妊娠36週をすぎても逆子のままだったらどうする?
専門家に聞く、現実的な選択肢

ミキハウス編集部

妊娠中期〜後期の「逆子」は決して珍しいことではなく、36週までに約95%の赤ちゃんが自然に頭を下に向けます。

とはいえ、健診で「36週をすぎてもまだ逆子ですね」と言われると、「もう戻らないの?」「帝王切開しかないの?」と、不安が一気に現実味を帯びてきますよね。
本記事では、36週をすぎてもまだ赤ちゃんが逆子のままでいる場合、どう捉えて、なにをしたらいいのかを整理します。どんな選択肢が現実的なのかを、産婦人科医・吉村泰典先生に教えていただきました。

【この記事でわかること】
Q. 妊娠36週をすぎても逆子というのは“珍しい”状態なのですか?
A. 臨月で逆子のままなのは、全体の約5〜7%とされています。
  
Q. 36週をすぎてから自然に頭位に戻ることはありますか?
A. 可能性はゼロではありませんが、この時期は「自然に任せていればそのうち戻る」より、「どう産むかを考える段階」と考えるのが現実的です。
  
Q. 逆子のまま出産するときの“標準的な選択肢”は?
A. 今の日本の場合、多くの施設では予定帝王切開が原則です。逆子の経腟分娩(下からの出産)を行う施設は限られており、厳格な体制が必要になります。
  
Q. 昔は「逆子でも下から産めた」と聞きますが、なぜ変わったのですか?
A. 2000年前後に行われた大規模研究(Term Breech Trial)で、正期産の逆子は「経腟分娩を試みる方針」よりも「陣痛前に日程を決めて行う予定帝王切開」のほうが新生児の重篤な合併症が少ないことが示され、世界的に「逆子=帝王切開」が主流になりました。
Planned caesarean section versus planned vaginal birth for breech presentation at term: a randomised multicentre trial
  
Q. 自分としては「できれば下から産みたい」と思っているのですが…?
A. その気持ちはとても自然なものです。本記事では、現実的に取りうる選択肢と、医師と話すときに確認しておきたいポイントを整理します。
  

 

36週をすぎても逆子のままだったら、どうしたらいいの?

36週をすぎても逆子のままだったら、どうしたらいいの?

妊娠36週をすぎても逆子のままというケースは、妊婦全体でおよそ5〜7%ほど。また、臨月での逆子(骨盤位)は、全妊娠の約3〜4%とされています。

「産科医の側から見ると、珍しいけれど、十分に想定している範囲の出来事ですね」と吉村先生。

「34週以降の逆子は、“このまま放っておけばいつか戻るよ”ではなく、“どういう出産方法がいちばん安全かを、医師らと一緒に考え始めるタイミング”だと考えてもらうといいと思います」(吉村先生)
もし臨月が近づいて逆子のままだったとしても「どうして?」と思い悩むのではなく「この子の場合は、今の姿勢が楽だったんだな」と前向き受け止めて、出産の方法についてお医者さんと相談してみてくださいね。

 

かつては「逆子でも経腟分娩」が当たり前だった時代もありました

かつては「逆子でも経腟分娩」が当たり前だった時代もありました

今では「逆子=予定帝王切開」というイメージが強いですが、実は数十年前までは、逆子でも経腟分娩(下からのお産)を行うことが珍しくありませんでした。
「私自身、若いころは骨盤位の経腟分娩を何十例も担当してきました。おしりが先に出てくる分娩の介助手技も含めて、きちんと訓練を受け、経験を積むのが当たり前だった時代です」(吉村先生)

当時は、

✓逆子でも陣痛が来たらそのまま経膣分娩を目指す。
✓途中で赤ちゃんやお母さんの状態が悪くなったら、その時点で帝王切開に切り替える。

というスタイルが主流だったそう。医療側だけでなく、患者側にもそれは自然な流れだったといいます。

 

2000年前後から逆子の出産は帝王切開が“スタンダード”に

2000年前後から逆子の出産は帝王切開が“スタンダード”に

この流れが大きく変わるきっかけになったのが、2000年に発表された「Term Breech Trial(ターム・ブリーチ・トライアル)」と呼ばれる大規模研究です。

世界26か国・約2000例以上の「正期産の逆子」を対象に、〈予定帝王切開をするグループ〉と〈経腟分娩にトライするグループ〉を比較したところ、次のような結果が出たと吉村先生は語ります。

「赤ちゃん側の死亡・重い後遺症などのリスクは、予定帝王切開の方が有意に低かったんです。一方で、母体の大きな合併症(大量出血・重い感染症など)は両者で大きな差がなかった。つまり、逆子であれば、予定帝王切開のほうが、赤ちゃんの安全性が高い、という結論が示されたんですね。これが世界中の産科医療に大きな影響を与えました」(吉村先生)

この結果を受けて各国のガイドラインが改訂され、日本でも徐々に「逆子は原則として予定帝王切開」「逆子の経腟分娩を行う場合は、施設・医師が十分な経験と体制を持っていることが前提」という考え方が主流になっていきました。

そして、現在の日本では、多くの施設で“逆子は予定帝王切開”という運用が標準的に

「件の研究結果に加えて、骨盤位経腟分娩を経験する医師が年々少なくなり、経腟分娩させる技術と医療体制を維持するのが難しくなってきた事情もあります」(吉村先生)

要するに、赤ちゃんの安全性が高いというエビデンス、医師・スタッフ側の経験値の変化、さらにリスクを事前に減らす「予防的な医療」の考え方も重なり、「逆子=予定帝王切開」が合理的なスタンダードになった、という流れです。

リスクをできるだけ事前に下げる方向に、医療が進化してきた結果と理解していただいて結構です」(吉村先生)

 

それでも「できれば下から産みたい」と思う気持ちにどう応えるか

それでも「できれば下から産みたい」と思う気持ちにどう応えるか

一方で、逆子とわかっても、「できれば自然分娩がしたい」「おなかを切らずに産みたい」と願うプレママも少なくありません。

「その気持ちは、とてもよくわかります。ただ、日本全体で見ると、逆子の経腟分娩を行っている施設はごく少数ですし、かなり厳密な条件や、熟練したスタッフ・緊急帝王切開へすぐ切り替えられる体制が必要になります」(吉村先生)

現実問題として、病院として「逆子は予定帝王切開です」とはっきり方針を決めているところも多く、また逆子経腟分娩の経験が豊富な医師が、勤務先にすでにいないケースがほとんどのため、「希望すれば誰でも下から産める」状況ではないといいます。

「どうしても経腟分娩を目指したいという場合は、そうした症例を扱っている大病院へ転院するか、外回転術(おなかの上から赤ちゃんを回して頭位にする処置)を検討するといった選択肢が出てきます。外回転術については数年前までは安全性に問題があるとの見方もあったのですが、ここ数年で状況が変わりつつあります。外回転術については、別記事であらためて詳しく取りあげますね」(吉村先生)

 

医師と話すときに押さえておきたいポイント

医師と話すときに押さえておきたいポイント

34〜35週ごろになっても逆子が続いていると言われたら、次の健診や診察で、担当医と次のようなポイントを少しずつ確認しておくと安心です。36週を迎える頃までに、おおまかな方針を共有できているとベターです。

① この病院の「逆子の基本方針」は?

✓原則として予定帝王切開なのか
✓条件付きで経腟分娩も選択肢に入るのか
✓外回転術を行っている(または紹介している)施設かどうか

👉 病院ごとの「スタンス」がかなり違うので、まずここを率直に聞いておきたいところです。

② ママと赤ちゃん、とくに確認すべき点は?

■ママの確認ポイント
✓前置胎盤などの胎盤位置
✓子宮筋腫や子宮の異常(双角子宮などの先天性子宮異常)
✓既往帝王切開の有無や切開の種類    など

■赤ちゃんの確認ポイント
✓赤ちゃんの推定体重(極端に小さい/大きい場合)
✓羊水量(重度の羊水過少など)
✓胎児の奇形や重い合併症の有無    など

👉 こうした条件によって、そもそも「経腟分娩や外回転術が選べるかどうか」自体が変わってきます。たとえば、前置胎盤や重度の羊水過少、明らかな胎児異常などがある場合には、帝王切開になります。自分と赤ちゃんの状態で“特記事項”があるかどうかは、遠慮なく担当医に聞いておきましょう。

③ 帝王切開を選んだ場合の流れとタイミング

✓予定帝王切開の実施週数(多くは37〜38週台)
✓入院期間や術後の回復の目安
✓上の子がいる場合、どのようなサポート体制を考えておくと安心か

👉 「いつ・どのくらい入院するか」がわかるだけでも、仕事や家庭の調整がしやすくなります。

④ 「自分たちとして何を大切にしたいか」を共有する

✓赤ちゃんの安全性を最優先に考える
✓可能な範囲で経腟分娩も検討したい
✓母体の回復や次の妊娠への影響も含めて、どう考えているか

👉 こうした価値観を、遠慮せず医師に伝えていい場面です。そのうえで、医療側の視点とすり合わせながら「この人にとってのベスト」を一緒に探していくイメージを持ってもらえたらと思います。

 


 

妊娠36週をすぎても逆子のまま――。
それでも、今の日本では「逆子であっても、こういう安全な選択ができる」という土台がしっかり整っています。34〜35週ごろからこうしたポイントを整理しておけば、36週以降に慌てて決める必要もありません。いまの状況と選べる選択肢を知ったうえで、担当の先生とよく相談しながら、安心して出産の日を迎えてくださいね。

 

【監修】吉村泰典(よしむら・やすのり)
慶應義塾大学名誉教授 産婦人科医

1949年生まれ。日本産科婦人科学会理事長、日本生殖医学会理事長を歴任した不妊治療のスペシャリスト。これまで2000人以上の不妊症、3000人以上の分娩など、数多くの患者の治療にあたる一方、第2次~第4次安倍内閣では、少子化対策・子育て支援担当として、内閣官房参与も務める。「一般社団法人 吉村やすのり 生命の環境研究所」を主宰。

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