感染症検査は赤ちゃんを守るための“作戦会議”
医師が教える、妊婦健診の検査ガイド

妊娠初期の健診では、たくさんの血液検査やおりものの検査が行われます。ずらりと並ぶ感染症の項目を見て、「もし陽性だったらどうしよう」と不安になってしまうかもしれません。でも、この検査は決して妊婦さんを怖がらせるためのものではありません。

妊婦健診で行われる「感染症検査」にはどんな目的があるのか、そして万が一「陽性」と言われたらどうすればいいのか。産婦人科医の吉村泰典先生と一緒に、正しく知って安心するためのポイントを整理していきましょう。

【この記事でわかること】
Q. 初期の血液検査で何を調べているの?
A. 主に、赤ちゃんへの「母子感染」を防ぐ手立てがあるウイルスや細菌をチェックしています。
  
Q. 検査で「陽性」と言われたらどうすればいい?
A.「陽性=赤ちゃんに感染する」ではありません。あらかじめわかっていれば、薬や分娩方法の工夫で赤ちゃんを守ることができます。
  
Q. 検査項目に入っていない感染症もあるのはなぜ?
A. 全員一律で調べる必要性が低い、あるいは有効な治療法がまだ確立していないなどの理由で、必須となっていないものもあります。

 

妊娠初期の検査は何のためにやるもの?

妊娠初期の検査は何のためにやるもの?

妊娠初期(多くは8週〜12週ごろ)に行われる血液検査。ここには、B型・C型肝炎、HIV、梅毒、風疹、HTLV-1(ヒトT細胞白血病ウイルス1型)といった感染症の項目がずらりと並びます。

なぜ、これらを初期の段階で調べる必要があるのでしょうか。

「妊婦健診で行う感染症の検査は、お母さんの健康診断という意味もありますが、最大の目的は『母子感染(お母さんから赤ちゃんへの感染)』を防ぐことです。もしお母さんがウイルスを持っていても、妊娠中から薬を飲んだり、分娩方法を帝王切開に切り替えたり、生まれた赤ちゃんにすぐワクチンを打ったりすることで、赤ちゃんへの感染をほぼ防げる病気がたくさんあるのです。つまり、この検査は『どうすれば赤ちゃんを守れるか、早めに作戦を立てるため』のものなのです」(吉村先生)

検査の結果がわかれば、医師は出産までの「管理プラン」を立てることができます。仮に陽性が出たとしても、どうすればより安全にお産を迎えられるか、赤ちゃんへの感染を防げるかを、事前に考えられるようになるのです。

 

妊娠中に調べる「標準検査」リスト

こちらでは、一般的に妊婦健診の標準項目として行われる主な感染症検査について、「何を調べているのか」「もし陽性だったらどうするのか(赤ちゃんを守る方法)」を整理します。

【妊娠初期(8〜12週ごろ)に行う主な検査】

ほとんどの産院で、初期の血液検査セットに含まれています。

B型肝炎 (HBs抗原)

なにを調べる?
👉 血液や体液を介して感染し、肝炎を起こすウイルスを持っているかを調べます。

もし陽性だったら?
👉 出産直後の赤ちゃんに、ワクチンと「免疫グロブリン」という注射を打つことで、赤ちゃんへの感染を予防します。

C型肝炎 (HCV抗体)

なにを調べる?
👉 将来的に慢性肝炎などを起こす原因になるウイルスを持っているかを調べます。

もし陽性だったら?
👉 妊娠中にできる特別な治療はありませんが、お産のときの出血などで赤ちゃんにうつる可能性を考慮し、分娩時のケアを慎重に行います。

HIV抗体

なにを調べる?
👉 エイズ(後天性免疫不全症候群)の原因となるHIVウイルスに感染しているかどうかを調べます。

もし陽性だったら?
👉 妊娠中から抗ウイルス薬を服用し、帝王切開を選択する、授乳を控えるなどの対策をとることで、赤ちゃんへの感染率を劇的に下げることができます。

梅毒

なにを調べる?
👉 「梅毒トレポネーマ」という病原体に感染しているかどうかを調べます。
(※近年、若い女性の間で急増しており、放置すると流産や、赤ちゃんの先天梅毒の原因になります)

もし陽性だったら?
👉 早期に発見し、妊娠中に抗菌薬の内服治療をしっかり行えば、赤ちゃんへの感染を防げます。パートナーの検査・治療も必須です。

HTLV-1抗体

なにを調べる?
👉 将来、特殊な白血病などを発症する原因になる「ヒトT細胞白血病ウイルス1型」に感染しているかどうかを調べます。

もし陽性だったら?
👉 母乳からの感染が多いため、陽性の場合は人工栄養(ミルク)や凍結母乳などを選択することで、感染を防ぎます。

風疹抗体

なにを調べる?
👉 風疹に対する免疫(抗体)が、お母さんのからだにどれくらいあるかを調べます。
(※免疫がない状態で妊娠初期にかかると、赤ちゃんの耳や目、心臓に影響が出ることがあるためです)

結果の見方は?
👉 〈抗体が低い場合〉
妊娠中にかからないよう、人混みを避ける、夫や家族にワクチンを打ってもらうなどの対策をします。ご自身は出産後にワクチンを接種します。

👉 〈抗体が高い場合〉
過去にかかったか、ワクチンによる免疫があることを示しますが、極端に高い場合は「最近かかった」可能性も否定できないため、再検査をすることがあります。

妊娠中に調べる「標準検査」リスト【妊娠初期】

 

出産が近づくと、もう一つ重要な検査があります。初期ではなく、妊娠後期(35〜37週ごろ)、出産のギリギリのタイミングで行う理由は、出産本番の環境を正確に知るため。細菌の中には、体調によって現れたり消えたりするものがあります。初期に検査をして陰性だったとしても、分娩時に陽性になっていれば対策が必要となります。

【妊娠後期(35〜37週ごろ)に行う検査】

GBS(B群溶連菌)検査

なにを調べる?
👉 おりものの中に、GBSという細菌がいるかどうかを調べます。
(※GBS自体は健康な女性の10~20%が持っているごくありふれた常在菌で、お母さん自身には悪さをしません)

なぜ調べる?
👉 赤ちゃんが産道を通るときに感染すると、ごく稀に肺炎や髄膜炎など重い症状を起こすことがあるためです。

もし陽性だったら?
👉 菌がいること自体は異常ではありません。出産の最中(陣痛が始まってから)に点滴で抗菌薬を投与することで、赤ちゃんへの感染を防ぎます。

妊娠中に調べる「標準検査」リスト【妊娠後期】

 

「陽性」と言われたらどう動く?

もし検査で「陽性(+)」という結果が出たら、誰でも動揺してしまうものです。「赤ちゃんに申し訳ない」と自分を責めてしまう方もいるかもしれません。しかし、吉村先生は「まずは落ち着いて、医師の説明をよく聞いてください」と呼びかけます。

「実は、スクリーニング(ふるいわけ)検査では、実際には感染していないのに陽性と出る『偽陽性(ぎようせい)』というものが一定数あります。特にHIVやHTLV-1(ヒトT細胞白血病ウイルス1型)、梅毒などは、最初の検査で陽性が出ても、より詳しい確認検査(精密検査)をすると陰性だった、というケースも少なくありません。最初の結果だけでパニックにならず、確認検査の結果を待ちましょう」(吉村先生)

「陽性」と言われたらどう動く?

では、もし確認検査でも陽性だった場合はどうすればいいのでしょうか。ショックを受けるかもしれませんが、視点を変えれば「守る手段が見つかった」ということです。

「もっとも怖いのは、感染に気づかずに分娩となり、無防備な状態で赤ちゃんにうつってしまうこと。逆に言えば、陽性とわかった時点で、赤ちゃんを守るための対処が可能です。現代の医療では、さまざまな方法を組み合わせることで、赤ちゃんへの感染リスクを限りなくゼロに近づけることができます。たとえばHIVや梅毒などは、薬の力で赤ちゃんへの感染を防ぐことができます。また帝王切開で分娩時の感染を防いだり、産まれた直後にワクチンで予防する方法もあるし、授乳方法を工夫して感染経路を断つことだってできます。陽性とわかることは、怖いことではありません。『赤ちゃんを安全に迎えるための準備が整った』と考えて、主治医とよく相談し、治療や分娩方法を決めていけば大丈夫です」(吉村先生)

 

「調べないもの」があるのはなぜ?

妊婦健診では、麻しん(はしか)、水痘(水ぼうそう)、サイトメガロウイルス(CMV)、トキソプラズマなどは、全員一律の「標準検査」には含まれていないことが多いようです。(※産院の方針や希望により実施することもあります)

「たとえば、サイトメガロウイルスなどは、妊娠中に初感染しても全員の赤ちゃんに障害が出るわけではありません。また、おなかの中で感染がわかったとしても、現時点では確立された確実な治療法がないのです。治療法がない段階で全員に検査をして不安を煽るよりも、まずは手洗いや食事などの予防法を徹底してもらうことのほうが、現実的な効果が高いという考え方もあります。一方、生まれた子どもの感染については新生児治療の有効性が認められるようになってきています」(吉村先生)

ただ、ご自身の抗体の有無を知って対策を強めたい場合や、上の子がいる場合などは、自費で検査ができることもあります。気になる方は主治医に相談してみましょう。

「調べないもの」があるのはなぜ?

最後に一つ、知っていただきたい大切なことがあります。それは「初期の検査で陰性だったからといって、出産までずっと安全とは限らない」ということです。

「たとえば、妊娠初期の検査では梅毒が陰性だったけれど、妊娠後期にパートナーから感染してしまった、というケースが稀にあります。また、検査をした時期がたまたま感染直後で、まだウイルスが増えておらず反応が出ない期間だった可能性もゼロではありません。もし妊娠中に、パートナーの感染がわかったり、気になる症状が出たりした場合は、『初期検査で陰性だったから大丈夫』と思い込まず、必ず正直に医師に伝えてください。再検査をすることで、赤ちゃんを守れるチャンスが生まれます」(吉村先生)

検査の意味を正しく知り、日々の予防を心がけることは、赤ちゃんを守るための「最強のお守り」になります。「もしも」のために備えつつも、過度に怖がる必要はありません。何かあればすぐに相談できるかかりつけ医や医療スタッフを頼りながら、赤ちゃんに会えるその日を楽しみに、残りのマタニティライフを心穏やかにすごしてくださいね。

 

【監修】吉村泰典(よしむら・やすのり)
慶應義塾大学名誉教授 産婦人科医

1949年生まれ。日本産科婦人科学会理事長、日本生殖医学会理事長を歴任した不妊治療のスペシャリスト。これまで2000人以上の不妊症、3000人以上の分娩など、数多くの患者の治療にあたる一方、第2次~第4次安倍内閣では、少子化対策・子育て支援担当として、内閣官房参与も務める。「一般社団法人 吉村やすのり 生命の環境研究所」を主宰。

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