連載「高橋たかお先生のなんでも相談室」 
子どもが生きるために必要な
「3つのチカラ」について

自己肯定感の強い子どもに育てるには、ママが自己肯定感を強く持つこと

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I:最後に自己肯定感についてお聞かせください。

高橋先生:自己肯定感というのは、「今の自分はこれでいい、これでいいんだ」と感じることだとぼくは考えています。ただ共感力や意思決定力と違って言葉や態度に表れにくく、他者からは読み取れない。そして自分自身でも実感しにくいものだと思います。たとえば、すごく裕福で人から尊敬されていて、一見幸せそうに見えても自己肯定感が高いとは限らないんですね。でも、人間は生まれつき誰しも自己肯定感を持っているということは言えます。人間が生きものである以上、少なくともこの世に生を受けた瞬間には「生れてきてよかった!」って思うようにできているのでは。人生のスタートは自己肯定感に満ちていて、それは遺伝子によってあらかじめ約束されたものなのかも知れません。

I:そうなんですか。つまり自己肯定感は遺伝子のなせるわざなんですか?

高橋先生:ええ、自己肯定感は遺伝子がすべての子どもに与える天性のチカラだと思います。はじめから自己肯定感のない子どもはいないんです。たとえば赤ちゃんはよく笑うでしょう。それって自己肯定感に溢れているからだと思うんです。

I:生まれつきみんなが備えているという自己肯定感。それが、育児環境によって高まったり、反対に低くなっていったりすることもあると?

高橋先生:そうですね。はっきりしているのは、親から暴力や無視といった虐待を受けている子どもは、持って生まれた自己肯定感を徐々に失っていくということ。「お前なんか生まれてこなければよかったのに」と言われ続けて育てば自己肯定感は下がるでしょう。

I:そんなことを言われていたら、全然ポジティブになれないですよ…。一般論として、幼児虐待には“負の連鎖”のようなものがあると言われていますが、親の自己肯定感の低さが子どもに影響するってこともあるんでしょうか?

高橋先生:その通りです。子どもの存在を否定するのは、同時に自分の存在を否定することです。だからぼくは子どもの自己肯定感を高めたいと思うなら、親たちが自分の自己肯定感を高めるべきなんじゃないかと思います。

I:親自身の自己肯定感と言いますと?

高橋先生:子育て中のお母さんだったら、「この子を産んでよかった」って思ってるときは自己肯定感が高いわけですね。「子どもを授かってしあわせ。私の人生はこれでよかったんだ」って思うお母さんの気持ちが、子どもに伝わらないわけないですよ。お母さんの高い自己肯定感は、そのまま子どもの自己肯定感を守り育てることになるんですよ。

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I:まずはママがポジティブになること。これって、子育てで目が回りそうなくらい大変なママにとっては結構ハードルが高いかもしれませんね。自分の幼少期を思い出しても、母親ってなにかとため息をついていたような気がします(苦笑)。

高橋先生:もちろん現実を前に、常にハッピーでいられる人なんていないかもしれませんね。ただ、お母さんがいつもため息ついて「こんなはずじゃなかったのに」とか「もっと幸せになるはずだったのに」とか言い続ける。そういう自己肯定感の低い発言を聞いて育つと、それなりに連鎖しちゃうと思います。低い自己肯定感の世代間連鎖ですね。もちろん程度の問題はありますけど、やっぱり自己肯定感は高く持っていた方がいいですよ。まずは少しだけ肩の力を抜いてお子さんに接してみてはいかがでしょうか。

I:自分に嘘をつく必要はないけれども、できるだけ前向きに生きる、肩の力を抜いてハッピーな気持ちで子育てに取り組むってことは、自分のためでもあるし、ひいては子どものためにもなるんですね。

高橋先生:そう思います。もうひとつ、小さいうちからささやかな成功体験をたくさん積ませて、「すごいね」「よくできたね」とほめてあげるのも自己肯定感を高めるのに大切なことです。「やればできる」「自分のことが大好き」と思えることは、子どもの発育に大きなチカラになるはずです。それは共感力、意思決定力にもつながるでしょう。子どもの幸せな人生のために、相手の気持ちに寄り添える「共感力」、自分で自分のことを決める「意思決定力」、今の自分はこれでいいと思える「自己肯定感」、この3つのチカラを意識して育ててあげて欲しいと思います。

I:3つとも、誰でも意識をすれば実践できることなので、是非今日から我が家でもやってみたいと思います。本日もありがとうございました!

 

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<プロフィール>
高橋孝雄(たかはし・たかお)
慶應義塾大学医学部 小児科主任教授 医学博士 専門は小児科一般と小児神経 1982年慶応義塾大学医学部卒業後、米国ハーバード大学、マサチューセッツ総合病院小児神経科で治療にあたり、ハーバード大学医学部の神経学講師も務める。1994年帰国し、慶應義塾大学小児科で現在まで医師、教授として活躍する。趣味はランニング。マラソンのベスト記録は2016年の東京マラソンで3時間7分。別名“日本一足の速い小児科教授”。

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