妊娠ができなくなるわけではありません 「子宮内膜症」の原因と対策 ~子宮のトラブル~(後編)

妊娠ができなくなるわけではありません 
「子宮内膜症」の原因と対策 
~子宮のトラブル~(後編)

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民間の医療政策シンクタンク日本医療政策機構が2016年に発表した「働く女性の健康増進に関する調査結果」(※1)によると、婦人科系疾患を抱える働く女性が1年間で支払う医療費は1.42兆円。仕事を休むことによる生産性損失の4.95兆円を合わせると、婦人科系疾患による経済的損失は少なくとも年間6.37兆円にのぼるとされています。平成30年度版の男女共同参画白書(※2)では働く女性の数が2,859万人とされていますから、1人当たりでは年間22万円余りの損失ということになります。

また、この調査では定期的に婦人科を受診している女性は全体の約2割しかいないこと、受診しない理由として5割の人が「健康なので行く必要はない」と答えていることが報告されています。

子育てをがんばるママ、仕事と家事の両立に奮闘するプレママやママの毎日は時間との戦いですから、自分のからだのことは後回しになりがちかもしれません。そんなプレママ、ママたちにぜひ知っておいていただきたいのが「子宮内膜症」という最近急増している婦人科系疾患。増加の理由や症状、治療法について、慶應義塾大学医学部名誉教授の吉村泰典医師にお話を伺っていきましょう。

 

子宮内膜症、急増の要因は晩産化と少子化

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子宮内膜とは子宮の内側を覆っている膜のこと。排卵がおこると子宮内膜は妊娠に備えて厚くなってきますが、妊娠が成立しないとはがれ落ちて血液とともに排出され、月経が始まります。その後、新しい子宮内膜ができ、妊娠しないとまたはがれ落ちるということが一定の周期で繰り返されるのです。これらの生殖器の働きをコントロールしているのは、エストロゲンなどの女性ホルモン。

子宮内膜症というのは、本来なら子宮の中にあるべき子宮内膜のような組織が、体のほかの場所にできて、増殖、進行する病気のこと————吉村先生は、そう言います。

子宮内膜症ができやすい場所は、骨盤内の卵巣、腹膜、子宮と直腸の間にあるくぼみのダグラス窩(か)など。卵巣にできたものは卵巣チョコレート嚢腫(のうほう)と呼ばれ、卵巣がんにもつながるとされています。

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(慶應義塾大学病院KOMPAS※から許可を得て転載 )

「子宮の内側からはがれ落ちた子宮内膜は月経として体外に排出されますが、子宮以外の場所で増殖した子宮内膜や子宮内膜の類似組織は、血液のかたまりとなって体内に留まって炎症を起こします。周りの臓器などと癒着(ゆちゃく)することもあり、痛みや月経困難症などいろいろな症状を引き起こします。しばしば不妊の原因にもなることもあります」(吉村先生)

子宮内膜症の原因は完全に解明されているわけではありませんが、発症までの月経の回数と発症のリスクは連動しており、月経とエストロゲンが影響していることがわかっています。こうしたことから、子宮内膜症の増加は現代女性の月経回数に関連があると言われています。

なお、吉村先生によると「1998年に子宮内膜症で治療を受けた人は12万6千人だったのが、2014年になると21万9千人になっていて、これは性成熟期の女性のうち10人に1人」とのこと。

なぜ、ここまで増えているのでしょうか? 吉村先生はこう指摘します。

「昔の女性は初経が15歳ぐらいで始まり、若いうちから子どもをたくさん産んだために、妊娠と授乳によって月経がない期間が長いのが普通でした。ところが近年は初経の低年齢化が進んでいる上に、晩産化、少子化で閉経までの月経の回数が格段に増えています。たとえば昔の女性は4人くらい子どもを産むことも珍しくありませんでした。その場合、生涯の月経回数は200回ぐらい。それに比べて現代の女性は、子どもを産まない場合で450回ぐらいの月経がある。それだけで子宮内膜症のリスクは高くなります。仮に35歳で子どもを産んだとしてもそれまでに200回の月経があるわけですからね。妊娠前に子宮内膜症に疾患する方が増えているのは、そういう理由が考えられます」(吉村先生)

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(出典:子宮内膜症Fact Note/日本子宮内膜症啓発会議)

激しい月経痛は発病のサインかも知れません

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子宮内膜症の主な症状は、月経時の強い痛みと不妊です。

「痛みの強さは内膜症ができた位置に関係しています。痛みが強くて学校や仕事を休まなければならなかったり、家事ができなくなったりするのはつらいですよね。子宮内膜症の痛みは毎日を幸せな気持ちで快適に送るための尺度であるQOL(Quality Of Life/生活の質)が著しく低下する原因になってしまいます。また排卵障害、受精障害、着床障害など不妊にもつながります。子宮内膜症患者の30~50%が不妊症であり、不妊症患者の25~50%に子宮内膜症が見られます」(吉村先生)

それでは子宮内膜症を予防する方法はあるのでしょうか。日本子宮内膜症啓発会議がまとめた「子宮内膜症Fact Note」(※2)によると、子宮内膜症の前兆となる月経困難症を器質性月経困難症と呼ぶそうです。

この月経困難症が進行して子宮内膜症になり、卵巣の子宮内膜症は将来卵巣がんになる恐れもあると言います。

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(出典:子宮内膜症Fact Note/日本子宮内膜症啓発会議)

「女性には月経の痛みぐらい我慢するものという意識があるために、受診せずに市販の鎮痛剤でやりすごす人も多いのですが、治療しないと病気は進行してしまうかも知れません。器質性月経困難症や子宮内膜症であれば根本的な治療が必要です」(吉村先生)

子宮内内膜症には“痛み”という自覚症状があるわけですから、病気のサインを見逃さず早期発見と早期治療を心がけたいですね。

子宮内膜症の予防にピルなどホルモン療法も効果的です

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子宮内膜症の治療は、薬物によるホルモン療法と、外科手術で行われます。症状が軽い場合は、ピルなどのホルモン剤で排卵を止めて子宮内膜の増殖をおさえ、進行を止める治療が行われます。

癒着やチョコレート嚢腫が見られ手術が必要な場合でも、可能であれば年齢や妊娠の希望を考慮して腹腔鏡手術で部分的に患部を取り除く場合もあります。外科手術の後は再発防止のためにホルモン療法が行われることがあります。

「日本ではホルモン療法に対する偏見が強いですが、欧米では2000年ぐらいから月経が体に与える影響を考慮してピルの連続投与が始まっています。妊娠を希望していない場合は、女性ホルモンをコントロールして年に2回ぐらいしか月経を起こさないようにしてしまうんです。そうすることで、子宮内膜症の予防・改善に寄与するだけでなく、月経がもたらす生活への影響を最小限にすることが可能です。女性が自身の月経をコントロールすることができれば、子宮の疾患だけでなく、生活をより質の高いものにすることができます。私が医師として日本のみなさまに訴えたいのは、ピルへの誤解を解いて、女性が積極的にピルを利用してほしいということです」(吉村先生)

一般的には「避妊薬」のイメージが強いピルですが、子宮内膜症を予防・改善するばかりでない、女性のQOLを上げるという副効用もあると吉村先生は繰り返しおっしゃいます。

家族の明るい毎日のためにはママ、プレママは元気でいたいですね。家族みんなのために、年1回の定期検診はもちろん、「最近月経時の痛みが強くなった」「月経血の中のレバーのようなかたまりがある」「なかなか妊娠できない」など思い当たることがあれば、できるだけ早目に婦人科を受診してくださいね。そして医師と相談の上で、ホルモン療法という方法も選択肢のひとつに入れてみてはいかがでしょうか。

 

<参考資料>
(※1)「働く女性の健康増進に関する調査結果」(日本医療政策機構 2016年)
https://hgpi.org/lecture/444.html

(※2)男女共同参画白書(内閣府 平成30年度版)
http://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/h30/gaiyou/html/honpen/b1_s02.html

(※3)「子宮内膜症 Fact Note」(日本子宮内膜症啓発会議 2013年)
http://www.jecie.jp/jecie/wp-content/uploads/2014/01/bf32e43950a8bd66920b77f82acc3477.pdf

<画像提供>
(※)慶應義塾大学病院KOMPAS: http://kompas.hosp.keio.ac.jp/contents/000096.html

 

dr

【プロフィール】
吉村泰典(よしむら・やすのり)

1949年生まれ。慶應義塾大学名誉教授 産婦人科医。日本産科婦人科学会理事長、日本生殖医学会理事長を歴任した不妊治療のスペシャリスト。これまで2000人以上の不妊症、3000人以上の分娩など、数多くの患者の治療にあたる一方、第2次~第4次安倍内閣では、少子化対策・子育て支援担当として、内閣官房参与も務める。「一般社団法人 吉村やすのり 生命の環境研究所」を主宰。

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