健康、お金、仕事、家事をトータルに考えて、自らの望む結婚、妊娠、出産を! 
東京・文京区が発行した『ライフ&キャリアデザイン ワークブック』に注目

ミキハウス編集部

東京・文京区の成澤廣修区長は、2007年に文京区長に就任以来、「子どもたちと高齢者への応援歌」をマニフェストに掲げてきました。これまで数々の施策を打ち出すなかで、区長は文京区の「合計特殊出生率」の低さに着目。子どもを産み育てることが可能な女性の、非婚化や晩婚化の問題について何らかの手を打つ必要があると感じたそうです。そこで、2014年5月に立ち上げたのが「ぶんきょうハッピーベイビー応援団」。成澤区長も委員である政府の「少子化危機突破タスクフォース」での議論を踏まえ、文京区版の少子化対策である「ハッピーベイビープロジェクト」を推進してきました。

成澤区長は言います。「地方自治体として何ができるかを考えたとき、最も大切だと思ったのは、男女ともに正しい知識を早く届けること。特に女性がキャリアを重ね、ひと段落したところで妊娠しにくいことなどのさまざまな事情に気づくということは、なくしていきたいと思いました」(「イクボス区長・成澤廣修さんに聞く『子どものことを第一に考える』子育て」より)※https://baby.mikihouse.co.jp/information/post-2668.html

2015年3月には、中学生向けの学習教材『For Your Great Future』を発行。後で「知らなかった」ということがないように、女性・男性の身体や妊娠のプロセス等についてまとめ、思春期からバランスのとれた食生活や生活習慣に気をつけて、健康的な身体づくりをしていくことが将来の妊娠、出産には大切なことや、過度なダイエットが女性の身体に大きな影響を与えることなどを啓蒙しました。

また、同じく2015年3月22日には、後楽園で「ハッピーベイビー・フェスタ」を開催。妊娠、出産を望む区民に対して、シンポジウムや講演会、子育て応援企業の取り組みを紹介し、これからのライフプランを考えるきっかけになるイベントを実施しました。(「第1回ハッピーベイビーフェスタイベントレポート 子どもを生み育てたいすべての人が、笑顔になれるように!」)※https://baby.mikihouse.co.jp/information/post-3415.html

そして、今年1月11日には文京区で開催された成人の日記念「はたちのつどい」で『ライフ&キャリアデザイン ワークブック』を配布。これは、今から将来について考えることや妊娠・出産の正しい知識を得ることなど、これからの若い人が健康で豊かな生活を送っていくために作成されたガイドブックです。

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約50ページにわたる中身は、「ライフ&キャリアデザインとは」「ワークライフバランス」「健康ロードマップ」「お金について考えてみる」「保険を考える」「知っているようで知らない妊娠と出産」「子育てとキャリア」など、人生設計を考える上で知っておきたい予備知識などがコンパクトにまとめられています。さらに、各項目には自分のことを書き込むスペースが設けられ、自身が考えたことを記入することで「今」時点での未来に向けた自分だけの「ライフ&キャリアプラン」ができ上がる仕組みになっています。

このような工夫満載のワークブックを作成した「ぶんきょうハッピーベイビー応援団」の事務局・渡邊了さん(文京区保健衛生部健康推進課長)に話をうかがいました。

 

若い男性が漠然と抱く経済的不安が結婚のハードルに
「そんなに心配しなくても大丈夫だよ」と教えてあげたい

――今回、ライフデザイン学習冊子『ライフ&キャリアデザイン ワークブック』を作成した狙いについてお聞かせください。

今の若い人たちは、将来自分がどう生きていくか、経済的にどのような生活を送りたいか、子どもが欲しいタイミングはいつか、そもそも結婚するのかしないのかなど、多様な選択が可能な時代になりました。

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行政としては「健康」という観点で、将来子どもを欲しいと思ったときに「産めない」という状況がないようにしたい。つまり、適切なタイミングで正確な情報を提供したいと考えています。結婚・妊娠・出産・育児というライフイベントについて考えるとき、女性・男性を問わず、まず自らを知る必要があります。自分自身を知って社会人となり、将来のライフイベントなど大きな流れを総合して一冊にまとめたものがあれば、若い人たちの人生設計に役立つのではないかと思ったんですね。

そこで、今回のワークブックは自分の健康、お金、仕事、家事などについてトータルに考えて、自分のキャリアをデザインするきっかけになるように作成しました。繰り返しになりますが、日本は多様な生活の仕方を選択できる社会になったので“どういう生き方をしなければならない”ということはありません。しかし、どんな生き方をするにしても「最低限必要な知っておくべきことはあるよね?」という情報をまとめたつもりです。

――「ライフ&キャリアデザインのまとめ」のページには「10年後の自分」を記入するスペースがあります。そこには、仕事、趣味、家族・住居などの各項目に「How much(コスト、収入)」とお金について記入する欄が設けてあります。また、「お金について考えてみる」というページでは、結婚、出産、子どもの教育にかかる費用や、10年間で200万円貯金するための具体的なプランなど、全体にわたって人生におけるコストやライフイベントにかかる費用を意識させる内容になっています。

将来のライフプランを考えるにあたって、どのようにお金の算段をしていくかイメージしてもらいたいと思いました。例えば、子どもの教育について、幼稚園から大学まですべて私立に行かせた場合、通算約2,000万~2,500万円かかると言われていますが、これを月額に直したときにいくらになるのか。また、自分の夢を追いかけたり、生活を維持していくのにいくらぐらいかかるのかが把握できれば、自身の将来を考えていくひとつの基準やきっかけになります。そこをしっかり理解することは大切だと考えて作成しています。

――成人式の会場で「何歳で結婚したい?」「何歳で子どもをほしい?」と尋ねたところ、男性からは「自分の生活にメドが立ってから」「一人前になってから」という答えが多く返ってきました。一方、女性は「20代後半」「30代前半」とイメージを持っている印象でした。

男性と女性でそこは違いますよね。女性はやはり将来の妊娠・出産を考えて自分の身体の問題が優先され、男性は経済的な問題を基準に考えているようです。そのことは、2014年に文京区で実施した「結婚・妊娠・出産・育児に関する意識調査」(以下、文京区調査)でも見られている傾向ですね。

この文京区調査では、「理想の結婚年齢」について男性と女性の間にギャップがあることが明確になりました。文京区在住の満20歳~45歳までの男女で、結婚したいとの意思がある人に、「理想の結婚年齢」を尋ねたところ、全体では「25~29歳」(30.6%)が約3割で最も多く、次いで「30~34歳」(28.5%)、「35~39歳」(21.8%)でした。

これを性別にみると、「25~29歳」は女性(34.2%)が男性(25.2%)より9.0ポイント高く、「30~34歳」は男性(31.0%)が女性(26.8%)より4.2ポイント高かった。さらに、「理想の結婚年齢の設定理由」について尋ねたところ、「結婚後、出産・育児する年齢を考えて」と回答した割合が女性は73.8%、男性は53.1%と20.7ポイントの差がありました。一方、「経済的な余裕を考えて」と答えた人は、男性が32.8%に対して女性が15.0%と17.8ポイントの差がありました。

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文京区調査の結果から、この男女の着眼点の違いや意識の差をすり合わせるためのきっかけが必要であると感じたことから、この『ライフ&キャリアデザイン ワークブック』を作成しました。ぜひ多くの方に読んでいただき、自分の考えを記入していくなかで男性には、女性の身体のことや女性の年齢と妊娠・出産の関係など、女性には、男性が結婚を経済的な問題を基準に考えている人が多いことなどを理解していただき、男女ともに結婚や出産、お金等についての感覚を共有するきっかけになればと思っています。

――男性と女性がイメージする結婚年齢が違うということは、そのギャップをすり合わせないと、男性の意識にひきずられて晩婚化するのは必然ですね。しかし、子どもが欲しい場合、女性の身体にとってみれば晩婚化は望ましいとはいえません。結婚や妊娠・出産について早く考えることで、子どもも早く生まれる可能性が高くなります。

はい。文京区調査で「理想とする子どもの人数」を聞いたところ、「2人」が58.1%ともっとも高く、次いで「3人」が29.3%、「1人」が6.6%の順だったのですが、「実際に持つと思う子どもの人数」は、「2人」が51.3%、「1人」が27.4%、「3人」が8.7%という順になりました。

「理想とする子どもの人数を持てないと思う理由」を聞いたところ、「年齢的に難しいと思うから」(50.4%)が最も高く、次いで「経済的に負担が大きいと思うから」(42.1%)、「育児、家事にかかる負担が大きくなってしまうから」(25.3%)という結果がでました。

ここで注目したのは、「経済的に負担が大きいと思うから」「育児、家事にかかる負担が大きくなってしまうから」と答えたのは、女性より男性の方が多かったこと。つまり、男性は生活費や教育費がどれくらい必要か正確に把握しておらず、漠然と心配しているのではないか、また、男性が自分の家事能力に自信が持てないために不安が大きいのではないかと考えました。男性自身に一定の家事能力があれば、結婚も子育ても怖がらないでしょうし、たとえパートナーが家事をできなくなったとしても「俺が家事やるの? できないよ」みたいなことはなくなっていくのではないか、と思ったのです(笑)。

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以上のことを踏まえて、このワークブックは、お金のことと合わせて、家事や栄養についても充実したものになっています。ページ欄外に“ミニレシピ”を載せたのもそういう理由からです。また、具体的に生活費にどれぐらいかかるかを数字で掲載したのも、自分の月給と照らし合わせて分かってもらいたかったから。「月々これぐらい稼いで、これぐらい貯金すれば、やっていけそう」と特に男性に安心してもらいたいと思いました。

――「ぶんきょうハッピーベイビー応援団」の皆さんや区の職員の方々からは、今回のワークブックの仕上がりについて、どのような声が挙がっていますか。

あるメンバーの方からは、「企業のアンケートでも、理想的な子どもを持てない理由に経済力をあげる方が多かったのですが、行政からの支援を知らないというのもありました」「支援情報とともに、どれぐらい負担しなければいけないのか実費がわかると安心できるので、意義のある内容になっている」との意見がありました。また、配布した先では、「これだけの内容を網羅したものはなかなかない」「できればオープンソース化して誰でも読めるようにした方がよい」「子どもが欲しくなった」「仕事、お金、人生を考える、いいきっかけになった」「記入する欄があり、判定ページで気づきがあって、次につながるのがよい」という声などをいただきました。ほかにも、「情報盛りだくさんで無料冊子とは思えない」「コンパクトで読みやすい」など好評です。

2015年度の予算では3,000部を用意しましたが、来年度以降は必要に応じて増刷することを考えています。ちなみに、今年の新成人1,789人全員に郵送します。「はたちのつどい」の会場では、300部ほどを職員が直接手渡ししました。

 

――成澤廣修区長からは新成人の皆さんに対して、「社会には、さまざまな厳しい現実が待ち受けています。そのなかで、健康で豊かなら生活を送ってほしいと考えて『ライフキャリアデザイン ワークブック』というものを作りました。今日も、このホールでお配りしているので、ぜひ手にとってこれからのそれぞれの皆さんのライフプランについて考えてもらいたいと思います」とのメッセージがありました。また、2月23日には、文京区在住の10代後半~20代の方を対象にした「ライフデザイン研修」を実施されるそうですが、これはどのようなことをされるのでしょうか。

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ここでは、「ライフ&キャリアデザインってどんなこと?」という話をします。座学とワークショップをとおして、具体的な自分のキャリアプラン作成いただくのがメインの目的です。文京区の職員課長が「特別区職員として働く魅力」というテーマで語りますので、地方公務員の働き方をひとつのモデルケースとして、大学生などの若い方に社会人のイメージを持ってもらって、キャリアプランを考える機会にしていただければと考えています。

*  *  *

文京区で開催された「はたちのつどい」で『ライフ&キャリアデザイン ワークブック』を実際に手にとった新成人の皆さんに話を聞いたところ、次のような反応が返ってきました。

「就職して一人暮らしすることになったら役立ちそう。結婚するためには、やはり一人前になって、自分が自立しないと無理だと思うので、結婚や女性の出産、子どもの教育にどれぐらいお金がかかるかを知ることは大切だと思いました」(武田雄介さん・学生)

「将来子どもを産みたければ、結婚は早い方がいいよねと友だちと話すことがあります。理想は20代の後半。妊娠・出産に関するQ&Aなど、後でゆっくり読みこんでみます」(竹中萌々子さん・学生)

「保険のことなどはよく分からないし今まで考えたこともなかったのですが、このワークブックを読んで、病気や結婚、出産に備えて保険に加入することが、これからの私たちには必要なんだと理解しました」(槙野紗詠さん・学生)

『ライフ&キャリアデザイン ワークブック』は、文京区のホームページからPDFをダウンロードすることができます。文京区民だけではなく、すべての方がこのワークブックを使って自身の人生設計を立てたり、見直したりすることができます。ぜひ、活用してみてはいかがでしょうか。

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『ライフ&キャリアデザイン ワークブック』/文京区公式サイト
http://www.city.bunkyo.lg.jp/kyoiku/shussan/ninshinshussan/_18818/guidebook.html

2016年2月23日「ライフデザイン研修」開催のご案内/文京区公式サイト
http://www.city.bunkyo.lg.jp/kyoiku/shussan/ninshinshussan/_18818/raihudezainkensyuu.html

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