国だと思います。それから「教育」ですね。世界に誇れる教育水準だと思います。少なくとも、幼児期教育、義務教育期の学力は世界最高レベルです。大学はちょっと負けていますが。教育がそれだけ受けられるということは、子どもにもそれだけチャンスが広がっている国なのではないかと。また、家族や親族の力が強いということも、子どもを支えられる環境にあるということです。最低限この三つは、良い面として見ていいんじゃないかと思います。

——治安や医療を含めた「安心・安全」、世界屈指の「教育水準」、そして家族や親族の「絆」。この3つに関しては子育てしやすい社会だということですね。

松田:一方で、この国で子育てをするときに不安なのは、「お金」なんですね。やはりものすごい負担、プレッシャーがあります。それは具体的なデータでもありまして、欲しい子どもの数は2.32人、だけど予定は2.01人、実際産んでいるのは1.94人なんですね。この差の背景に何があるかというと、一番はお金。56%の女性はお金の問題で産めないと言っています。そこが、我が国が弱いところだと思います。

——半数以上の女性が金銭的理由で産めないですか……。1991年以降、出生率は低下傾向にありますが、2015年はやや上昇しています。その理由については、どうお考えですか?

松田:そこもお金です。自治体ベースで見たとき、出生率が上がっている自治体の共通点は、幅広く支援をしているということなんですね。つまりこれが何を意味しているかというと、さまざまな局面を幅広く支援してあげないと産めないということです。あるひとつの施策をやったからといって出生率が回復するわけではなく、幅広く地道にやっていくことで効果が出てきたんじゃないかと。もちろんそこには、経済支援が含まれます。

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吉村:岡山県の奈義町では、出生率が2005年には1.41だったのが、2014年には2.81と上がっていますが、非常に幅広い支援をしています。出生の祝い金や不妊の治療費も出すし、乳幼児児童の医療費も無料。3人目以上の子どもに関しては、保育料が無料といったようにね。これは、お金を使わないと子どもが増えないことを示しているんじゃないかと。

——子どもを産むのも育てるのもお金は必要ですから、国や自治体から経済的支援があるのはありがたいことです。

吉村:ただ、現在国の子育て予算は、GDPのわずか1.3%、金額にして6兆円です。これって高齢者向けの予算に比べたら非常に少ないわけです。

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——水色が高齢者向け、黄色が家族関連ですか。金額ベース見ても、その差は歴然ですね。

吉村:そして子育て予算6兆円の大半は児童手当に消えているわけです。つまり現金給付につかっている。だからその児童手当を、幼児教育の無償化や高等教育の費用負担軽減など現物給付にまわしたらどうかというのが、僕の考えなんですけどね。

松田:僕の意見は少しだけ違っています。日本の場合、子育て支援に関しては「現物」も「現金」も足りていません。ですので、現物だけ増やして現金を増やさないというのでは、たぶん出生率回復には結びつかないだろうというのが僕の見立てです。

吉村:なるほど。もう少し詳しくお聞かせください。

松田:現金給付は、安心を生みます。だからベースとしてはやるべきです。少子化を克服した他の国の場合、それをやった上で、手厚く現物給付をしているんですね。しかし日本は、とくに教育面を中心として費用負担の大部分を家族(主に親)がしますね。そこにやはり問題があると思います。つまり出生率を回復させるためには、現金も現物も手厚くできるように、子育て支援の総額を増やすしかないと思うんですね。

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——となるとやはり財源の問題にぶち当たります。

松田:そうです。そこでどこからその財源をとるかということですけど、どこにもお金がない(苦笑)。やはり増税をある程度していくことも視野に入れないといけないと思います。

吉村:僕も同意見です。消費税を含めてね、バランスを見ながらどこかで増税を決断していく必要があるでしょう。もちろん増税なんて、誰もが嫌がることです。ただね、このまま少子化を野放しにすることは、国家存続の危機につながる。それを一人一人が認識をし、この国の最大の課題であるという認識をずっと持ち続けないと。数年では何も変わらないんですよ。20年後、30年後にどうなるかということを考えていかないといけない。

 

◆深刻な待機児童問題……でも、実は保育園は足りている?

——一人一人が少子化について問題点、課題点をきちんと認識すべきということですが、例えば吉村先生は産婦人科医ですが、そのお立場からその他にも何か思われるところはありますか?

吉村:子どもを産むということについての考え、意識の変革が必要だと思います。いまの若い世代は、生殖に関する知識が非常に乏しい。これは学校教育で、避妊と性感染症についてばかりを一生懸命教え、生殖に関する知識を教えてこなかったことに因ります。どうやったら子どもができるのか、つくりやすいのかということも教えていかないといけないんです。我々産婦人科医も、学校教育でそれらを教えてこないといけなかった。ですから生殖活動の減少は、ある意味、いまの若い女性、男性が悪いわけではなくて、教育する側、我々が大いに反省すべきことなんですよ。

——少子化を克服した国では、そのあたりもしっかりやっているということでしょうか?

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吉村:ええ。欧米では、そうした教育は、ものすごい若いうちからやっています。女の子に月経がきたとき、「そういうこと」を詳しく教えます。もちろん日本でもやりますが、それ以上に。たとえばお母さんが産婦人科に連れてくるんですね。そして産婦人科で避妊のピル飲む。ピルというのは避妊のためだけに飲むのではなく、8割は月経を改善するため、痛みを取ったり出血量を減らすために飲むんです。だけど、日本ではそういったことがなく、産婦人科の“垣根”が非常に高い。本来産婦人科は、妊娠したときだけではなくて、女性がよりよいライフをすごすために行くものなんですが、そうは思われていません。ここも教育をしてこなかった我々自信が反省すべきことかもしれない。

——松田先生は社会学というご自身の専門の立場から思われるところはありますでしょうか?

松田:社会学の分野から日本の子育てを見ていて2点思うところがあります。ひとつは、子育てをするとパパ友、ママ友ができること。それにより子どものネットワークが増えていくんです。そして親自身においては、色んな情報が入ってくることで育児不安からくるストレスが下がります。もうひとつは悪い話なのですが、かつて私も関わった内閣府が行った調査で、海外で子育てをしたことのある日本人100人に聞いたところ、みなさん声を揃えて「海外の方が子育てをしやすかった」とおっしゃったんです。

——安心・安全で教育レベルも高いなど子育てしやすい環境が日本では揃っているのに、それでも海外の方が子育てしやすいと…。どうしてでしょうか?

松田:もっとも多く共通して出てきた理由は、他の国の方が子どもを連れて歩いているときに声を掛けてくれたから。シンプルなことですけど、すごく大事なことなんですね。もちろん声掛けだけでなく、困ったら手助けしてくれる。日本ではそれがほぼないので、子育て中の親はすごく孤独を感じるらしいんです。

吉村:それ、すごくわかりますね。僕も子どもが4歳くらいのときに一緒にアメリカで暮らしていたんですけど、みなさんが本当にすぐ「かわいいね」って声をかけてくれました。それだけでね、うれしいものなんですよ。ただ、日本ではそういうことはあまりない。日本はそういうことができないような社会になっているのかもしれないですね。

——「子育て中の親が暮らしづらい社会」とまで言うと大袈裟かもしれませんが、そうした傾向は昔からあったのでしょうか?

松田:一般的に言われていることとしては、過去の方が地域の付き合いがあったと。

吉村:それがいつからか核家族になって、都会への流出が増えて非常に変わってきましたよね。子育てを支援する上では、そういった社会を形成していくということも大事かもしれません。たとえば、待機児童問題で保育園を作ろうとしたとき、周りの住民がうるさいと反対することがありますね。個人的にはこういう反対運動があるのはさみしいことだと思ってますが…松田先生はどう思われますか?

松田:私は、その部分に関しては住民の意見の通りだと思います。

吉村:おや、そうですか(少し驚きの表情で)。その意図は?

松田:そもそも保育園が足りない地域、特に東京23区内では、住宅地の中などかなり“無理なところ”にも建てようとしていますよね。それじゃ、反対する人がいるもの仕方ないことだと思います。社会正義を盾に、一部の人に負担を押し付けるのはあまりよくないことだと考えています。

吉村:ただ保育園は足りていませんね。

松田:僕はそこから疑いを持っています。人口減少なども含めると、むしろ保育園はすでに設置しすぎなくらいあります。いまある施設、いまある制度をうまく使っていくだけで、保育園にそこまで頼らずとも子育てはできます。たとえば育児休業。子どもが0歳児のとき育児休業をしっかり取るようにできれば、その分保育園に空きが生まれます。そこに1歳児、2歳児を持っていけば、現状の保育園の数があれば一瞬で待機児童はなくなります。

吉村:なるほど。先生は育児休業について、どのくらいの期間で考えていますか?

松田:1年から2年です。もうしっかり取ってもらいます。

吉村:結構長い期間ですね。

松田:スウェーデンなどはそうなんですよ。あの国では0歳児保育がない。ノルウェーもそうです。少なくとも0歳児のうちは在宅でやっていくというのがヨーロッパの流れです。誤解を恐れずに言うと、日本の子育ては保育園に頼りすぎています。現状の制度をうまく運用したり、拡張すれば多くの問題は解決します。そもそも日本においても、80%の自治体では、待機児童はいません。問題になっているのは、ひたすら東京の23区内です。

吉村:たしかに東京でも、あと5年くらいたったら保育園は余ってくると思います。一生懸命、新しい施設を作ることばかり考えずに、たとえば幼稚園をもう少し上手に使ったりする方法を考えた方がいいのかもしれない。もちろん一律に育児休業を1年も2年も取りましょうということであれば、それはそれで現実に即していないとは思います。もっと早く現場復帰したいお母さんも多いでしょうし。

松田:そうですね。そこは選択肢に幅があってもいいと思います。ただ例外を除いて0歳児は在宅でじっくり子育てできるような社会になれば、現在の待機児童問題は解消される。そのことは知っていてほしいですね。

——待機児童問題を考えるにあたっては、ついつい新規施設をつくることに考えがいきがちですが、もっと他のやり方もあるというご意見は大変勉強になりました。

松田:ただ、これは「僕の考え」であって正解かどうかはわかりません。少子化に関しては、長期的な取り組みをしないと回復していかない性質のものですので、そこは曖昧にならず、目標を掲げ続けることが必要だと思っています。今後も、いろいろな可能性については是々非々で議論していきたいと思います。

吉村:そうですね。いまの少子化の問題は、経済的、政治的、さまざまな問題を包含しています。少子化というのは一番難しい課題でもあり、放置すると日本という国がなくなってしまいかねない。だからこそ、もう少しみんなが真剣に考えて欲しいと思うんですよ。ひとりひとりがもっと危機感を持って、自分の子ども世代のために何かしていかないと。子育てをしっかりすることはもちろん大事です。ただ、子どものことを思うなら、目の前の子育てだけでなく、この国がどのような国になるのかということを長期的な目で見る必要があると思いますよ。

 

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【プロフィール】

吉村泰典(よしむら・やすのり)
1949年生まれ。産婦人科医、慶應義塾大学名誉教授。日本産科婦人科学会理事長、日本生殖医学会理事長を歴任した不妊治療のスペシャリスト。これまで2000人以上の不妊症、3000人以上の分娩など、数多くの患者の治療にあたる一方、第2次・第3次安倍内閣では、少子化対策・子育て支援担当として、内閣官房参与も務める。

松田茂樹(まつだ・しげき)
1970年生まれ。中京大学現代社会学部教授。専門は少子化対策、子育て支援、家族論。第一生命経済研究所主席研究員をへて現職。内閣府「少子化危機突破タスクフォース」構成員。著書に『少子化論―なぜまだ結婚・出産しやすい国にならないのか』、『何が育児を支えるのか―中庸なネットワークの強さ』、『揺らぐ子育て基盤―少子社会の現状と困難』など。

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