連載「高橋たかお先生のなんでも相談室」 コミュニケーション能力はどうやって育めばいいの?

連載「高橋たかお先生のなんでも相談室」 
コミュニケーション能力は
どうやって育めばいいの?

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自分の考えを伝え、相手の意図をくみ取って、感情を共有する相互理解の能力=「コミュニケーション能力」。コミュニケーション能力の有無は、その人の人柄や人格を判断する上での重要な指標になっています。また、文部科学省でも、コミュニケーション能力を「人間関係を形成していく能力」と定義づけ、平成22年からコミュニケーション教育の推進に乗り出すなどしています。

そこで素朴な疑問。コミュニケーション能力とは幼少期の育て方で左右するものなのでしょうか――というわけで、第5回目の「高橋孝雄先生のなんでも相談室」のテーマは【子どものコミュニケーション能力】について。ミキハウス出産準備サイト編集スタッフで一児の父でもあるIが、慶応大学医学部小児科教授の高橋孝雄医師に伺いました。

 

そもそもコミュニケーション能力は測れません

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I:今回は、「子どものコミュニケーション能力」をテーマにお話を伺いたいと思います。僕は社会人になって、いわゆる“コミュニケーション能力”の重要性を実感することが多いのですが、自分の子どもやその周囲の子どもたちを見ていると、コミュニケーションが上手な子と、そうでない子がいるように思います。この差はどこから来るのでしょうか? 

高橋先生:まず、最初に断っておきたいのは「コミュニケーション能力」というもの自体を測ることは難しいということ。つまり共通の基準をもとに有無を決めつけることは、本来できないものだと思います。100m走のタイムとはちょっと違いますから。IQなんてものも正確に測るのは困難ですからね。コミュニケーション能力はその最たるもので、特に相手あってのこと。相対的なもののはずなのに絶対的な評価をしようとしている時点でちょっとおかしい。

I:そう言われてみればそうですね。今回は質問自体がおかしかったでしょうか……。

高橋先生:いや、ある意味核心をついているとは思います。どういう観点でその有無を判断するかについて考えましょう。結論から言うと、その場に合った正しい方法でコミュニケーションできるか否かではないでしょうか。

I:その場に合った正しい方法とはどういうことでしょうか?

高橋先生:日本で大多数の人が使うコミュニケーション手段は、日本語による言葉のコミュニケーションですね。言葉が通じた上で、考えや気持ちを分かり合えるのがコミュニケーションということになるわけです。一般的に「コミュニケーション能力が低い」と表現されるのは、それが苦手な人ということになりますが、正確に言うと、意思の疎通ができる相手が少ない人ということなんですね。

I:なるほど、なるほど。

高橋先生:極端な例を挙げると、画家のゴーギャンとゴッホは、普通の人から見たらコミュニケーション障害ではないかと思えるような言動もあったと言われていますね。まわりからすれば二人は変だったと。でも、この二人はすごく仲が良かったんです。それは二人の間では、互いにしっかりコミュニケーションが取れていたからだと思われます。一方で、彼らの絵画作品にはものすごく説得力があって、時代を超えて人々に感動を伝えることができていますよね。非常に特異な形ではありますが、これも高いコミュニケーション能力の為せる業(ワザ)といえるのではないでしょうか。

I:たしかに仰るとおりですね! ……で、先生、今回は子どものコミュニケーション能力がテーマになりますので、時代を超えない範囲でのお話をお願いいたします。

高橋先生:はいはい(苦笑)。コミュニケーションの方法の違いは子どもでも見られます。一般に女の子は言葉によるコミュニケーションが得意

I:たしかに子どもの集団をウォッチしていると、女の子の方が言葉でコミュニケーションを積極的に取っている子が多いような気もします。

高橋先生:一方で男の子の場合は、おしゃべりでコミュニケーションするより、追いかけっこでどっちが速いか、体のぶつけ合いでどっちが強いかとか、競い合ったり一緒に行動することでコミュニケーションを取っていくんですね。

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I:それも納得できます。子どもの頃から、男女でコミュニケーションの取り方に違いがあるものなんですね。

高橋先生:ええ、男の子と女の子で違うし、当然女の子の中、男の子の中にもいろんなタイプがいる。ちなみにコミュニケーションの方法が似ているとだいたい仲良しになるものです。

I:そもそも論として、子どもの頃からコミュニケーションの仕方には「個性」があるものなんですか?

高橋先生:あります。子どもの頃に現れた個性は、ある意味自然な姿であって、大人になると目立たなくなりますけれど、本質的にはずっと変わりません。男にとってのコミュニケーションの方法は基本的には競争と言いましたが、《かけっこでお友だちに負けたくない》という気持ちと、《自分の家族はよその家族よりも幸せだと自慢したい》気持ちは、本質的には同じ。他者とのコミュニケーションを取るなかで、どこかで負けてられないっていう気持ちを抱くことは、男性としては健全なんですよ。つまり、男性は非常に相対的で、人と比べる傾向があります。誰かと誰かを比べた時に、自分が勝っていると思いたいんです。

I:それだけ聞くと男ってなんかめんどくさいですね……男の僕が言うのもなんですが(苦笑)。

高橋先生:逆に女性の場合は相対評価じゃなくて、絶対評価。わが子のことでも、その子が良ければいいと思えるのが本来の女性の姿で、他の子とあんまり比べない。ただ、最近のママは子どもの成績とか、お受験がどうだとか、ピアノもどっちがうまいとか結構比べる傾向がありますよね。そうなるとママは本来の女性の良さを失ってしまうというか……。あくまで本来の性質としては、女性は他者と比べるような傾向は薄いし、またそれに基づいたコミュニケーションの取り方はあまりしないということです。

コミュニケーション能力を育てる方法とは

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I:親としては子どもには多くの友だちを作ってもらいたいし、そのためのコミュニケーション能力をつけてもらいたいと思います。より多くの人と円滑なコミュニケーションが取れるような大人に育つために、親が子にしてあげられることってなんでしょうか?

高橋先生: “良い経験”を積ませていくことではないでしょうか。例えば運動でもそうで、野球でも毎打席空振りしていたら練習にならないけど、何回かに一回カーンといい当たりがでると、「リ・インフォースメント(reinforcement)=強化」される。つまり成功体験を重ねることで着実に身につけていくことになり、上達につながる。コミュニケーション能力を身につけたいのであれば、気の合う人、話を分かってくれる人と一緒に楽しい時間をすごすのはとても大切な事です。

I:仲の良い友達とできるだけ遊ばせるとか、そういうことですか?

高橋先生:う〜ん、わざわざ仕向ける必要はなくて、自然にしていればいいと思います。子どもたちがコミュニケーション能力のベースを身につけるのは難しい事ではありませんから。親子のコミュニケーションだって、意識しなくても生活の中で自然とできているでしょう?

I:たしかに。そう考えるとお友だちもそうですけど、基本は親子のコミュニケーションをしっかり取り、“良い経験”を積ませて“楽しい気持ち”をたくさん抱かせることが大事なのかもしれませんね。

高橋先生:それはすごく大事です。でも普通の会話でいいですからね。特に意識なんてしなくていいです。普通の会話の中で、子どもは学んでいきます。

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I:(子どものコミュニケーション能力を育てるために)「良い会話をしなくちゃ」「楽しい時間をすごさせなきゃ」なんて肩肘張らなくていいと。

高橋先生:はい。無口なお父さんなら「ふーん」なんて素っ気ない返事でも十分です。本当の意味で子どものことを大切に想っていれば、口から出てくる言葉はそれほど気にしなくていい。

I:そんなもんなんですか……コミュニケーション能力のある人って、明るくて気さくな家族の中で育つものなのかとどこかで思っていましたけど。

高橋先生:それは違うのではないでしょうか。コミュニケーションの仕方にかかわらず、その子の個性とは、育つ中で作られるものではなく、遺伝で決まるものです。もちろん家庭環境により左右されることもありますが、それはあくまで個性が生かされたぐらいに考えた方がいいでしょう。

I:そうなんですね。うちの子はまだ2歳ですが、僕の小さい頃よりずっと社交的で、誰に似たんだろうと思うこともあるんです。顔はそっくりなんですけどね……本当にそういう部分も遺伝の影響が大きいのですか?

高橋先生:もしかするとパパであるIさんは、もともと社交的な性格なのに小さい時にそれが発揮されなかったのかもしれない。あとはママの遺伝も考えられます。パパとママの遺伝子が混じっているのは、大いに意味があることなんです。

I:そうですかぁ…できればあの社交性を失わずに育ってほしいものです。

高橋先生:自然に接していれば大丈夫ですよ。いずれにせよ、その子には持って生まれた個性というものがあります。そしてその個性により、コミュニケーションの取り方も様々。ちょっとやんちゃな子は乱暴なコミュニケーションを好むし、思慮深い子はあまりアクションを取らずに柔らかくアプローチしていく。でも多少やんちゃであっても、やんちゃもの同士でコミュニケーションが取れていればまったく問題ないし、その中でどんどんより高度なコミュニケーションが取れるようになればいいわけです。その第一歩として、まずは家庭での心の通ったコミュニケーションを通じて、子どもの“能力”を育んでいけばいいと思いますよ。

 

〈参考文献〉
芸術表現を通じたコミュニケーション教育の推進(文部科学省/平成22年)http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/commu/1294421.htm

 

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<プロフィール>
高橋孝雄(たかはし・たかお)
慶應義塾大学医学部 小児科主任教授 医学博士 専門は小児科一般と小児神経
1982年慶応義塾大学医学部卒業後、米国ハーバード大学、マサチューセッツ総合病院小児神経科で治療にあたり、ハーバード大学医学部の神経学講師も務める。1994年帰国し、慶應義塾大学小児科で現在まで医師、教授として活躍する。趣味はランニング。マラソンのベスト記録は2016年の東京マラソンで3時間7分。別名“日本一足の速い小児科教授”。

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