I:読者の皆様からの反響などは先生のところにも届いているのでしょうか?
高橋:はい。実際に買って読んでくださった方から、ネットやお手紙でご意見をいただいています。そのほとんどが「肩の力が抜けて楽になりました」というものでした。「こうすればよかった」とか「ここをがんばる」ではなくて、「あ、気にしなくてよかったんだ」とか「救われた」と言うコメントが多かったんです。
I:そうなんですね。
高橋:裏を返すと、ママたちは肩に力が入っているんでしょう。がんばりすぎているというか、子育てを重荷に感じている。失敗は許されないと思っている。そして、ママは往々にして子育てについて、いつも反省している。少子化もあり、子どもは大事、大事と言いすぎている社会的風潮もある。大事に育てろというのは、逆に言うと責任を母親に押し付けていることにもなると思うんです。「少子化なんだから、子どもを産みましょう。産んだら、しっかり責任をもって育ててね」という社会の圧力があるというか…。
I:たしかに、子育てにプレッシャーを感じているママは多いかもしれないですね。
高橋:あとね、ネットを中心に医療や子育てに関する情報が溢れていますよね。ああいう情報はぼくが見る限り基本的に正しいです。ぼくのところに相談に来るママたちも、昔と比べて正しい情報を身につけているから、説明しても理解が早かったりする。ただ、ネットの情報が正しいからと言って、それらがすべてあなたの役に立つわけではないということも知っておいて欲しい。ぼくには、正しい情報に振り回されているママが多いような気がするんです。
I:それはそうかもしれないですね。あとSNSが一般化して、他人と比較しやすい社会になっているのも、ママたちの肩に力が入る原因かもしれません。他人のSNSって、気にしないと思っても、気になりますし…。
高橋:成功談も失敗談もみんな入ってくるけど、そこで自分の“位置”というのが自ずとわかってくる。当然、ママはよりよい子育てをしようとがんばるわけですが、これがプレッシャーの源泉になっている。ぼくが何度でも言いたいのは、そんなにがんばる必要なんて本当はないんだということ。子どもの個性や能力は、人類が何万年、何億年という単位で進化させてきた遺伝子が支配している部分が大きい。つまり「なるようにしかならない」わけです。
I:はい、常に先生が仰ってますね。
高橋:そうそう。世の中にはたくさんの育児書があります。何冊か読んでいただいたとして、その中にぼくが言っている「どうでもいいじゃん」「なるようにしかならないよ」「結果はあなたのお子さんの結果であって、あなたの育児の結果じゃないよ」という本が一冊ぐらいあってもいいじゃないですか(笑)。
I:そして、その本が売れているのは、子育てに前向きになりたいという方、もうこれ以上プレシャーを感じたくないという方が多いからなのかもしれませんね。
高橋:本当にそうですよね。子育てに責任を感じすぎる傾向は、本当によくないと思います。心から楽しんで子育てをしてほしいです。
※ ※ ※
続くインタビューの後編では、本の内容から、そこに込められた先生の思いを伺っていきたいと思います。
<プロフィール>
高橋孝雄(たかはし・たかお)
慶應義塾大学医学部 小児科主任教授 医学博士 専門は小児科一般と小児神経 1982年慶応義塾大学医学部卒業後、米国ハーバード大学、マサチューセッツ総合病院小児神経科で治療にあたり、ハーバード大学医学部の神経学講師も務める。1994年帰国し、慶應義塾大学小児科で現在まで医師、教授として活躍する。趣味はランニング。マラソンのベスト記録は2016年の東京マラソンで3時間7分。別名“日本一足の速い小児科教授”。