気になる我が子の利き手  「左利きは損をする説」を専門家に聞いた

気になる我が子の利き手 
「左利きは損をする説」を専門家に聞いた

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赤ちゃんが自分でスプーンやおもちゃをつかむようになった時、左手を使うと「この子は左利きかしら?」とちょっぴり戸惑うママ・パパもいるのではないでしょうか? ミキハウスベビークラブ会員の方々を対象として今年3月に実施した「左利きに関するアンケート」でも、わが子の利き手について気になるという声が多く聞かれました。

そこで今回は、昭和女子大学で身体教育学を研究している山中健太郎先生に「左利きになる要因」や「矯正は必要か」など、「左利きの子どもを育てる時に知っておきたいこと」について伺いました。

 

左利きになる「要因」はあまりわかっていません

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左利きの人は、人種や男女、年齢を問わず10人に1人の確率で存在すると言われています。昭和女子大学の山中健太郎先山も「左利きについては長年研究されていますが、その原因やメカニズムは今でも多くの謎につつまれている」と言います。

「遺伝子で決まる血液型や性別とは違って、両親ともに左利きでも子どもが左利きになる確率は約25%程度とされ、遺伝子が同一である一卵性双生児が2人とも左利きになるわけでもありません。遺伝的要因についてはこれまでのところ、左利きを決定づける単一の遺伝子座は特定されておらず、遺伝的要因については少なくとも複数の遺伝子座が複合的に関与していると考えられています」(山中先生)

利き手を決定づける要因は、研究の最前線でもはっきりしていないそうです。ちなみに「言語を操る脳と利き手は連動している」という説もありますが、これもまた不確定要素が多いとのこと。

「昔から、言語中枢が左脳にある場合が多いことが知られており、(手足はおもに反対側の大脳半球によって操られているので)右利きの場合は言語中枢と同じ左脳で利き手を操作していることになります。ここから、言語中枢と利き手に関係があるのでは、と考えられたのですが、左利きの場合は言語中枢が必ずしも右脳にあるわけではありません。つまり言語をあやつる脳と利き手が完全に連動されているとは言い難いのです」(山中先生)

また、「利き手は胎児のときの体の向きによって決定する」(※1)といった論文が発表されるなど、左利きについての研究が多面的になされていますが、決定的な原因は見つかっていません。

「今の時点で言えるのは、左利きは、多くの要素が複雑に絡み合って起きる現象なのではないかということ。先天的なものもあれば、生まれてからの環境の中で育まれる部分もあるということかも知れません」(山中先生)

ちなみに利き手はどれくらいの時期に決まるものなのでしょうか? それぞれ個人差はあるものの、3歳、4歳の頃にはっきりすると言われているそうです。

「たとえば2歳ぐらいまでの子どもの場合、左手をよく使うように見えても左利きとは限りません。片方の手しか使わない時期には、なかなか判別できないのです。その後、3歳〜4歳くらいになって、両手を同時に使うようになればわかること。例えば食事の時に左手でフォークを扱い、右手でお皿を抑えるようになれば左利きです。つまりどちらがメインでどちらが補助か。逆にいうと両手で物事をしない時期に、右手を使おうが左手を使おうが、それはあまり意味を持たないと思っていただいて結構です」(山中先生)

3〜4歳でわかる 我が子の利き手の見分け方

そもそも左利きは不便なものなのでしょうか? ミキハウスのアンケートで、左利きのママ・パパに日常生活に不便を感じることをあげてもらったところ、「ハサミ、包丁など刃物、注ぎ口のあるおたま、自動販売機、自動改札機、手帳式のスマホのカバー、ドアノブ、ペットボトルのふたなどネジ類」の使いにくさや「左でお箸を持つと隣の人にぶつかる」、「横書きで文字を書くと手が汚れる」ことなどが挙げられました。なるほど、“左利きの大人”は不便を感じながら生活しているのは事実のようです。

しかし山中先生は「基本的に子ども利き手がどっちであろうと悩むことはないと思います」と言います。

その理由のひとつが、優れた音楽家やスポーツ選手には左利きが多いという話。

「右利きの人は右手で意識して細かな操作を行い、それを左手が補助するという形で連動させて用いますが、左利きはどちらの手でどちらの役割もある程度こなせる人が多いです。そのため楽器を演奏することや、スポーツ活動のときには有利な面があります。また、相手と向かい合ってプレーする野球やテニスなどの競技では、左利きが少ないことも有利に作用します。現にメジャーリーグのピッチャーは約3割が左利き。割合的には1割しかいないはずなのに、3倍もいます」(山中先生)

また山中先生は左利きの方が器用な人が多いことを指摘。

「日常の様々な動作を行うときも、右利きはほとんどが右手しか使わないのに対して、左利きはもう少しフレキシブルに両手を使う人も多い。もちろん左だけしか使えない人もいるのですが、お箸やペンは右だとか、ペンは左だけど習字は右で書くとか…右利きの人ではやっていないような器用な使い分けをしている人が非常に多いです。もちろん、これは“矯正”で仕方なくどちらも使えるようになっているという側面もあるとは思います。ただ、指先や体を動かせば動かすほど、脳の活動も作られていくことを考えると、(少数派である)左利きの人は右利きとは異なる機能分化をしているとも考えられるので、違う発想をしたり、突出した性質を持っていても不思議ではありません。事実歴史上の偉人には左利きが多いですからね」

ちなみに、アメリカでは1981年から2017年までの間に40代ロナルド・レーガン氏、41代ジョージ・H・W・ブッシュ氏、42代ビル・クリントン氏・44代バラク・オバマ氏と4人の左利きの大統領が誕生しています。また古代ギリシャの哲学者アリストテレス、音楽家モーツァルト、芸術家のピカソら歴史上の偉人には左利きの人が多いそうですよ。

利き手矯正はわが子に合わせて無理のない範囲で

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いくら左利きに歴史上の偉人が多かろうと、スポーツや音楽では有利に働くことが多かろうと、日常生活で不便なことが多いのであれば、そんな不便や苦労を少しでも軽くしてあげたいと思うのが親心。

ということで最後に、矯正をする時の基本的な姿勢を山中先生に教えていただきました。

「無理な矯正は子どもにとって大きなストレスになるので、嫌がるならやめておいたほうがいいと思います。また始めるならその動作に慣れていない小さいうちにしてください。ただ、左利きは個性のひとつ。矯正よりもメリットを伸ばしてあげてはどうでしょう。もちろん、矯正するかしないかはそのご家庭の考えひとつではありますが、左利きにもメリットはありますのでそのことは忘れないでほしいと思います」(山中先生)

我が子が手を使っていろいろなことができるようになると、利き手のことが気になります。ただ左利きか、右利きかを気にするより、わが子の個性を大切にしてのびのびと育てることが何よりも大切です。そうやって子どもの能力を伸ばし、自分らしく生きる力につなげていってほしいものですね。

 

〈参考文献〉
(※1)「胎向、生後3日以内の頭部の向きと、乳児期の手の活動の関係」(橘廣・岩砂真一 2001 心理学 研究, 72, pp.177-185.)

 

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【プロフィール】
山中健太郎(やまなか・けんたろう)

昭和女子大学生活科学部健康デザイン学科 教授 東京大学教育学部卒業。同大学院教育学研究科にて博士(教育学)を取得。専門は身体教育学。日本学術振興会特別研究員、東京大学大学院助教、昭和女子大学准教授を経て、2017年より現職。現在、「両手協調動作における利き手・非利き手の役割に関する研究」に取り組んでいる。子煩悩な一児のパパでもある。

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