逆子で「帝王切開になりそう」と言われたら?
安全性と、傷あと、次の妊娠への影響

ミキハウス編集部

妊娠後期になっても逆子が続くと、医師から「帝王切開になりますね」と言われることがあります。その瞬間、プレママの頭に浮かぶのは、「手術ってやっぱりこわい」「傷はどのくらい残るの?」「2人目・3人目の妊娠・出産への影響は?」といった不安ではないでしょうか。

でも、日本の周産期医療(妊娠・出産まわりの医療)は世界でもトップクラスの安全性を誇り、その中で行われる帝王切開も、ここ数十年で大きく進化してきました。今回は産婦人科医・吉村泰典先生のお話と、国内外の医学的な知見をもとに、「帝王切開という選択肢」を落ち着いて理解するためのポイントを整理します。

【この記事でわかること】
Q. 帝王切開って、本当に安全なのでしょうか?
A. もちろん「手術」ですからゼロリスクではありませんが、麻酔や手術手技、予防的な抗菌薬の使い方などが進歩したことで、予定帝王切開は世界的にも安全性が高いと評価されています。日本は周産期死亡率が世界でも最も低い水準にあり、その一部を帝王切開の安全な運用が支えています。
  
Q. 逆子のときに帝王切開を選ぶと、赤ちゃん側のリスクは減るんですか?
A. はい、減ります。逆子を経膣分娩する場合と比べると、赤ちゃんの重い合併症は、帝王切開のほうが少なかったとする大規模研究があります。これが「逆子=予定帝王切開」が世界的な標準になった大きな理由です。
  
Q. 傷あとってどのくらい残りますか? 見た目が不安です。
A. 予定帝王切開は下腹部の横切開(約10〜12cm)が主流で、下着で隠れる位置にあります。6〜12か月で多くは細い白っぽい線に落ち着きます(※ただしケロイド体質=傷が盛り上がりやすい体質の方は目立ちやすい)。緊急時は縦切開となることがあり、位置・見え方が異なります。術後のテーピングやシリコンシートなどのケアは医師にご相談ください。
  
Q. 帝王切開だと、次の妊娠にどんな影響がありますか?
A. 次回以降の妊娠では、「前回既往帝切」として少し注意深く経過をみる必要があります。子宮破裂や前置胎盤・癒着胎盤など、いくつかのリスクがわずかに増えることが知られており、その分、産科側もフォローを厚くしています。  

 

帝王切開は「レアケース」ではありません

帝王切開は「レアケース」ではありません

まず押さえておきたいのは、「帝王切開=よほどのことがあったときだけ」という時代ではもうない、という事実。

世界全体で見ると、帝王切開で生まれる赤ちゃんは全体の約20%前後、日本でも2〜3割程度を帝王切開が占めると報告されています。逆子や前置胎盤、前回帝王切開、高齢出産、多胎妊娠など、帝王切開になる理由はさまざまです。逆子の場合も、そのひとつにすぎません。

「帝王切開は今や決して珍しいものではなく、むしろ母子ともに安心・安全に赤ちゃんを産むための“重要な選択肢のひとつ”です。また逆子だから帝王切開=自分だけが特別にトラブルを抱えたと考える必要はありません。たまたまそのルートがいちばん安全だった――それくらいの捉え方で十分です」(吉村先生)

 

予定帝王切開の安全性と、知っておきたいリスク

予定帝王切開の安全性と、知っておきたいリスク

とはいえ、「安全」と言われても、手術である以上、まったくリスクがないわけではありません。

「逆子のときの予定帝王切開には、いくつかはっきりした利点があります。一方で、手術である以上、注意しておくべき点ももちろんあります」と吉村先生。

簡単にメリットとデメリットを整理しておきます。

【メリット】
✓逆子の赤ちゃんを、安定した環境で迎えられる。
✓逆子の経腟分娩と比べて、赤ちゃんの窒息や、頭がひっかかるなどのトラブルを減らせる。

「まず、逆子を経膣分娩する場合と比べて、赤ちゃん側のトラブルを減らせるというメリットがあります。おしりから出てくると、頭がひっかかったり、へその緒が圧迫されたりといったリスクがどうしても出てきますが、帝王切開であれば、安全に赤ちゃんを出すことができます」(吉村先生)

続いてこんなメリットも。

✓手術日時を決めておけるので、スタッフや設備の準備が整った状態で出産できる。
✓緊急事態になってからの手術に比べ、母体側のストレスやリスクも抑えやすい。

「あらかじめ予定を決めて手術できるというのも大きいですね。人員も設備も整えたうえで、落ち着いた環境で赤ちゃんを迎えられます。逆子の場合、赤ちゃんの安全性という意味では、予定帝王切開のメリットは決して小さくありません」(吉村先生)

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【デメリット】
一方で、帝王切開はあくまで「おなかと子宮を切る手術」です。“ゼロリスク”ではありません。

「経腟分娩に比べると、どうしても出血量は多くなる傾向がありますし、傷の感染や血栓(血のかたまり)ができるリスクもゼロではありません。麻酔に伴うトラブルも、非常にまれですが可能性としてはあります」(吉村先生)

ただし、こうしたリスクに対しては、あらかじめ標準的な対策がとられています。

「いまは、予防的な抗菌薬を使ったり、翌日から歩行を始めてもらったりして、血栓や感染症のリスクをできるだけ減らす工夫をしています。術中・術後もモニターで全身状態をきちんとチェックします」(吉村先生)

こうした対策により、予定帝王切開の合併症リスクは、統計上かなり低く抑えられています。

「ですから、《帝王切開だから危ない》と考える必要はありません。逆子という条件のもとで、母子ともに一番安全にゴールできるルートはどれか、その比較で考えるのがいちばん現実的だと思います」(吉村先生)

 

傷あととからだへの負担 「どこまで戻るのか」を現実的に

傷あととからだへの負担 「どこまで戻るのか」を現実的に

多くの方が気にされるのが、「傷あと」と「回復までの時間」ではないでしょうか。そう、いくら安全だと頭でわかっていても「傷あとがどれくらい残るのか」「術後も痛むのではないのか」は気になるところ。

まずは手術の傷あとについて。
いま日本で主流なのは、下腹部を横に切る「横切開(ビキニライン切開)」です。

✓長さはおおむね10〜12cmほど。
✓下着や水着に隠れる位置。
✓術後しばらくは赤みや段差がありますが、半年〜1年ほどかけて徐々に白っぽく、細い線のようになっていきます。

👉 体質によっては、傷部分がケロイド状に盛り上がる、色素沈着が残りやすいといったケースもあります。しかし、その場合も皮膚科的な治療や保護テープなどの選択肢があります。縦切開に比べて横切開は傷跡が残りにくいとされています。

続いて、産後の体力の回復について。これは経腟分娩よりは少し時間がかかることになります。

✓術後1〜2日は痛みが強く、鎮痛薬を使います。
✓3〜4日目以降から少しずつ動きやすくなり、退院の目安は7日前後が一般的。

「『帝王切開は楽なお産だ』という言い方をされることがありますが、これは明らかに誤解。経腟分娩のように、長時間の陣痛に耐える消耗は少ない一方で、帝王切開には“おなかと子宮を切る手術”としての負担がありますし、傷の痛みと付き合いながらすぐに赤ちゃんのお世話が始まります。どちらが楽か/どちらが大変かという単純な話ではなく、負担のかかり方が違うだけだと理解しておいていただくといいと思います」(吉村先生)

 

次の妊娠・出産への影響はあるの?

次の妊娠・出産への影響はあるの?

「帝王切開をしたら、2人目・3人目はどうなるの?」という疑問も多く聞かれます。ここでは、医学的に押さえておきたいポイントを、①次の妊娠までの期間、②次の出産方法、③合併症リスクの3つに分けて整理しておきましょう。

「帝王切開をしたとしても、もちろん妊娠も可能ですし、産めます。ただし、次の妊娠・出産で気をつけるべき点が少し増えるのも事実なので、そこを正しく知っておいてほしいですね」(吉村先生)

①次の妊娠までの期間→“インターバル”は少し長めに
帝王切開後の子宮の傷が、次の妊娠に耐えられるだけしっかり治るには、ある程度の時間が必要です。

「子宮の傷は、表面上は早くふさがっても、組織としてしっかり丈夫になるまでには時間がかかります。一般的には、次の妊娠までは少なくとも1年、できれば1〜2年ぐらいは間隔をあけることをおすすめしています」(吉村先生)

妊娠間隔が短いと、子宮の傷が十分に回復していないタイミングで再び大きくなる。そのぶん、子宮破裂や早産などのリスクがわずかに上がる――と報告されています。

「もちろん、計画どおりにいくとは限りませんが、『できれば1〜2年あけた方が安心』という目安を頭の片隅に置いてもらえるといいと思います」(吉村先生)

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②次の出産方法→再度の帝王切開が“多数派”
次の妊娠で気になるのが、「今度は経膣分娩できるのか?」という点です。

「日本では、『前回帝王切開であれば、次回も帝王切開』という方針の施設が多数派です。理由のひとつは、陣痛が強くなったときに、前回の傷の部分から子宮が裂けてしまう『子宮破裂』のリスクが、通常よりは高くなるからです」(吉村先生)

子宮破裂は頻度としては高くありませんが、起きた場合は母子ともに重い影響が出る可能性があるため、経腟分娩する場合は〈陣痛中もごく慎重なモニタリングが必要〉〈トラブルが起きたらすぐ手術に切り替えられるだけのスタッフ・設備が必要〉といった体制を常に整えておく必要があります。

「一部の大きな病院では、『帝王切開のあとに経腟分娩にトライする(TOLAC/VBAC)』という選択肢を用意しているところもあります。ただ、その場合でも、子宮破裂のリスクが否定できないので、厳密な条件と慎重な管理が前提になります。日本全体で見ると、『前回帝王切開 → 次回も帝王切開』という流れがいまのところは主流ですね」(吉村先生)

③合併症リスク→前置胎盤・癒着胎盤などのリスクは「少し」上がる
帝王切開の既往があると、次回以降の妊娠で、前置胎盤・低置胎盤(胎盤が子宮の出口にかかってしまう状態)、癒着胎盤(胎盤が子宮に深く食い込んでしまう)といった合併症のリスクが、わずかに高くなることが知られています。

「これも、『帝王切開をしたから、必ずこうした合併症が起きる』という話ではありません。ただ、“少しリスクが高くなる分、医療側も最初からそこを意識して妊娠経過を見ていく”ことになります。また次の妊娠においても、慎重な対応が必要になります。ただし悲観的になる必要はありません。次の妊娠では『少しだけ気をつけるポイントが増える』ということを知っておいてもらえると、医師側とも同じ目線で話がしやすくなると思いますよ」(吉村先生)

帝王切開は母子を守るために医療が用意している、もうひとつの正解ルート。逆子で帝王切開になったとしても、あなたが妊娠期間を乗り越えてきた事実、そして赤ちゃんが安全にこの世界にやって来たという事実は変わりません。

「逆子であっても、今の日本ではこういう安全な選択ができる」という視点を持てるだけで、見える景色は大きく変わります。不安な気持ちがあるときこそ、担当の先生に率直に疑問をぶつけてみてください。そのうえで、自分と赤ちゃんにとっての「いちばん安心できる出産方法」を、落ち着いて選んでいきましょう。

 

【監修】吉村泰典(よしむら・やすのり)
慶應義塾大学名誉教授 産婦人科医

1949年生まれ。日本産科婦人科学会理事長、日本生殖医学会理事長を歴任した不妊治療のスペシャリスト。これまで2000人以上の不妊症、3000人以上の分娩など、数多くの患者の治療にあたる一方、第2次~第4次安倍内閣では、少子化対策・子育て支援担当として、内閣官房参与も務める。「一般社団法人 吉村やすのり 生命の環境研究所」を主宰。

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