妊娠中の感染症対策
サイトメガロ・トキソ・りんご病を予防する生活習慣

妊娠中の感染症対策。ワクチンや健診で防げるものがある一方で、日常生活の中にひっそりと隠れているウイルスや寄生虫もいることを考えると、「暮らしの中の予防」も大切です。特に、上のお子さんがいたり、ペットと暮らしているご家庭では、ちょっとした工夫であったり、意識付けが必要なことも。

「だからといって、完璧に無菌室のような生活をする必要はないです。ウイルスの『侵入ルート』さえ知っておけば、毎日のちょっとした習慣を変えるだけで、リスクを大幅に減らすことができます」と語るのは産婦人科医の吉村泰典先生。

この記事では、がんばりすぎずに続けられる予防の“最小ルール”と、パートナーができる具体的なサポートについてご紹介します。

【この記事でわかること】
Q. 上の子がいる家庭で特に気をつけるべき感染症は?
A. 子どもの唾液や尿から感染する「サイトメガロウイルス」と、園や学校で流行しやすい「リンゴ病(伝染性紅斑)」です。
  
Q. 妊娠中にペット(犬や猫)とすごしても大丈夫?
A. 基本的に大丈夫です。犬はトキソプラズマの心配はほぼありません。ただし猫の場合、注意が必要です。特にトイレ掃除はパートナーが担当するようにしてください。
  
Q. 外食や旅行で気をつけることは?
A. 「生肉(レアステーキや生ハムなど)」は避け、中心まで火が通ったものを選びましょう。

 

日常生活に潜む「3つの隠れリスク」

日常生活に潜む「3つの隠れリスク」

妊娠中の生活で、特に意識してブロックしたいのが「サイトメガロウイルス」「トキソプラズマ」「リンゴ病(パルボウイルスB19)」の3つです。これらは、妊婦さんが特に妊娠中にはじめて感染すると、おなかの赤ちゃんに影響が出る可能性があります。なかでもサイトメガロウイルスは、過去に感染して抗体がある妊婦さんでも、ごくまれに「再感染・再活性化」で赤ちゃんに感染することがあるため、妊娠中はどなたも予防を意識しておくことが大切です。

「これらの感染症については、残念ながらワクチンがありません。また、全員が一律で受ける健診の検査項目にも入っていないことが多いのが現状です。だからこそ、自分の生活エリアにどんなリスクがあるかを知り、ご家庭でガードを固めることがいちばんの予防になります」(吉村先生)

それぞれの特徴と、今日からできる対策を見ていきましょう。まずは、近年、特に重要性が増しているというサイトメガロウイルスへの対策から。

 

【その1】サイトメガロウイルスは、上の子との「スキンシップ」を工夫しましょう

【その1】サイトメガロウイルスは、上の子との「スキンシップ」を工夫しましょう

サイトメガロウイルス(CMV)は、かつては多くの人が子どものころにかかって抗体を持っていました。しかし最近は、子どものころにかからないまま大人になる人が増えており、今の妊婦さんの約3割は抗体を持っていません。抗体がない状態で妊娠中にはじめて感染すると、赤ちゃんに難聴などの影響が出る可能性があるため、注意が必要です。

「もっとも多い感染ルートは、小さな子ども(特に3歳未満の乳幼児)の唾液や尿です。保育園などで感染したお子さんの食べ残しを食べたり、よだれのついたおもちゃを片付けたりすることで、ママにうつるケースが目立ちます」(吉村先生)

ここで注意したいのは、子ども自身は感染していても無症状で元気なことが多いという点です。

「熱が出ているなら警戒できますが、子どもは元気なのに、実はウイルスに感染していることがあります。だからこそ、『元気そうに見えても、唾液や尿には気をつける』という意識が大切なのです。とはいっても、上の子とのスキンシップを控えるのではなく、愛情はそのままで、やり方を少し変えるようにしてください」(吉村先生)

また、感染していても無症状なのは大人も同様で、パートナーが知らずに感染していることもあります。妊娠中のサイトメガロウイルス感染の主なルートはあくまで「乳幼児の唾液や尿」と考えられていますが、大人同士の濃厚な接触でうつる可能性もゼロではありません。お子さんへの対応だけでなく、パートナーとのスキンシップや夫婦生活においても、妊娠中は少し慎重な対応を心がけるとより安心ですね。

【無理なくできる予防習慣】

✔子どもや家族と食器やストローは共有しない
「ママ、あーん」と差し出してくれても、ママ自身のスプーンや箸を使いましょう。食べ残しの処理も、もったいないですが妊娠中は食べずに処分を。

✔子どもへのキスも「口」ではなく「おでこ」や「ほっぺ」に
唾液感染を防ぐため、唇へのキスは避けるのが安全です。

✔おむつ替えのあとは必ず手洗い
尿にもウイルスが含まれます。おむつ替えの後は石けんでしっかり手を洗いましょう。

✔おもちゃの「よだれ」はこまめに拭く
お子さんの唾液がついたおもちゃや器具は、きれいに拭き取りましょう。可能であれば、パートナーにお願いできると安心です。

 

【その2】トキソプラズマは、「生肉」と「猫のトイレ」に注意

【その2】トキソプラズマは、「生肉」と「猫のトイレ」に注意

トキソプラズマは、加熱不十分な肉や、土、猫のフンなどに存在する寄生虫です。妊娠中にはじめて感染すると、赤ちゃんの目や脳に障害が出ることがあります。

「もっとも感染リスクが高いのは『加熱不十分な肉』を食べることです。レアステーキ、生ハム、ユッケ、馬刺しなどは、妊娠中は我慢してください。肉料理は『中心部までしっかり加熱(色が茶色になるまで)』が鉄則です。また、野菜や果物はよく洗って食べてください」(吉村先生)

よく「お寿司もダメですか?」と聞かれますが、吉村先生によると「生魚はトキソプラズマのリスクは高くありませんが、アニサキスなどの食中毒や、一部の魚では水銀の問題もあります。新鮮なものを選び、種類や量についてはかかりつけ医や自治体の情報を参考にしましょう」とのこと。

食事以外で、もう1つトキソプラズマの感染経路として知られているのが「猫」です。ペットとして猫を飼っているご家庭では不安に思うかもしれませんが、こちらも適切な距離感を保てば問題ありません。

「猫ちゃんを手放す必要はありません。ただ、猫が外でトキソプラズマをもらってきて、フンに排出している可能性があります。トイレ掃除は感染リスクがある作業なので、妊娠期間中は『パートナーや家族のお仕事』にしてください」(吉村先生)

なお犬は猫のようにトキソプラズマを体の中で増やしてフンから出す動物ではありません。そのため犬は、トキソプラズマの感染源としてはほとんど問題になりません。妊娠中、犬とのスキンシップを過度に制限する必要はありませんが、一般的な衛生面から、散歩帰りは足を拭く・排泄物の処理後は手洗いをするなど、清潔を心がけましょう。

【無理なくできる予防習慣】

✔お肉は「ウェルダン」で
外食時も「よく焼いてください」と一言伝えましょう。

✔野菜や果物はよく洗う
土にトキソプラズマが含まれていることがあるため、生野菜や果物は流水でよく洗ってから食べましょう。

✔ガーデニングは手袋着用で
土いじりをする際は必ず手袋をし、終わったら徹底的に手洗いをしましょう

✔猫のトイレ掃除はパートナーor家族の担当に
どうしても妊婦さんがやる場合は、使い捨て手袋とマスクを着用し、直後に手洗いをしましょう。

 

【その3】リンゴ病は、情報のアンテナを張り「近づかない」選択を

リンゴ病(伝染性紅斑)は、頬がリンゴのように赤くなる感染症です。数年に一度流行し、妊娠中に感染すると、赤ちゃんが重い貧血やむくみ(胎児水腫)を起こすことがあり、注意が必要です。
「厄介なのは、頬が赤くなったころにはもう感染力はなく、その前の『風邪っぽい症状』の時期に感染力が強いことです。つまり、目の前の人がリンゴ病かどうか、見た目では判断しづらいのです」(吉村先生)

【無理なくできる予防習慣】

✔園や学校の「流行情報」をチェック
上の子の保育園や幼稚園、小学校からの「おたより」やメール通知を見逃さないようにしましょう。「園でリンゴ病が出ています」という情報があったら、送迎時の滞在時間を減らす、マスクを着用するなど、警戒レベルを上げてください。

✔人混みではマスク・手洗い
飛沫感染するため、流行期の人混みは避けるのが無難です。

【その3】リンゴ病は、情報のアンテナを張り「近づかない」選択を

 

こんなときは受診を! 病院へ連絡する目安

日常生活の中で、「もしかして感染したかも?」と不安になったときは、どうすればいいのでしょうか。次の3つのサインがあったら、念のためかかりつけ医に相談してください。

✔原因不明の発熱や発疹が出た
風邪症状とともに、からだに発疹が出た場合は、風疹や麻疹、リンゴ病などの可能性があります。受診前に必ず電話で状況を伝え、指示を仰いでください(いきなり待合室に行くと、他の妊婦さんにうつしてしまう可能性があります)。

✔上の子の園で「リンゴ病」「風疹」などが流行した
すぐに心配しすぎる必要はありませんが、上の子に発熱・発疹などの症状が出た/身近な友だちが発症していて、その子との濃厚接触の可能性がある場合は、かかりつけ医に伝えておきましょう。必要に応じて超音波検査などで赤ちゃんの様子を注意深く診ることができます。

✔胎動が急に減った気がする
感染症に限らず、赤ちゃんの元気がないサインかもしれませんので、受診をおすすめします。

感染症対策といっても、基本的には特別なことをする必要はありません。「手洗い」「加熱」「距離感」という、昔ながらの知恵が最強の防御策になります。

「妊娠中は、どうしても『もし感染したらどうしよう』と不安になってしまうものです。でも、正しい知識を持って対策をしていれば、過度に恐れる必要はありません。 大切なのは、ママが笑顔でリラックスしてすごすこと。パートナーや家族と協力して“ワンチーム”で赤ちゃんを守っていきましょう。もし心配なことがあれば、いつでも私たち産婦人科医を頼ってくださいね。元気な赤ちゃんに会える日を、私も楽しみにしています」(吉村先生)

パートナーと役割分担をしながら、無理のない範囲で、赤ちゃんを守る習慣を続けていきましょう。

 

【監修】吉村泰典(よしむら・やすのり)
慶應義塾大学名誉教授 産婦人科医

1949年生まれ。日本産科婦人科学会理事長、日本生殖医学会理事長を歴任した不妊治療のスペシャリスト。これまで2000人以上の不妊症、3000人以上の分娩など、数多くの患者の治療にあたる一方、第2次~第4次安倍内閣では、少子化対策・子育て支援担当として、内閣官房参与も務める。「一般社団法人 吉村やすのり 生命の環境研究所」を主宰。

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