「ファザーリング・ジャパン」は“笑っている父親”を増やすことを目指して、父親の子育て支援・自立支援事業を展開するNPO法人です。2006年にその団体を立ち上げ、代表理事に就任し、現在は副代表を務める安藤哲也さんは、「Fathering」という言葉を父親という本来の意味より一歩進めて「父親であることを楽しもう」とし、仲間を募って父親学校を開いたり、日本各地で講演会を行ったりしています。“前世はイタリア人”という安藤さんの考え方は、目からウロコが落ちるお話ばかり。そこには、パパだけでなく、ママも子どももみんなが笑顔になれるヒントが詰まっていました。
子どもが生まれて直感「仕事だけじゃハッピーになれない」
大学卒業後、出版社を皮切りに、書店、IT企業など10社に勤めたのですが、35歳で初めて父親になったときは、往来堂書店(東京・千駄木)の店長でした。それまでは経験を積んで収入を上げて…という、いわゆる日本の男性たちが描いていたビジョンしかもっていませんでした。でも、子どもが生まれてから、仕事だけしていてもハッピーになれないと直感して、自分なりに工夫して、子育ての時間や子どもといる時間を確保していきました。
最初は子どもの世話をするのがかっこいいと思っていて、今思えば、そのアピールだけをしている感じでしたね。“やりたいものだけをやる”という自分中心の育児をしていた。3年経って二人目の子どもも生まれたんですが、僕の勝手な育児を妻に見抜かれて言い合いになり、ケンカが続きました。
そのときちゃんと言い合えたことで、やっと気づきました。僕の役割は、子育てを上手にやることではなく、子どもを主役に考えて、子どもが健やかに育っていく手助けをすること。また、ママの代わりにママと同じように振る舞うのがイクメンではなくて、もっと家の中の環境を整える、いわゆる“家庭内マネージメント”をやることが父親の役割なんじゃないかと思いました。
休みをとれば父親が変わる そして社会もよくなる
楽天の社員だった時代に、ファザーリング・ジャパンをつくることを思いつきました。楽天には楽天ブックスという事業を成功させるためにヘッドハンティングされて入社したのですが、毎日仕事を早めに終えて、定時に帰ることを基本に働きました。有給休暇も100%とってましたね。楽天勤務時代に小学校のPTA会長も務めましたし。当時はワークライフバランスなんて言葉はありませんでしたが、自分なりに工夫して仕事と生活を両立していました。部下にもそれが伝わったようで、みんな健康的に働いてくれました。当時の人事スタッフから「安藤さんの部署への異動願いがけっこう多いのよ」と言われました(笑)。仕事の内容などより、「あの部署に行くと休みやすい」「子どもが生まれやすい」みたいな評判が立ったんでしょうね。
毎日保育園に通ったことで気づいていたことでもあったのですが、この一件で、男性の働き方を変えることが、父親の育児の参加をうながし、ひいては家庭の安定や子どもが増えることにつながると確信しました。ずいぶん変わってきたとは言っても、日本はまだ男性中心に物事を決めている社会。その男性の多くは父親だから、父親が変われば、日本は今よりよくなっていくと。このことが、僕らの団体を立ち上げるきっかけです。