慶應義塾大学医学部小児科教授の高橋孝雄医師がママ・パパの子育ての疑問に答える当連載をきっかけとして、昨年9月に発売された高橋先生の本『小児科医のぼくが伝えたい　最高の子育て』（マガジンハウス刊）が大きな話題を呼んでいます。同書の中で先生は、「生きるために必要な3つのチカラ」として「共感力」「意思決定力」「自己肯定感」を取り上げています。

今回は、この「生きるために必要な3つのチカラ」という「共感力」「意思決定力」「自己肯定感」の育て方について、先生に詳しくお話を伺いましょう。

他人に共感できるチカラは、しあわせな人生の原動力です。

担当編集I（以下、I）：先生は「生きるために必要な3つのチカラ」として、「共感力」「意思決定力」「自己肯定感」を挙げられていますよね。今回はそのことを詳しくお聞かせください。
まずは共感力について。共感力とはどういうもので、どうしたらママ・パパはそれを伸ばしていけるのでしょうか。

高橋先生：共感力は、3つのチカラの中で一番わかりやすいものだと思います。簡単に言うと、誰かのことを自分のことのように喜んだり悲しんだりできるチカラです。遺伝子の働きでしょうか、女性は一般に生まれつき共感力が強いですね。日常会話でも共感力が発揮されています。「かわいいね、その服」で始まり、「ありがとう」と続く。たったそれだけで、共感に満ちたすてきなコミュニケーションが成立していますよね。

I：たしかに、女性のコミュニケーションのとり方は、男性よりも共感性を重視しているような気もします。

高橋先生：一方、男性は自分と他人を比べて優劣を付けがちで、共感力は女性よりも低いとぼくは感じます。ただ、スポーツ観戦の場面では共感力を発揮することが多いんですよ。「やった！ホームラン！」「ナイスシュート！」と他人の成功を自分のことのように喜ぶ。男性はきちんとしたルールに従って勝敗をつけるものを好む傾向にあり、スポーツはそのいい例です。勝つにせよ、負けるにせよ、共感できるシチュエーションが多く、勇気をもらえるんですね。

I：スポーツ観戦で大騒ぎしてしまいがちな自分（♂）としては心当たりがありすぎるお話です（笑）。話はもどりますが、なぜ共感力は「生きるために必要」だと言えるのでしょうか？

高橋先生：人生を豊かにするからです。ひとりの人間が手に入れられる幸せなんてちっぽけなものです。でも人の幸せを自分のことのように喜べる人は、たくさんの幸せを手に入れることができるんです。人の喜び、人の成功、人の幸せをあたかも自分のことのように感じることができる、そんな共感力のある子どもに育ってくれたら、その子は豊かで幸せな人生を歩むのではないでしょうか。

I：たしかにそのとおりかもしれませんね。では子どもの共感力を身につけるために、ママ・パパはどんなことをしたらいいのでしょうか？　

高橋先生：「おなか空いた」と言う子どもに、「我慢しなさい」「もうちょっと待って」と返すのではなく、「おなか空いたね」と返す。「痛い！」って言ったら「痛くない。泣いたらダメ！」じゃなくて、「痛いね」って。共感されると子どもはそれが心地よいことだと気づきます。そして、お友だちが泣いていたら「悲しいね、大丈夫？」って共感できる子に育つと思うんです。特に弱音を吐いた時に共感されると心に残るものです。

I：それは大人も同じですよね。自分の弱音に対して、いきなり否定されるようなことを言われると辛いです。まず一度こちらの思いを受け止めてもらってから、話を進めてもらったほうが心地いいですし、シンプルに他者と良好な関係が築けますよね。

高橋先生：そういうことです。弱音を吐いている相手に対して、どんなに正しかろうが強い意見は役に立たない。やっぱり「辛いね」って言ってもらうのが一番なんでしょうね。「忙しい」って弱音を吐いた時に「じゃ、仕事をこうして、こうやって効率的にやれば土日は休めるよな」って言われても、響かないですよね。

I：はい…そうですね（苦笑）。

高橋先生：ただ一言「しんどいよな」って言ってもらうだけでいいわけです。子どもも同じです。「くやしかったね・・・」でも「月がきれいだね～」でもいい。子どもがこう感じているのかなってことをくみ取って、そういう時はこういう感情だよね、ママもパパも一緒だよってことを伝えていけば、共感力は自然と身につくのではないでしょうか。あと、先ほど男の子は女の子より共感が苦手かも知れないと言いましたが、男の子には、他者がうまく行った時に「俺だって負けないぞ」と思う強さがあります。そしてこの気持ちもすごく大事です。ただその気持ちを抱くと同時に「ほんとによかったね」って素直に言えるような男の子は将来幸せになれると、ぼくは思うんですよ。