「産後クライシス」という言葉を聞いたことがありますか? 出産や子育てによって良好だった夫婦関係が築けなくなり、最悪の場合は離婚にまで至ってしまうことを指します。以前は「育児ノイローゼ」などという言葉で、母親に焦点があてられていましたが、子どもの親は父親と母親の2人。パートナー同士の問題として、とらえなおすことで生まれたのが、この言葉です。
ミキハウス「出産準備サイト」はこの産後クライシスの実態について、発達心理学の研究者で、お茶の水女子大学教授の菅原ますみ先生にうかがいました。
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産後は夫への愛が急速に冷める? 産後クライシスの原因
まずは、次の調査結果を見てみましょう。ベネッセ次世代育成研究所が2006年11月に、全国の第一子・ひとりっ子のみを持つ夫婦世帯を対象に、「配偶者といると本当に愛していると実感する」かどうか聞いたところ、次のような結果が得られました。妻と夫の大きな開きが気になります。(図1・図2)
「出産後、相手に対する愛情は残念ながら夫婦ともに低下傾向ですが、妻の夫への愛情低下はあまりにも急激です。妊娠中は、70.9%の人が“夫を愛していると実感する”という項目に“あてはまる”と回答しているのに、それが出産後40.4%に減り、2年後には22.7%にまで下降。これは心理学的に見ても通常ありえない数字」と菅原先生。こうした現実に対して、夫はそのことにほとんど気がついていないという“残念な図式”が産後クライシスの特徴だそうです。
なぜ、男女の間にこうも愛情の差が生じてしまうのでしょうか。
「小さな子どものかわいらしさは神さまの贈り物。かわいがられる存在として生まれてくるんですね。一方で、歩みはじめたばかりの人間のケアはとても大変な仕事。子育ては楽しいけどつらいときもあり、子どもはかわいいけれどうるさく感じるときだってある、というのが普通です。最初は誰でも子育て経験はゼロ。そんな新米お母さんが、核家族の中で誰のサポートも受けずに子育てをすれば、ストレスがたまるのも当然です。総務省の調査結果を見てもらえればわかりますが、日本男性の家事、子育てへの参加は世界的に見ても低い水準。子育ての負担は妻にばかりかかり、必然的に母親と子どもは世の中から隔離されてしまうという状況を生み出してしまっています」(菅原先生)
「6歳児未満をもつ夫婦の家事・育児時間の国際比較」(図3)の調査結果を見るとわかるとおり、日本男性の家事・子育てへの参加時間は、1日のうち1時間ほどであることが報告されています。日本人の夫と妻を比べてみると、夫は1時間7分(うち育児時間は39分)である一方、妻は7時間41分(うち育児時間は3時間22分)。他国に比べても、女性に家事・育児が集中してしまっていることが一目瞭然です。
また、この傾向は、妻が専業主婦でも、仕事を持っていても、それほど変わらないものと言えそうです。
「家事・育児の頻度」(図4、図5)を育児期の夫(2歳までの子どもを持つ)に聞いたところ、洗濯、掃除に関しては、妻が仕事を持っているかどうかにかかわらず、大半の人が「ほとんどしない」と妻まかせ。「子どもと遊ぶ」という項目では妻に仕事があるかどうか関係なく、半数以上の人が「ほとんど毎日する」と答えましたが、「週に1~2回する」「ほとんどしない」という人も2割超いました。多くの家庭で家事と子どもの世話の負担が、妻の肩にずっしりと重くのしかかっていることは否定できません。