「子どもには英語で不自由な思いをさせたくない」と、英語教育に力を入れる家庭は少なくありません。しかし、日本で生活する子どもに早期英語教育を開始するにあたっては、「早すぎる」「遅すぎる」などそのタイミングについて、いろいろと意見がわかれるようです。
そこで、脳研究者で東京大学薬学部の池谷裕二教授に、神経科学の立場から子どもの早期英語教育についてお話を伺いました。池谷先生は、2歳の娘さんのパパでもあり、自身のアメリカ留学時の経験をもとにした『怖いくらい通じるカタカナ英語の法則』の著書もお持ちです。
子どもの早期英語教育は、何歳から始めるのが正解?
英語に限らず、語学教育はできるだけ早く“音に耳が慣れる環境作りが重要”という考えに基づき、今や赤ちゃんがお腹の中にいる時から英語のCDを聞かせる「胎教プログラム」も珍しいことではなくなりました。
池谷先生に赤ちゃんへの英語教育のタイミングについてたずねてみると、「脳の発達の観点から言えば、言語というのは生まれてから認識されるようにデザイン、プログラムされている能力のひとつなので、生まれてからでよいと思います」という答えが。
でも、お腹の中にいる赤ちゃんには、ママの言葉が聞こえているとよく言われますよね?
「確かに、お母さんのお腹の中にいる赤ちゃんに音が聞こえていることは、子宮の中にマイクを入れるテストでも確認されています。生まれてきた赤ちゃんは、わずか2日目にして母国語の音を認識していますが、それは音として聞こえているだけで、言葉として認識しているわけではありません。お腹の中にいる時にずっとお母さんの話す言葉を聞いていたから、母国語の音を聞き分けるようになっているだけなので、言語を学ぶとして考えた場合、生まれてからのスタートで何ら問題はありません」
池谷先生曰く、「赤ちゃんがお腹の中にいる時から英語で話しかけたり、英語の読み聞かせや歌のCDを聞かせたりというのも構いませんが、それをしたから英語能力が向上するという効果には結びつかないと思います」
人間が言葉を覚えていく過程は、第一段階としてまず音声の認識があり、“聞く”能力を身につけた耳ができてきたら、今度は“話す”という第二段階に移り、ひとつの単語だけをしゃべる「一単語期」を経て、だんだんと単語の数が増え「二単語期」へと移行するとのこと。
「人間の言語能力に関していえば、母国語、つまり第一言語に関してはみな平等に習得能力が備わっています。習得にも個人差があり、早く喋れるようになる子もいれば時間がかかる子もいますが、最終的な言語能力には関係ありません。特殊な知的障害がある場合を除いて、第一言語は大人になればみな普通に喋れるようになるのが当たり前で、言葉を覚えるのが遅いと勉強ができないということもありません」
しかしながら、第二言語の習得に関しては、事情が母国語と大きく異なるようです。