オランダの子育てについて書かれた書籍『世界一幸せな子どもに親がしていること』(日経BP社)の翻訳者であり、現在オランダで6歳の娘さんを育てている吉見・ホフストラ・真紀子さんのインタビュー後編。
前編ではオランダの“働き方改革”が子育て環境を改善したこと、パパの子育て・家事への貢献度の高さについてご紹介していきました。後編では、赤ちゃんの育て方に関する親のスタンス、子育てについての社会の考え方などを伺っていきます。
赤ちゃんを尊重するということ
オランダは大人だけでなく子どもも社会を構成する一員だという意識が徹底されていると吉見さんは言います。言い方を変えれば、子どもを子どもとして扱っていない、むしろひとりの人間として大人と同等に見るということ。
それは赤ちゃんに対しても似ているところがあり、例えばオランダではママとパパは赤ちゃんと同じ部屋で寝ないということも割と普通。そして夜泣きをした時も、ママやパパはベビーベッドで泣いている赤ちゃんに声をかけるだけで、抱き上げることはしないそうです。
「日本とは住宅事情も違うけれど、赤ちゃんがゆっくり眠れるような場所を作って、夜泣きで赤ちゃんが泣き叫んだら部屋まで行って『ママたちは隣の部屋にいるから、大丈夫よ。ママたちも眠らないといけないからね。おやすみ』などと、声をかけます。それで静かになったら部屋を出て、もしまた泣いたら、戻って声をかける。それを何回でも繰り返すんです。そして子どもは親との話し合いの余地がないことをちゃんと学び、やがて朝まで寝られるようになります。うちの娘も1歳すぎぐらいに夜泣きが始まって、半年ぐらい続いたかな。どんなに泣かれても絶対に抱き上げずに話しかけていたら、そのうち自然に泣かなくなりました」(吉見さん)
またオランダ人は“赤ちゃん言葉”を使わないそうです。それは、赤ちゃんをひとりの人間として尊重しているから。
「オランダでは、親は子どもが思い通りにならない時にすぐに『ダメ』と言わずに、子どもの言い分をしっかり聞いてあげることが多い。我が家でもそうですね。自分のやったことに責任を持ちなさいとか、人に迷惑をかけないとか、そういう基本は親がしっかり教育しています。それはどんなに幼い子であっても、向かい合って教えます。子どもには子どもなりの考えや思いがあるはずですし、親がそれを理解することで、親と子の信頼関係は強くなっていくのではないでしょうか」(吉見さん)
子どもの考えを尊重するという親のスタンスは、幼少時からの教育にも反映されています。例えば、何かを教えたい時。親が先回りをして、「これはやるべき」、「これは危ないからやめて」と指示することはオランダではないそうです。
「象徴的なのは川に柵がないこと。オランダには町中にたくさん運河があり、子どもがたまに運河に落ちることもあるのですが、柵を作るという話にはなりません。柵を作るのではなく、小さい頃から着衣水泳を教えて、自分で身を守れるようにするんです。自転車もそう。転んだら痛いと身をもって知るべきと大人たちは考えています。それは幼少時から徹底されていますね。自分に自信が持てたら子どもは自立できるし、親も安心して、距離を置いて冷静にわが子を見ていられるようになります」(吉見さん)
子どもたちが自立した人間になって楽しい人生を送れるように、今、わが子とどう向き合うべきか。そのことをオランダのママとパパは常に考えているようです。