愛育クリニック小児科部長の渋谷紀子先生に教えていただくシリーズ「真夏の子育て」第2部は、日常生活の中で起こりがちな赤ちゃんの健康面の悩みについてのお話です。
第1部で取り上げた熱中症はもちろんですが、大人なら何でもない食べ物でお腹をこわしたり、汗をいっぱいかいた柔らかい肌にあせもができたりと、小さな赤ちゃんにとっては、つらいことも多い夏。今回は、厳しい暑さの中でも赤ちゃんが健やかな毎日を送るために、ママ・パパが知っておきたいトラブルの対処法についてまとめました。
夏場は食中毒、日焼け、あせも、虫刺されにも気をつけて
「時々ゆるめのウンチをするのはどうしてかしら?」、「暑くなったら、赤ちゃんがむずがることが多くなったみたい…」。そんなふうに感じたら、食品の扱い方法を見直したり、赤ちゃんの肌をよく見てあげる必要があるかも知れません。
病気とまでは言えなくても、夏の赤ちゃんが不快感を訴える原因になる食中毒、日焼け、あせも、虫刺されについて、渋谷先生に個別に予防法を教えていただきました。
【食中毒】
最近は食中毒を心配して、おにぎりを素手でにぎらないというママ・パパが増えていますが、調理器具の消毒も忘れずに。
「お肉を切った後の包丁やまな板についた病原菌が、何かの拍子に離乳食に入ってしまうことも考えられますから、調理器具や食器は消毒をするようにしてください。いろいろ方法はありますが、熱湯消毒をおすすめします」(渋谷先生)
熱湯消毒は、調理器具や食器を洗ってから、5分程度熱湯につけておくか、まんべんなく熱湯をかけます。その後、すぐにお湯を切って自然乾燥します。熱湯を入れる大きなボウルと熱湯から調理器具や食器を取り出すトングがあれば便利ですよ。ふきんは、洗った後に電子レンジにかけると熱湯消毒と同じ効果があります。少々面倒な作業が増えますが、夏場だけでもお片付けのあとの習慣にしたいですね。
他にも化膿した傷口には食中毒の原因になるブドウ球菌がいるので、手に傷がある時には食べ物を触らないようにすることも大切。万が一、赤ちゃんがお腹をこわして吐いたり、下痢をするようであれば、脱水症状が進まないうちに医療機関を受診しましょう。
【日焼け】
日に当たることで体内でも生成されるビタミンDは、赤ちゃんの成長に欠かせない栄養素(※1)であり、不足すると赤ちゃんが骨格異常になる“くる病”などを発症することがあります。反面、日焼けは心配ですよね。では、赤ちゃんのことを考えた場合、どれくらいが“許容範囲”なのでしょうか?
「必要なビタミンDを生成するためには、夏の日光だと手の甲に15分、冬でも1時間程度当たれば十分(※2)です。日本の夏の環境において、日焼けするほど日光浴をする必要はありません。それよりも注意すべきは日焼け。紫外線によって肌が痛むのを防ぐことも大切ですから、公園遊びなど、長く日光に当たる時には赤ちゃん用のUVカットクリームを塗るといいでしょう」(渋谷先生)
【あせも】
夏の赤ちゃんには、あせもがつきものです。人間は暑いと汗をかいて体内の熱を放出し、体温を調節するのですが、体が小さい赤ちゃんでも、汗腺の数は大人とほとんど変わらないため、赤ちゃんは汗っかきなのです。
あせもは、その汗腺に汗が詰まって炎症を起こしたものです。詰まった汗をそのままにしておくと、汗に含まれる成分が刺激となり皮膚炎になってしまうのです。
「汗をかいたら、すぐに流すことが1番の予防です。赤いぶつぶつがいっぱいできるほどこじらせてしまったら、医療機関を受診して、お薬を処方してもらってください」(渋谷先生)
あせもができやすいのは、首のまわりや腕や足の関節部分とつけ根など、皮膚が重なっていて汗をかきやすく、溜まりやすい部分です。すぐにお風呂に入れないなら、濡れたお絞りでやさしく拭くだけでも効果があるそうです。
元気な赤ちゃんにとって、たくさん動き回って汗をかくのは、健やかな成長・発達に欠かせないこと。あせもを気にして汗をかかせないようにするのではなく、汗をかいたら、きちんと洗い流して、肌を清潔に保ちましょう。
【虫刺され】
皮膚が柔らかい赤ちゃんの肌は、虫に刺されると大きく腫れてしまうことも。
「赤ちゃんはかゆいと掻きむしってしまい、そこに菌がついて“とびひ”になってしまうこともあります」(渋谷先生)
“とびひ”とは正式には「伝染性膿痂疹(伝染性のうかしん)と言い、細菌に感染した皮膚をかきむしることで、水ぶくれやただれがからだのあちこちに広がる病気です。公園や野山に出かけたら虫よけスプレーを使うなど、虫刺され対策に加えて、“とびひ”を防ぐために、赤ちゃんの爪をまめに切ることもお忘れなく!
次回の「真夏の子育て」第3部は、ママ・パパが気になる「夏の感染症」について。渋谷先生のお話を基に予防法と対策を紹介します。
〈参考文献〉
※1「日本人の食事摂取基準(2015年度版)策定検討会報告書」(厚生労働省 平成26年) https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10901000-Kenkoukyoku-Soumuka/0000114399.pdf
※2「Institute of Medicine. Dietary reference intakes for calcium and vitamin D. 」(Washington, DC: The National Academics Press, 2011.)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK56070/
【プロフィール】
渋谷紀子(しぶや・のりこ)
総合母子保健センター 愛育クリニック
小児科部長 母子保健科部長
医学博士
東京大学医学部卒業。東大病院小児科、愛育病院小児科などに勤務したのち、カナダのトロント小児病院に研究留学。帰国後は東大病院、山王病院、NTT東日本関東病院などを経て現職。自らも4人の娘を育てた先輩ママ。日本小児科学会専門医、日本アレルギー学会専門医。