連載「高橋たかお先生のなんでも相談室」 
特別編(後編) 
親が子どもに与えてほしい「3つのこと」

「子どもがしあわせなら……それだけで みんな、しあわせ」

I:ところで、本書では「社会的な育児」について触れておられます。多様性が叫ばれる社会においては、子どもを産まない・育てない権利も尊重しよう、みたいな声もあります。
そういった状況の中で、この社会的な育児の重要性を説かれているのは非常に興味深いと思いました。

高橋:子どもを欲しくても恵まれない人もいるし、子育てよりも他にやるべき事があると思っている人も世の中にはたくさんいます。また社会は子育て前の世代、子育てが終わった世代など、子育てに(直接的には)関係のない人たちが大半を占めています。そして今子どもを育てている人も、それは人生の中では短い期間。となるとこの社会で暮らす多くの人にとって子育ては関係のない話になる。

I:はい。

高橋:これ、誤解をされては困るのですが、日本社会ではどこかに「子どもは子どもを産んだ人の“成果物”」という考えがあると思うんです。その成果物に教育を施し、将来の日本経済を支えるように育てるのは、成果物を産んだ母親の責任であると。

I:子育てにプレッシャーを感じるママも多いのはそれも一因かも…。

高橋:だからこそ、社会的な育児、つまり社会全体が育児に参加することを呼びかける必要があると思うんです。生物である以上、子どもを慈しみ敬うのは当然のこと。これは価値観とは別次元のもので遺伝子に組み込まれた本能ともいうべきものです。自分の種族の子どもを他人の子どもを含めて敬うから、こうして命をつなげていけているわけです。しかし、直接的に子育てをしている人だけが子育てをしなければいけないとなったら、その負担はその夫婦だけにかかってしまう。子どもがいる、いない、子育てをしている、していないにかかわらず誰もが、この社会に子どもがいることに感謝し、みんなで育てようと思えることはとても大切なことです。大人みんなが子どもに優しい目を向けて心を配る社会になれば、子どもがしあわせになるばかりでなく、なにより大人がしあわせになれる———ぼくはそう思っています。

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I:そうした社会を実現してこそ、「最高の子育て」ができるようになるのかもしれませんね。

高橋:そうですね。「子どもがしあわせなら‥…それだけで みんな、しあわせ」。みんなしあわせになりたければ、子どもを守ろう。もし、あなたに子どもがいなくても、あなたの遺伝子には父性、母性が備わっているはずです。それをこの社会に暮らす子どもたちに分け与えてみてはいかがでしょうか。ぼくなりの提案です。子どもは未完成かも知れないけれど大人の従属物じゃない――社会の主役。社会全体が子どもに目を向け、関心を持つ、そんな“社会的子育て”が理想だと考えています。

I:みんなが目を向けることで、子育てしやすい環境になっていきそうですよね。

高橋:そうなんです。子どもに優しい社会になれば、当の子どもたちも、小学生や中学生の頃から「子どもっていいな」「かわいいな」と思えるようになり、「自分もいつか子どもを育ててみたい」と思うでしょう。また母親になって、電車で赤ちゃんが泣きやまずに困ることがあっても、また少し育てにくい子どもを授かったとしても、「私も他の子どもたちをあんなにやさしい気持ちで見守っていたんだから、きっと自分もひとりじゃない」と思えるはず。

I:子育てをする上で「自分ひとりじゃない」と心から思えることはすごく大切ですよね。

高橋:はい。最後に言いたいことは、育児は「義務」とか「責任」ではなくて「権利」だということ。ある限られた時期に与えられた権利であり、喜びです。そしてそれは実の親だけでなく、社会に暮らすみなさんが持っている権利なのです。

I:社会全体が子育てに前向きになれば、みんながしあわせになれる。そのメッセージは、出産準備サイトの連載でも引き続き届けていきたいです。本日はいいお話をありがとうございました

 

※         ※         ※

「子育てに大切な三つのこと」、「逆境に負けない遺伝子の力」、「社会的子育ての意義」と、先生の経験に裏打ちされた説得力のあるお話、いかがでしたか。本が出版されて以来、各メディアで注目を浴び、大活躍されている高橋先生ですが、ミキハウス出産準備サイト「高橋たかお先生の何でも相談室」の連載も、まだまだ続きます。お楽しみに!

 

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<プロフィール>
高橋孝雄(たかはし・たかお)
慶應義塾大学医学部 小児科主任教授 医学博士 専門は小児科一般と小児神経 1982年慶応義塾大学医学部卒業後、米国ハーバード大学、マサチューセッツ総合病院小児神経科で治療にあたり、ハーバード大学医学部の神経学講師も務める。1994年帰国し、慶應義塾大学小児科で現在まで医師、教授として活躍する。趣味はランニング。マラソンのベスト記録は2016年の東京マラソンで3時間7分。別名“日本一足の速い小児科教授”。

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