日本で昨年生まれた赤ちゃんは、102万9800人。一人の女性が生涯に何人の子どもを産むかを示す「合計特殊出生率」は上昇傾向にあるものの、出生数としては過去最少を記録しました。少子化がストップしているとはいえない現状がありますが、直近15年の間で、出生数を1.8倍に増やした自治体があります。東京のほぼ中央にある文京区です。
2010年には自治体の首長として初めて「育児休暇」を取得した、成澤廣修(ひろのぶ)文京区長に、同区ならではの取組みや考え方をお聞きしました。
「宝物」である子どものための支援とは?
文京区は、1998年度には約1000人だった出生数が、昨年度は1800人になりました。子どもが増えることは大変うれしいことです。「待機児童」対策としては、来年の4月までに認可保育所を新たに4園開設し、認証保育所から認可に移行するところが5園あり、合計で9つの認可保育所が増えます。しかし、転入や出生数も伸びているなかで、なかなか待機児童をゼロにできないという現実もあります。
僕は「待機児童」という言葉には違和感をもっています。待機しているのは実は働きたい親であって、子どもではありませんよね。早く仕事に復帰したい親が待機しているので、いうなれば「待機保護者」なのでは?と思います。いろいろなご事情の親御さんがいるので、一概にはいえませんが、保育園の入園を待っている時間、親の元で育つので少なくとも子どもには不利益はないと思います。
毎日のように新聞やテレビで、女性のさらなる社会進出推進に関するニュースが出ています。けれども、男性社会の長時間労働を前提とし、女性にも同じような長時間労働を強いるようなものでは、女性活躍の推進は困難なのではないかと思います。社会全体が働き方の見直しをしていくこと。同時に、さまざまな働き方に合わせた保育サービスを充実させていくこと。これらが揃って初めて、待機児童がゼロになる意味があります。自分たちの宝物であり、社会の宝でもある子どもの豊かな成長のために、何ができるかをそれぞれが考えていく必要があるのです。
子育て支援策は、「待機児童」というキーワードで語られることが多いのですが、実は、幼稚園に入園できない3歳児の問題もあります。4、5歳児より定員が少なく、ニーズが高いのが3歳児の幼稚園入園なのですが、昨年度は文京区だけでも200人以上が希望どおりに入園できませんでした。東京の他の区でも、保育園の待機児童が出ているというところなら同じような傾向にあると思われます。文京区では、保護者と就学前の乳幼児が一緒に安心して遊びながら、他の親子との情報交換や交流が図れる「子育てひろば」を4か所設けていますが、そうしたところに幼稚園に入れなかった3歳児とその親があふれてしまうという状況もあるんです。そのほか、近くに祖父母がおらず、近所に頼れる友人もいない母と子どもだけの孤独な「弧育て」など、待機児童ほど社会問題化していないけれども、深刻な子育ての問題が潜んでいます。
日本という国の子育て支援は、(1)育児と仕事の両立支援(2)子育ての心理的不安の解消(3)子育ての経済的負担の軽減の3つが基本です。これ、よく見るとすべて親への支援。私は、「子どもを中心に考えるのが本当の支援なのでは?」と思っています。