連載「高橋たかお先生のなんでも相談室」 小さな子どもでも、男女で性格や行動が違う理由

連載「高橋たかお先生のなんでも相談室」 
小さな子どもでも、
男女で性格や行動が違う理由

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慶応義塾大学医学部の小児科教授高橋孝雄医師の連載「高橋たかお先生の何でも相談室」第4回目は、男の子と女の子の違いについて。
男の子と女の子では赤ちゃんのころから、発達や成長の様子が違うと言われています。また環境や育て方が同じでも、成長していくにつれて、男の子は男の子らしい性格が目立つようになり、女の子は女の子らしく振る舞うようになるのはどうしてなのでしょう。

1児の父である出産準備サイト編集スタッフIが、「男の子と女の子が違う理由」について高橋先生に伺いました。

 

胎児の性差が分かれはじめるのは着床から約8週間後

I:うちには2歳の娘がいるのですが、公園で同じぐらいの年ごろの子どもたちを見ていると、男の子が走り回っているのに対して、女の子はごっこ遊びをしていたり、またおしゃべりの上達も早いように思います。もちろん個人差はあれど、どうも小さな子どもで「性差」というものがあるような気がして、かねがね不思議に思っているのですが……これって医学的な理由があったりするのでしょうか?

高橋先生:ええ、いい質問ですね。それでは、まず胎児の性別の違いがどう決まっていくかについてご説明しましょう。大部分の男性の性染色体はXY、大部分の女性はXXというのはご存知ですね。

I:詳しくはわかりませんが、聞いたことは…あります(小声で)。

高橋先生:はいはい。受精卵になった時に性染色体の組み合わせは決まっているんですが、はじめのうちは胎児の体の構造に性差はありません。XYであろうとXXであろうと、基本的な構造は女性になるようにできているんです。

I:はじめは女性だった、というところまではかろうじて知ってました。あくまで聞いたことあるレベルですが。

高橋先生:当初、性差はないのですが、Y染色体をもつ胎児では、着床から8週間ころに「SRY」という特殊な遺伝子が活動を開始します。これをきっかけに精巣が作られはじめ、生まれたばかりの精巣からはミューラー氏管抑制因子という大変重要な物質が分泌されます。この因子が、子宮や卵巣など女性の内性器の元になるミューラー氏管という組織にストップをかけます。これが胎児を男性にするための最初のステップなのです。同じ時期に精巣からテストステロンという男性ホルモンが分泌され、男性の外性器を形作っていくのです。

つまりヒトというのは、本来女性になるように仕掛けられていて、あえて男性になるためにはSRY遺伝子がONになり、ミューラー氏管抑制因子とテストステロンが分泌される必要があるんです。

I:専門的な言葉が出るとちょっと難しいですけど、着床から8週間後くらいから徐々に、性差がわかれる現象が起きているということですね。

高橋先生:そういうことですね。そのあとはドミノ倒し的に連鎖反応が起きて、男性としての内性器、外性器が完成します。妊娠14週あたりまで、Y染色体を持った胎児はママのお腹の中で自分自身で作った男性ホルモン、つまりテストステロンのシャワーを浴びます。そうすると、外性器のみならず、脳までも男らしくなるのではと考えられているのです。

I:なるほど。着床の時点で男の子か女の子かの性別がはっきりしているわけではなく、胎児が男として成長するためには、妊娠初期からそれなりにいろいろな段階を踏む必要があるというわけですね。

高橋先生:そうなんです。そのため、お母さんのおなかの中で、男の子が男の子に、女の子が女の子になる過程では、いろいろな段階でさまざまなアクシデントが起こりうるんです。たとえば、XYの染色体を持った男の子が男性ホルモンのシャワーを充分に浴びなかったとか、反対にXXの染色体を持っていて女性の内性器を作るミューラー氏管もあったのに男性ホルモンが出すぎたとか……。ですから生まれた直後に外性器を見ただけでは、男の子か女の子か、判断がつきにくい場合もあります。

I:えーっ、お医者さんでもわからないことがあるんですか?

高橋先生:はい。赤ちゃんが生まれた時に性別を判断する手がかりは、たとえ医師であっても、やはり外性器の見た目です。XYの染色体を持った胎児でも、テストステロンがうまく作られないことがあるんですが、そうするとその子は生まれてきたときに、外性器の見た目が他の男性と違っている場合があったりします。すると簡単には、男性なのか女性なのか見分けがつかない。

I:専門医でも見分けがつかないなんて驚きです。

高橋先生:男性、女性を作っているのは緻密に計画された遺伝子プログラムのシナリオです。その過程で胎児自らが分泌する性ホルモンは、脳にも働きかけると考えられています。男の子らしい性格、女の子らしい性格も遺伝子の力で決まるのです。結果として、男性として生きるのが幸せか、女性として生きる方が幸せか、その後の生き方も、ある程度、運命づけられているはずです。それゆえ、生まれた直後に男か女かを見極めることは、とても大事な医学的な作業なのです。

I:おっしゃる通りですね。絶対に間違えられない作業です。

高橋先生:赤ちゃんにとって一番深刻な問題は、外性器のみならず脳の男女の見極めを誤ると、将来、自分のジェンダーアイデンティティ(性同一性)に違和感を持ってしまうということですね。生まれた時に男の子と言われて、自分でもそう信じて生きていても、どうしても男らしく生きる、父親としてがんばるという意識を持つことができない。女性の場合も同じことが起こりうるのです。

I:ええ。ただ先程のお話ですと、生まれた直後に外性器を見て男か女かを見極めることが難しいこともあるわけですよね。

高橋先生:そうなんです。確実な判断が常に可能とは限りません。ですから、生まれた時に男の子と女の子の区別がつかないというのは、医療としての重大局面(メディカルエマージェンシー)のひとつです。医師に「おめでとうございます。かわいい男の子ですね」と言われ、そのまま出生届を出してしまえば、あとで女の子に性別を変更するのは本人にとっても周囲にとっても大きな決断が必要になります。

I:生まれた赤ちゃんの性が外性器の見た目だけではわからないという場合、どうやって性別を決めるんですか?

高橋先生:誕生した時に赤ちゃんの外性器に異常があれば、まずその原因を探ります。いろいろな検査をしながら、2週間から遅くとも4週間以内ぐらいには男か女かをご両親に決めていただくことになります。法律で決められている戸籍提出期限は生後14日以内ですが、このような疾患を持つ子の場合には医師の診断書があれば遅れて提出することができます。先ほどお話ししたように性別の決定は非常に重要で、男性と判断したならその子にとって何が幸せで何が不幸せか、女性と判断したなら何が幸せで何が不幸せか、ということをご両親と小児科医が一緒になって考えなくてはなりません。

生まれた時から決まっている「男らしさ」、「女らしさ」

I:社会が多様化して男の子と女の子の間にも、言ってみればいろんな性別の人がいることが一般的にも広く認識されるようになっています。先生はこうした多様な性についてどうお考えですか?

高橋先生:多様性を認め、享受することは成熟した社会としてとても大事です。多様な性についても当然、同じことが言えます。ただ、男性と女性ははっきりと異なる、という認識も重要です。例えば、男性の中でとても女性的な人と、女性の中でとても男性的な人が、性格まで同じというわけではありません。いわゆる“男女平等”についても、社会的な議論はいろいろあってしかるべきですが、何もかも同じにすべき、という主張には医師としては違和感を覚えます。性差は基本的には遺伝子で決まっているものですから。男性と女性がそれぞれの個性を生かし、異なる役割を果たすことは、すごく重要だと思います。

I:なるほど。

高橋先生:女の子として生まれた子が、女の子として育てられて、女の子として生まれたことを幸せに思いながらすごすのは、幸せの第一歩だと思います。男性もそうです。女の子にとっては、お母さんが優しく家族を支えている姿や、幸せそうな笑顔や女性らしいしぐさを見て、「私もお母さんみたいになりたいな」と思う。それが「女に生まれてよかった」と思える原動力なんです。一方、男の子が「男に生まれてよかった」って思うのは、お父さんががんばって働いて家族を守っている姿や、野球やサッカーを教えてくれる頼もしい姿を見て「男ってかっこいいな」と感じる時じゃないですか。

I:そうですね。自分の子どものころを思い返してみても、そうだったような気がします。ちなみに妊娠初期、着床から8週間くらいから性差が分かれる現象がママの体内で起きるとのことでしたが、その時期のママの行動や生活習慣が、そうした現象の妨げになったりすることはあるのでしょうか。たとえば、あることをしたり、ある栄養素を摂ったら胎児の男性化が進むとか……。

高橋先生:ないです(苦笑)。すべては遺伝子で決められています。中には遺伝子に問題があって男性化の異常が起きたり、誤った女性化が起こるなど、想定外の変化で男女がクロスして、運命が変わったりすることはありますが、妊娠中のお母さんの問題ではありません。いずれにしても男性になる、女性になる、という現象に、環境・努力は必要ありません。すべては遺伝子の仕組みに従って起きること。変わらないし、変えようもないんです。XYという染色体をもつ我々男性は、Y染色体を持たない女性に比べると、性格や行動パターンが良くも悪くも“男性的”です。男の子は幼稚で落ち着きがないでしょう(笑)。ところで少し専門的な話になりますが……ごくまれにXYYと、2つのY染色体を持っている男性がいます。Yが多いと、さらに男性的な性格が強調されてしまうんですね。

I:ということは、男の子のやんちゃぶりも遺伝子の影響だったんですか!

高橋先生:そうです、遺伝子で大枠が決まっています。お腹の中にいる時から何か月もかけて、遺伝子のドミノによって、男の子は男の子として、女の子は女の子として体が作られ、脳も性別に合わせた状態になって生まれてくると思われます。男の子にピンクの服着せたって、女の子になるわけではありませんよ。ただここで大事なことは、遺伝子のシナリオには良い意味での“遊び”がある、ということです。遺伝子で決められることは一直線で、そこから全くブレないというわけではなく、ある一定の振れ幅があって、その範囲から外れないように調整されているものなのです。だから、男性寄り・女性寄りっていうのはあります。環境によってどちらかに“正常に”ブレることは当たり前の現象ですし、むしろ好ましいことではないですか。

I:男性っぽさ、女性っぽさが環境で多少ブレることがあるのであれば、生まれついて持っている性格も、環境により変えることができるものなのでしょうか? たとえば2歳くらいのやんちゃな子どもに手を焼いているママは、どうにかしたいと悩んでいたりするのではないかと思うのですが。

高橋先生:左利きの子を訓練して右手も使えるようにする程度は可能ですが、遺伝子によってある程度決められている個性、性格や行動パターンを、しつけや教育で根本から変えることはほとんど無理、むしろ有害だと考えてください。強い個性に見える場合であっても、所詮、「遺伝子の正常な振れ幅」でしかないのでは。気にする必要はないと思います。同級生の中で、ものすごくやんちゃな子と分別のある子の差だって、大したことではありません。正常か異常かと言われれば、みんな正常です。ですから、お母さんの言うことを聞かなくても、いたずらが大好きでも、それほど心配しなくてもいいんじゃないでしょうか。

I:とはいえ、その小さな差がママやパパにとっては気になるものなんですよねぇ(苦笑)。

高橋先生:それはそうだと思います。ただ私が言いたいのは、やんちゃな息子、引っ込み思案な娘に困っているお母さんやお父さんも、あまり神経質にならずに、「男の子はそんなもの」、「女の子だもんね」とおおらかな気持ちで接したほうがいいということです。親の思い通りの子に仕上げるために、他の大勢の“良い子たち”と同じように行動するようにと、叱って無理強いするのではなくて、ありのままの姿を受け止めて、見守っていくことも大切なことではないでしょうか。

I:やはりその子が持って生まれた性格を曲げることなく、いかに社会の中で健やかに育っていけるか.が大事なのですね。これからも、そのことを念頭に子育てをしていきます。今回もありがとうございました。

 

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<プロフィール>
高橋孝雄(たかはし・たかお)
慶應義塾大学医学部 小児科主任教授 医学博士 専門は小児科一般と小児神経
1982年慶応義塾大学医学部卒業後、米国ハーバード大学、マサチューセッツ総合病院小児神経科で治療にあたり、ハーバード大学医学部の神経学講師も務める。1994年帰国し、慶應義塾大学小児科で現在まで医師、教授として活躍する。趣味はランニング。マラソンのベスト記録は2016年の東京マラソンで3時間7分。別名“日本一足の速い小児科教授”。

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