医師が教える乳腺炎ケアの新常識
おっぱいが痛い・しこりがあるときは「冷やす」が正解

授乳中におっぱいが張って痛い。しこりが取れない。そんなとき、お風呂で温めたり、痛みを我慢してグリグリとマッサージをしていませんか? 実はそれ、乳腺炎を悪化させることになるかもしれません。この記事では、産婦人科医の吉村泰典先生の解説とともに、最新の考え方に沿った、乳腺炎を緩和させるためのセルフケア法をご紹介します。

【この記事でわかること】
Q. しこりは揉んでほぐすべき?
A. 強く揉むのは避けましょう。しこりは“むくみ”によって乳管が圧迫されているケースもあり、強い刺激は組織を傷つけて腫れを悪化させます。触れるなら、表面をなでる程度のリンパケアに留めてください。
  
Q. 「温めて出し切る」のは正しい?
A. 炎症(痛み・赤み・熱感)があるときは「冷やす」のが基本です。 かつては「温めて出し切る」と言われていたこともありましたが、炎症時に温めると血流が良くなりすぎて腫れが悪化することがわかっています。赤ちゃんが飲んだ分だけで十分と考え、授乳後に手や搾乳器を使って空っぽになるまで「搾り切る」のは控えましょう。
  
Q. 張りすぎて痛いときはどうすればいい?
A. どうしても辛いときは、内圧を下げるために「圧抜き(ほんの少し搾る)」をしても構いません。ただし、目的は「空っぽにすること」ではなく「痛みを和らげること」です。搾りすぎないよう注意しましょう。
  
Q. 痛みもあるけど授乳は続けていいの?
A. 続けて大丈夫です。急に止めると母乳が溜まって悪化する原因になります。完全に空にするまで出し切る 必要はありません。「赤ちゃんが欲しがる分だけあげる」が基本です。
※医師から中止の指示がある場合は、その指示に従ってください。
  
Q. 梅毒はどうやって感染するの?
A. 主に性行為による「粘膜や皮膚の接触」で感染します。
  
Q. 薬は飲んでもいい?
A. 大丈夫です。解熱鎮痛薬(例:イブプロフェン、アセトアミノフェン)は、痛みを抑えるだけでなく、炎症を落ち着かせる目的で使われます。ただし、授乳中の服用は、体質や持病、薬の種類によって判断が変わるため、医師・薬剤師に相談してください。

 

迷ったらまずはこれ! 乳腺炎ケアの「新常識」3ステップ

「おっぱいが痛い!」と感じたとき、まずどうすればいいのか。最新の医学的知見に基づいた対処法をまとめました。

1:まずは「抱き方」を変えて飲ませる

しこりがある場合、いつもの抱き方では吸い取れていない可能性があります。「フットボール抱き(脇抱き)」や「縦抱き」など、赤ちゃんの角度を変えることで、詰まりが驚くほどスムーズに流れることがあります。

まずは抱き方を変えて飲ませる

〈▲ こちらがフットボール抱き。ラグビーボールを小脇に抱えるような姿勢です。このとき、ママの手のひら全体で、赤ちゃんの頭(首の後ろ)をしっかりと支えてください、通常の「横抱き」とは赤ちゃんの吸う角度が変わるため、特におっぱいの外側・脇側の詰まりに対して効果的です〉

2:「炎症サイン」をチェックする

✓赤み・熱感・痛みがある → 「冷やす」(温めはNG!)
✓ただ張っているだけ(赤み・痛みなし) → 温めてもOKですが、張りやしこりがなくなるまで温め続けるのは禁物。

「炎症サイン」をチェックする

3:「出し切る」のではなく「休ませる」

授乳は赤ちゃんが欲しがるだけが基本です。もし飲み残しがあっても搾乳器などで無理に搾り切らないこと。辛いときだけ、少し圧を抜く程度に搾りましょう。

「出し切る」のではなく「休ませる」

 

その「しこり」、いわゆる“詰まり”だけが原因とは限りません

乳腺炎のなかには、「乳房緊満(にゅうぼうきんまん)」や「うっ滞性乳腺炎」の状態が続いた結果、一部が細菌感染を伴う乳腺炎(化膿性)に進むことがあります。これまで、初期段階である「うっ滞性乳腺炎」は、母乳の塊が栓をしていることが原因だと思われがちでしたが、最近は炎症によるむくみ(腫れ)が関わり、乳管が外側から圧迫されて通りにくくなるケースもあると考えられています。

乳腺炎対策として「温める・揉む」は逆効果

ひと昔前までは「乳腺炎の初期は温めてマッサージして流しましょう」と言われることもありました。ただ張っているだけで、痛みも赤みもない場合は、それでもいいのですが、乳腺炎の基本ケアは強く揉んだり刺激したりせず、炎症を落ち着かせること。とにかくやさしいケアを心がけてください。

「以前は、『詰まっているから、温めてマッサージで出し切る』というケアが主流でした。現在では赤く腫れ硬くなり痛みがある場合は、『冷やして休ませて治す』が基本です。」(吉村先生)

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「『赤み』『熱感』『痛み』などの症状があるときは、すでに炎症が起きているサイン。この段階では、腫れを引かせて母乳の通り道を広げる必要があるので、冷やしてください」(吉村先生)

単におっぱいが張っているだけの場合でも、過度な温めや強いマッサージは組織を傷つけ、炎症を引き起こすきっかけになることがありますのでお控えください。また炎症時に冷やして様子を見ても発熱や強いだるさがある、赤みが広がる、短時間で悪化するときは、細菌感染が関わる可能性もあるので医療機関に相談してください。

 

乳腺炎ケアの新ルール「BAIT(バイト)」

近年になり、乳腺炎のつらさを長引かせないために「休ませる」「炎症を抑える」「冷やす」「痛みを取る」をセットで考えるルールが欧米ではスタンダードになりつつあるそうです。その考え方を覚えやすくしたものが「BAIT(バイト)」。

BAITとは【Breast Rest(乳房の安静)】【Anti-inflammatory(抗炎症)】【Ice(冷却)】【Tylenol(アセトアミノフェン/鎮痛)】の頭文字からなる、乳腺炎ケアの4つの基本ルールです

乳腺炎ケアの新ルール「BAIT(バイト)」

「『搾りすぎない、温めすぎない、痛みを我慢しない』が現代のケアの基本です。特に薬に関しては、『母乳に影響するから』と我慢するお母さんが多いですが、ストレスは血流を悪くして治りを遅くします。今は授乳中でも飲める安全な薬(イブプロフェンやアセトアミノフェンなど)がたくさんあります。これらは単なる痛み止めではなく、炎症そのものを鎮めて乳管を広げる『治療』の一環です。医師や薬剤師に相談して、上手に医療の力を借りてくださいね」(吉村先生)

 

炎症を起こしているときの授乳、どうするのがいいの?

炎症を起こしているときの授乳、どうするのがいいの?

大切なのは、授乳を止めないこと。ただし、炎症を起こしてデリケートになっているおっぱいには、いつも以上に「やさしいアプローチ」が必要です。痛みを我慢して無理に吸わせるのではなく、負担をかけずにスムーズに流すコツをご紹介します。

マッサージではなく「リンパ流し」と「圧抜き」

しこりがある場合はマッサージでほぐすのではなく、あくまでやさしく撫でるように。以下の2ステップでやさしくケアしましょう。

【ステップ1】「リンパ流し」でむくみを取る
おっぱいの根元から脇の下、鎖骨に向かって、皮膚の表面をなでるイメージです。これだけで溜まった水分(リンパ液)が流れ、むくみが取れやすくなります。

【ステップ2】「圧抜き」で張りを和らげる
仕上げに「出口」を広げてあげることも大切です。吉村先生は「圧抜き」を推奨。これは、乳頭(先っぽ)ではなく、そのまわりの乳輪や乳管の出口付近をやさしく緩めることで、乳輪のむくみを散らし、赤ちゃんが深く咥えやすくするためのケアです。無理に母乳を押し出す必要はありません。

「『リンパ流し』で全体のむくみを取り、『圧抜き』で張りを和らげる。このセットを行うことで、よりスムーズに排乳を促せます。いずれもポイントは強い力を使わないこと。炎症を起こした組織をいじめないように、皮膚の表面をなでるくらいのやさしさで行いましょう」(吉村先生)

「フットボール抱き」や「縦抱き」で、赤ちゃんのくわえ方が深くなるように試す

また、腫れて狭くなった乳管から母乳を通すには、赤ちゃんの吸引力が一番の助けになります。

「一番多い原因は、赤ちゃんの『くわえ方』が浅いこと。乳頭(乳首の先)だけを浅く吸わせていても、おっぱいの奥にある母乳は出てきません。それどころか、乳頭が傷ついてそこからバイ菌が入りやすくなってしまいます。コツは、赤ちゃんの口をアヒルのように大きく開けさせ、乳輪まで深くガバッとくわえさせること。授乳時の赤ちゃんの体勢を変えることでくわえやすくなったりもしますよ。こうするだけで、詰まりかけた母乳が驚くほどスムーズに流れることもよくあるんです」(吉村先生)

 

こんなときは受診を! 病院へ行く目安

こんなときは受診を! 病院へ行く目安

こうしたセルフケアをしても24時間で改善しない、または急速に悪化する場合、あるいは以下のようなサインがある場合は、医療機関へ相談しましょう。特に、高熱や悪寒など全身症状があるときは、24時間待たずに早めに受診してください。

【受診の目安リスト】
✔ 38.5℃以上の熱が出ている
✔ 寒気(悪寒)がして震えが止まらない
✔ おっぱい全体が赤く腫れ上がっている
✔ しこりのまわりが赤黒くなっている

「今はいい薬がありますし、早めに受診すれば、切開が必要になるような重症化(乳腺膿瘍)はほとんど防げます。高熱や悪寒はからだが『助けて!』と言っているサインです。無理せず医療の力を借りてくださいね」(吉村先生)

乳腺炎のケアは、「がんばって出し切る」から「冷やして休める」へと変わっています。また、授乳方法(赤ちゃんのくわえ方や抱き方)を少し見直すだけで、おっぱいの流れは劇的に改善することもあります。炎症が起きたら、まずは冷やしてください。痛いときは薬を飲んで、保冷剤を当てて、ママが横になって休みましょう。どうぞ無理をせず、ご自身のからだと心を大切にしてくださいね。

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【監修】吉村泰典(よしむら・やすのり)
慶應義塾大学名誉教授 産婦人科医

1949年生まれ。日本産科婦人科学会理事長、日本生殖医学会理事長を歴任した不妊治療のスペシャリスト。これまで2000人以上の不妊症、3000人以上の分娩など、数多くの患者の治療にあたる一方、第2次~第4次安倍内閣では、少子化対策・子育て支援担当として、内閣官房参与も務める。「一般社団法人 吉村やすのり 生命の環境研究所」を主宰。

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