連載「高橋たかお先生のなんでも相談室」 
特別編(後編) 
親が子どもに与えてほしい「3つのこと」

統計や科学的な正しさよりも、人の心に響くこと

I:ところで、最後の第4章「病児とのかけがえのない出会いがおしえてくれたこと」では、過去に出会った患者さんたちのエピソードをいつくか書かれていますね。別の章とは若干毛色が違いますが、これはどのような意図で書かれたのでしょうか?

高橋:患者さんのことを本に書くことについては、ものすごく迷いました。一歩間違えば、彼らの尊厳にかかわることですから。でも“たとえ話の力”ってあると思うんですよ。世の中で、特に医学、医療に関わることで正しいと主張するためには統計や科学的な裏付けが必要で、“正確”であることが大前提のように思われているじゃないですか。でも本当に役に立つことって、「正しい」「正しくない」ではない。科学的でも正確でなくてもいい。読んだ人が心に感じるものがあるってことが大切じゃないですか。たとえばこんな子どもがいました。それって強い説得力があって、誰かの役に立つんじゃないかと思ったんです。

I:たしかにどのエピソードも心に響きました。

高橋:たとえば、子どもへの愛情を感じることができないという精神的問題を抱える母親に育てられ、脳が委縮するほどのダメージを負った男の子の話。病院に保護され、母親と長く離れて暮らすことになった。病院にいる間も施設にいる間も完全面会禁止。そして数年の治療を経て彼の心は回復し、いよいよ数年ぶりに母親と再開しました。彼はまだ6歳の子どもでしたが、「お母さん、病気治ったんだ、よかったね」と母親に言葉をかけたのです。実は退院の時に我々医師はその子に嘘をついていたのです。「お母さんは重い病気なんだ。だから一緒に暮らせないんだ。退院してもしばらく施設で暮らそうね」と。生まれて6年間、母親から一切の愛情を受けずに生きてきた。その状況でも「お母さんは病気なんだ。早く元気になってほしい」という思いを胸に養護施設で生きていたのです。ぼくの医師人生の中でも、強く記憶に残っている光景のひとつです。

02

I:凄まじいお話です。

高橋:ぼくの医師としての36年間の仕事を支えてきたものは、毎日の診察とかデータに基づいた治療ではなく、ドーンと衝撃をうけた一生忘れられない経験なんです。病気の子どもと向き合っていると、そういう経験を多くする。本に書かせて頂いた体験は、もちろんすべてが特異なケースですが、みなさんにとっても決して他人事ではありません。自分の子育てのヒントになる要素を掴んでいただけたらうれしいです。

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