2018年から始まる新しい教育「アクティブ・ラーニング」 何が変わるの? 乳幼児期からできることってなに?(後編)

2018年から始まる新しい教育「アクティブ・ラーニング」
何が変わるの? 乳幼児期からできることってなに?(後編)

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来年から、「アクティブ・ラーニング」という学び方の指導が、幼児教育でも始まります。前編では、文科省の担当者、幼稚園、こども園の先生方にお話を伺い、アクティブ・ラーニングに必要なのは、自分から周りと関わり合って問題を解決する力であり、幼児教育は、その基礎となる資質・能力を身につけるものであることを教わりました。

その後編となる今回は、東京都にある文京区立お茶の水女子大学こども園を取材。乳幼児期でも特に幼い0歳、1歳の子どもたちの中にアクティブ・ラーニングの芽を育てている先生方の取組みを紹介していきます。

 

0歳、1歳だからこそ「学びに向かう力」が育つ

文京区立お茶の水女子大学こども園は、「誕生から死までの生涯発達を見据えた、0歳児からの教育・保育カリキュラムの開発と実践を行うことを目的とする」ことを謳い、昨年4月にお茶の水女子大学内に開園しました。文京区の委託を受けて、お茶の水女子大学が運営する保育所型認定こども園です。

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(宮里暁美先生)

園長の宮里暁美先生と0歳児のクラスを担当する粕川菜穂子先生に0歳、1歳の子どもたちにアクティブ・ラーニングの基礎力を育てるための指導について伺いました。

————0歳児に対する姿勢について、先生方が一番大切にされていることはどのようなことでしょうか?

宮里:その子をまるごと受け止めることです。受け止めてもらえることで、子どもたちは安心します。安心して、はじめてハイハイしたり、動き始めることができるんです。

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(粕川菜穂子先生)

粕川:安心させることはとても大切なことです。入園したばかりの4月は、それほど不安そうに見えない子でも、周囲のものを触ることから始めるんです。どんどん触って、手の届くものを引っ張り出して、あちこちをのぞいてみる。そんなことを1ヶ月ぐらい繰り返してから、ようやく園での生活を楽しむようになります。ここはどこだろう、これはなんだろうと確かめる時間が必要なのだと思います。

————子どもにとってまったく新しい場所に来るわけですから、まずは慣れない場所への不安を取り除くことが大切なんですね。

宮里:0歳児だけじゃなく、子どもはみんな自分の回りを知って安心するんです。また、家の外だけじゃなく、家の中でも同じようなことが言えます。たとえば棚とかにしまってあるものをひっくり返すと、大人は「止めなさい!散らかさないで!」と言いたくなるけれど、それを止めないで充分にさせてあげることで、子どもは自分のいる場所が分かって安心します。

————1歳ぐらいの子は、動けるようになると、家中の棚を開けて何でも取り出すからママもパパも大変ですけどね(笑)。

宮里:そうでしょうね。大変ですけど、お父さん、お母さんは「満足した?」なんて言いながら片づけて、次の日にはまた自由にさせてあげると、子どもの好奇心は充分に満たされます。家庭の中に一つでもいいから、勝手にものを入れたり出したりできる引き出しとか、与えてあげたいですよね。家の中がめちゃくちゃになるかも知れないけれど、しばらくの間ですから、ご両親が協力して寛容な気持ちで見守ってあげて欲しいです。

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粕川:こちらの園の0歳児の部屋でも、自分たちの着替えが入っている引き出しに興味を持って、出したり入れたりしようとする姿がありました。そんな姿も否定はせずに、そういう時期なんだと受け止めながら、同じような楽しみ方ができるおもちゃの工夫につなげていきたいと思っています。部屋の中では活発な子が、散歩に行くとシートの上から動かないなんていうこともありました。子どもたちがどんな場所で、どう反応をするのかは、予想がつかないです。保育者としては、見守ることをこころがけています。

宮里:「うちの子は消極的で困っています」なんてこぼすお母さんがいるけど、何かをしようとする子どもに「これはダメ」とか「早くやりなさい」って、言っていませんか。熱心なお母さんほど、子どもの気持ちを先回りして、あれこれ言いがち。充分に安心したら、子どもは自分から動き出します。大事なのは、その子らしい「やりたい」気持ち。何もせずにじっとしているように見える子だって、いろんなことを感じているんです。最初の一歩は、子どもにとってすごく大事なので、決して背中を押さないでください。しばらくほっておいて、やりたいようにやらせてあげてほしいと思います。

 

達成感、満足感から生まれる自己肯定感や意欲を大切に

「子どもが何か始めたら、何を面白がっているのか、何をやりたがっているのかを見極めてあげられるといいですね。そして、やりたがることを可能な限りやらせてあげる。アクティブ・ラーニングは、その子の意欲、自己肯定感があってこそ成り立つ学び方なんです」と宮里先生はいいます。

つまり記事冒頭に宮里先生が仰った「その子をまるごと受け止めること」という小さな子どもを育てる上での基本姿勢がそのままアクティブ・ラーニングにつながるというのです。

続いて、宮里先生はこちらの自作バッグをご紹介くださいました。

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宮里:こちらのバッグは粕川さんが、0歳用に作ったものです。取っ手をひとつしかつけていません。

粕川:通常、バックの持ち手はふたつあります。大きな子たちであれば、ふたつの取っ手を揃えて持つことは出来ますが、0歳児ではそれが結構難しい。また、取っ手がふたつあると物を入れるのも難しいんですね。0歳児でも扱いやすくするために、このようにひとつにしました。

宮里:これなら歩きはじめたころの子どもたちでも、上手にものを入れて持つことができる。今、その子どもがやりたいのは、バッグにモノを入れて持つということ。それを可能にするための工夫をしてあげることで、子どもが達成感や満足感が得られるなら、そうしてあげたいですよね。子どもの意欲や自己肯定感に繋がりますよ。

粕川:子どもはそれぞれ、興味のあることや遊び方が違います。たとえばこちらのスロープでクルマを走らせるおもちゃ。

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————木でできた小さなクルマが、上から下にガタンゴトンと落ちていくものですね。子どもってこういうの好きですよね。

粕川:ええ。そうやってある意味「普通」に楽しむ子がいるかとおもうと、同じおもちゃでも、実は遊び方っていろいろあって、クルマが台から「カタン」と落ちるのが面白くて、そればかりやっている子もいます。ほらこうやって(と言って、クルマを指で押して台から落とす)。

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この「カタン」にも発見や喜びがあるんです。ですから、子どもが何か見つけて「オー」と喜んだら、その顔をキャッチして、私も一緒に「オー」と言えるようにしています。でも子どもが一生懸命やっているところに「あら、面白いね」なんて声をかけると、集中が途切れてしまうような時もあるから、そこの加減はいつも考えています。

宮里:この園の先生たちは、子どもが思いがけない遊び方をしたとしても「違うよ。これはこうして遊ぶのよ」なんて言いません。意図を超えたり、違う使い方をしてもいいんです。もしかしたら、そんなところから、学習への興味が生まれるかも知れない。お父さん、お母さんも「いま時間ないんだけど、困るな」と思っても、10分でいいから子どもに付き合ってみようと思う気持ちを持つと、子どもが見ている世界が見えてくるかもしれません。

 

一緒に楽しみ、一緒に笑う

子どもを受け止めて、そして子どもが自発的にやっている行動や遊びをやめさせたり、口出ししたりしない。そういう大人の姿勢がアクティブ・ラーニングの力へと繋がっていくことのようです。

宮里:幼児期にこそ、大事なものが育まれています。そこで育まれる「学びに向かう力」は、幼児期から生涯にわたる教育の一本の柱にもなります。幼児教育は、以前から体験に基づく指導を大切にしてきました。それが(来年から導入される)アクティブ・ラーニングで、「いかに自分なりの学び方が必要か」といわれるようになったわけですね。そういう意味では、体験型の幼児教育はもっとさまざまな形に展開していくだろうと思います。

————自分で気づいて発見していくって、とても大切なことですよね。

宮里:そのとおりです。以前、お茶の水女子大のシンポジウムで理系コースを選んだ女子高生に「理系への興味が芽生えた時期」についてアンケートを取ったら、大半が幼児期と答えたそうです。つまり、モノが変化することとか、植物は美しいという体験をして、理系への興味が生まれるのは、幼児期に多いのです。

————興味深いお話です。幼児期の体験から、それが後々の学習意欲につながっていくということなのかもしれませんね。

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宮里:先日、当園の保護者の方が、「こおりのふしぎ」というイベントをしてくださいました。大学の先生で科学の研究をされている方です。雪ができてくるところとか、シャボン玉を凍らせるとか、子どもたちはすごく楽しい体験をさせてもらったんですけれど、その方が「科学の根本は驚く、感動するということ。今日は子どもたちがすごく驚いてくれたのはうれしかったし、これは本当に大事なことなんです」とおっしゃった。子どもたちは、体験すると考えたり、感じたり、驚いたりする。そういう経験を幼児期にいっぱい与えてあげてほしいと思います。最近は遠くへ出かけなくても、いろんな体験ができる施設がありますよね。そのときに親が一緒になってどれくらい驚くか、喜ぶか。そんなことも「アクティブ・ラーニング」に繋がるんじゃないでしょうか。

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※イメージ写真です

粕川:0歳でもすごく考えているんですよね。椅子を押して遊ぶと、敷物に引っかかる。動かなくなったと騒いでいたんですけれど、ある日、一人の子が持ち上げれば乗り越えられることを発見したんです。あ、自分で考えて解決したんだって思いました。でも、それをみんなが真似するわけじゃなくて、相変わらず「やって、やって」といってくる子もいるんです。そういう子は、手伝ってあげると喜んで落ち着くんですよね。本当に、その子、その子で全然違うんですよ。

宮里:今日、私たちは保育者という立場でお話をしました。親は保育者とは違っていていいんです。でも、保育者がこんな対応をすることを知っていたら、役立つこともあると思うんです。「この子はどうしてこんなことばかりするんだろう」なんてイライラしなくなって、子育てのストレスが減るかもしれない。それで、お父さん、お母さんが笑顔になると、子どもも笑顔になるでしょう。思考力や自己肯定感を育てるのって、そんな大人の対応が大切なんですよね。

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幼児教育の研究者として、数多くの保育者・教育者を育ててきた宮里先生と、若手ながら乳幼児の保育・教育に情熱を注ぐ粕川先生のお話から見えてきたのは、子どもたちの「学びに向かう力」を育てるのは、乳児期からのパパ・ママのわが子への「向き合い方」によるものが大きいということ。

わが子が大人になった時、能力を充分に発揮して、いきいきと活躍できることは、パパ、ママの願いでもあるはず。「主体的・対話的で深い学び」の力を育てるために、子どもの興味にじっくりつき合うこと、子どもの気持ちに寄り添って、思いやりの心や自信を育んであげることなど、日常生活の中でママ、パパにできる事はたくさんあります。子どもたちの幸せな未来のために、ママ、パパも自分自身の中に「学びに向かう力」を見つけたいものですね。

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