最近、赤ちゃんのスキンケアのため、ワセリンやクリーム、オイルなどをたっぷりと塗ることが多くの医療機関で指導されるようになっています。実は、この傾向はここ5年以内のこと。なぜそのような指導がなされるようになったのか、どうして乳児期の肌の保湿が重要視されているのか――国立成育医療研究センター総合アレルギー科の医師・山本貴和子先生に伺います。
(本記事は2019年6月13日に配信した記事を、再掲載しています)
新生児期からの丁寧な保湿がアレルギー疾患の予防に効果があります
2014年10月、国立成育医療研究センターが発表したアレルギー疾患の発症予防法についての論文がアメリカの専門誌に掲載されました(※1)。新生児期からの肌の保湿がアトピー性皮膚炎を防ぐことを示唆した画期的な内容で、世界中の医学界から大きな注目を集めました。
親か兄弟がアトピー性皮膚炎を発症している新生児118人に対して行われたこの研究は、「保湿するグループ」と「保湿しないグループ」に分けて生後32週までのアトピー性皮膚炎及び湿疹の発症を観察し、分析したものです。その結果、新生児期から保湿剤を塗布していた子は、必要に応じて保湿していた子に比べてアトピー性皮膚炎の発症リスクが3割以上低減したそうです。
国立成育医療研究センター総合アレルギー科の山本貴和子医師は、肌のバリア機能やアレルギーが起こるメカニズムについてこう説明します。
「皮膚には異物の侵入を防ぐための皮膚バリア機能があり、正常な皮膚では角層において皮脂、天然保湿因子(アミノ酸や尿素など)、角質細胞間脂質(セラミドや脂肪酸など)が皮膚の潤い(水分量)を一定に保っています。赤ちゃんの皮膚は一人ひとり違い、なかにはもともとバリア機能の弱い子もいるし、遺伝など何らかの原因でその因子がうまく働かず水分が逃げやすく乾燥肌になってしまうこともあります。皮膚バリア機能が壊れると、身の回りに漂っている異物などが侵入しやすくなってしまい、からだの免疫機能が異物を撃退しようとします。この時、免疫機能が過剰に働くと、アトピー性皮膚炎などのアレルギー反応が起きます。アトピー性皮膚炎になると、皮膚バリア機能が低下し、表面から水分などが抜けやすくなってしまい、皮膚はますます乾燥してしまいます。そうなると、より肌は荒れてしまいます。つまり生後1〜2か月の早い時期から保湿で肌のバリアを整えて、乾燥から肌を守ることがアレルギー疾患を予防する第一歩と考えられています」(山本先生)