この冬、気をつけたい感染症プレママの大敵「風しん(風疹)」 パパ世代に“ワクチン未接種”が多い理由

この冬、気をつけたい感染症
プレママの大敵「風しん(風疹)」
パパ世代に“ワクチン未接種”が多い理由

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寒い季節に流行る感染症といえば、インフルエンザや感染性胃腸炎が代表的ですが、この冬は「風しん(風疹)」にも注意が必要です。国立感染症研究所では、今年8月以来、すでに17回(12月11日現在)の「風疹急増に関する緊急情報」を出し、感染予防を呼び掛けています。

「風しんウイルス」によって感染する風しんは、潜伏期後半にも感染力があり、気がつかないうちに周りの人に移してしまうこともあるやっかいな感染症。そればかりでなく、妊娠20週頃までのプレママが感染すると、胎児も感染し、「先天性風疹症候群」と呼ばれる障害につながる可能性があります。

今回は、国立感染症研究所感染症疫学センターの多屋馨子医師に、風しんの現状と対策を伺いましょう。

 

生まれてくる赤ちゃんのために、やっておくべきこと

今年、医療機関から保健所に風しんとして報告された患者さんの症状をみると、99%の人に発疹、90%の人に発熱が見られました。耳の後ろや首などのリンパ節が腫れる人も60%いて、その3つの症状が風しんの特徴的な症状とされていますが、3つともそろっている人は約半数でした。

風疹ウイルスに感染しても症状が軽いことがあります。しかしながら、重症化すると脳炎や血小板減少性紫斑病(しはんびょう)を合併する例も報告されていて、決して油断はできない疾患なのです。

そして何より注意すべきはプレママへの感染。「特に妊娠20週頃までの妊婦さんには気をつけてもらいたい」と多屋先生はおっしゃいます。

「赤ちゃんは、お母さんのおなかの中でからだができあがっていきます。妊娠2か月ごろに目ができて、それから心臓や耳ができあがっていきます。お母さんが風しんウイルスに感染すると、風しんウイルスは血液中を回ります。だから、おなかの中でお母さんとつながって成長している赤ちゃんにも感染してしまいます。そうなると『先天性風しん症候群(CSR)』となって産まれてくる可能性が高くなります。妊娠初期の“からだをつくる時期”に感染すると、そこに障害が残ってしまうことがあるんです。なお、『先天性風しん症候群(CSR)』の代表的な症状は先天性心疾患、難聴、白内障などです」(多屋先生)

風しんウイルスは、飛沫感染、接触感染で人から人へ移ります。そして、先生は「マスクや手洗い、うがいでは防げるものではありません。風しんを予防する唯一の方法は、ワクチンを接種してからだの中に免疫、抗体を作っておくことです」と言います。

ワクチン接種は、妊娠してからはできないので、妊娠前に夫婦で抗体検査をすることが望ましいです。そして、抗体がなければ、もしくは低ければ、すぐにワクチン接種をしましょう。ワクチンを接種した後2か月間は妊娠を避けます。

妊婦だけでなく、パパの感染に注意して

今年12月5日の時点で、風しんと診断された人の数は2,454人となり、前の週より141人増加しています。この数は、風しん患者の発症を届け出ることが医師に義務付けられた2008年以降の患者数としては、2013年の14,344人、2012年の2,386人に次ぐ多さです(※同時期の患者報告数を見ると2012年以上のハイペース)。

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出典:国立感染症研究所 感染症発生動向調査より

データからも明らかなように、日本では、風しんは何年かに一度の流行を繰り返しています。「一生のうち、1歳以上で2回ワクチンを接種している記録を持つことがまず大切です」(多屋先生)という、“対策が可能な感染症”であるにもかかわらず、なぜこのように定期的に流行を繰り返しているのでしょうか?

多屋先生はこう言います。

「ワクチン未接種の方が、ある年齢層で極めて高いからです。現在、まさに“パパ世代”の30~50代の男性は抗体を持っていない人が多くて、いま風疹に罹っているのは、この世代が圧倒的に多数を占めています。そして問題は、ワクチン接種の重要性や、風しんのこわさを知らず、自分がワクチンを接種したことがあるのかも、抗体を持っているのかも知らないことが多いことです」(多屋先生)

ちなみに今年報告された風疹患者さんのうち96%が成人で、男性の報告数は1999人と女性の455人の4.4倍です(2018年12月5日現在)。下のグラフからも、風しんウイルスに感染するのは、働き盛りのパパ世代である30代から50代の男性が多いことがわかります。

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出典:国立感染症研究所 感染症発生動向調査より

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出典:国立感染症研究所 感染症発生動向調査より

そもそも、どうして30〜50代の男性はワクチン接種率が低いのでしょうか? その理由について、次の章で、多屋先生に教えていただきましょう。

パパ世代に“ワクチン未接種”が多い理由とは

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国の予防接種法で定められている風しんの予防接種は、現在麻しん風しん混合(MR)ワクチンとして、1歳の誕生日以降のできるだけ早い時期に1回と、小学校入学前の1年間の間に1回の合計2回受けることになっています(子どもの患者数が少ないのは、そのためです)。

ところがこの制度が始まる前は、年代によって接種の方法が違っていたので、ママ・パパにとって、自分が風しんワクチンの予防接種を受けているかを正確に認識するのは、実はなかなか難しいことなのです。

「ご存じない方が多いのですが、1979年4月1日以前に生まれた人、つまり現在(2018年12月1日)の年齢が39歳8か月より上の男性は、子どもの頃に風しんのワクチンを接種する機会がありませんでした。親御さんが医療関係者とかでない限り、まず接種していないでしょう。ただ、その年代の男性は『必要な予防接種は全部接種しました。だから風しんも大丈夫』と思っていたりする。でも、大人になって自分で接種を受けに行ってない人以外、その年代の男性は、ほとんど誰も接種していないんです」(多屋先生)

下の図は、年齢を追って、どのようなワクチン接種制度が行われていた世代に属するかを表したものです。

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国立感染症研究所の資料から編集部にて作成

先生が指摘するように、現在の年齢が39歳8か月より上の男性と56歳8か月より上の女性には、定期予防接種のチャンスが1回もありませんでした。

一方、定期予防接種が定められていた年齢であっても、免疫がない人が多いようです。2018年12月1日現在31歳2か月から39歳8か月の世代は男女問わず接種率が非常に低いのですが、これは「中学生時代に保護者同伴で個別に医療機関に行って受ける」というものだったため。

1990年代の後半から、中学生の接種率が低いために、将来、妊婦さんの風疹に対する抗体保有率が低くなり、ワクチン未接種率の高さが「先天性風疹症候群」の発生につながるのではないかということが小児科医などによって、指摘されるようになりました。そこで、国が定期接種として受けられる期間を延長して、風しんワクチンの接種を呼び掛けたりと、様々な方策がとられましたが、成果をあげるまでには至らなかったそうです。

「制度の周知徹底が難しく、接種率がほとんど変わらないまま今に至っているような状況です。その結果、特に接種率の低いパパ世代が風疹にかかることが多くなってしまった」と多屋先生は言います。

パパになる男性が感染すると、妊娠中のママに移るリスクが高まります。たとえママが抗体を持っていても、(感染に気づかない)パパがママに付き添って産婦人科に行けば、たまたま近くにいた妊婦さんが感染してしまうかも知れません。

「パパ世代が抗体検査やワクチン接種を受けやすい環境を整えることも必要だと思っています。でも今は、まずこの現状を知ってもらわないといけない」(多屋先生)

私たち一人ひとりが、風しんを「自分の健康のこと」としてだけでなく、社会全体で考える問題としてとらえることが、感染をなくしていくためには必要です。この記事を読んだみなさん、まずは風しんの抗体検査をしてください。

続く後編では、風しんの抗体検査やワクチン接種などの具体的な方法をご紹介いたします。

 

【プロフィール】
多屋 馨子(たや けいこ)

国立感染症研究所 感染症疫学センター 第三室 室長、医学博士。高知医科大学(現 高知大学)医学部医学科卒。大阪大学医学部小児科学講座、同 微生物学講座を経て、2001年より国立感染症研究所、2013年から同研究所 感染症疫学センター室長。専門は臨床ウイルス学、小児感染症学。現在の研究課題は予防接種、ワクチン、麻しん、風しん、水痘、急性脳炎、急性弛緩性麻痺など。研究者として勤務しながら、2人の子どもを育てた先輩ママ。

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