漫画家・鈴ノ木ユウさん×出産カメラマン・繁延あづささん対談――出産、そして家族のものがたりを紡ぐということ<後編>

漫画家・鈴ノ木ユウさん×出産カメラマン・繁延あづささん対談
――出産、そして家族のものがたりを紡ぐということ<後編>

妊娠・出産インフォ

わが子の誕生を目の当たりにして漫画『コウノドリ』を描きはじめた、漫画家の鈴ノ木ユウさんと、ライフワークとして「出産写真」を撮りつづけている写真家の繫延あづささん。同世代で、お子さんの年齢も近いお二人が、それぞれの作品への思いに加え、子育てのこと、家族のことについて語り合いました。今回はその後編です。

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親にとって子どもは「先生」

――取材前の打ち合わせで、繁延さんが最近の『コウノドリ』が少し変わってきたとおっしゃっていましたよね。

繁延さん(以下、繁延):ええ。これは完全に一読者視点なのですが、なんとなく作品の雰囲気が変わってきているように思えるんですよね。

鈴ノ木さん(以下、鈴ノ木):そうですか。どんな風にですか?

繁延:医療者からの目線より、家族からの目線が強くなってきたというか、やさしい感じがする。物語の展開を重視するよりも、一人ひとりの気持ちを描かれているシーンが増えた気がしていました。そんなことはないですか?

鈴ノ木:どうだろう…プライベートの影響もあるかも。息子がだんだんしゃべられるようになって、いろんな顔を見せるようになったのも大きいかな。僕は子どもと二人で話をする時間をとても大切にしているし、そういう毎日のことに影響を受けているのかもしれないのですね。

繁延:わかります。私も、自分の出産直後の出産撮影と今の撮影では、目線がぜんぜん違います。何気ない子どもとの日々の会話や、子どもと過ごす時間の中で感じることが、私自身の目線になっている気がして。今の子育てが今の出産撮影への目線につながっていると思っています。

鈴ノ木:やっぱり、子どもを育てることで得るものは大きいです。僕は「子どもは先生」だと思っていますから。

繁延:子どもは先生…その通りですね。

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鈴ノ木:いっしょに仕事場まで手をつないで行って、そこから子どもが学校に行くんですけど、そこからが彼の時間で、ひたすら道端で草を取ったり…20分も前に学校に向かったはずなのに、遅刻したりするんですよ。その間、何してたのかって思いますけど、きっと彼にとってはその時間がすごく大切なのかもしれない。

繁延:大切なのでしょうね。

鈴ノ木:子どもってすごいなと毎日思いますよ。だから僕、「おまえ、すごいな」って、一日何回言うのかっていうくらい言っています(笑)。

繁延:どうしよう…私、そんなに言ってない(笑)。でも、子どもって本当にすごいですよ。息子が毎日「今日ね」といっていろいろと報告してくれるんですが、この間は「お風呂で70秒息を止められるようになったよ」と得意気に言ってきたんです。「お母さんは20秒も止められないよ」って返事をしたんですが、思えば私は長く止めようなんてチャレンジはしていません。でも子どもはいろんなことに毎日チャレンジしているわけです。小さい子が歩道のちょっと上がったところを上ったり、高いところからジャンプしたり、あれも限界への挑戦じゃないですか。

鈴ノ木:そうですね。大人になると、だんだん挑戦しなくなりますから、その前向きな気持ちには驚かされます。

繁延:と同時に、子どもがこんなにやっているから自分も何かしなきゃって思ってしまう。

鈴ノ木:子どもは精いっぱい、生きていますからね。そして宿題は精いっぱい、やりたくないと(笑)。

繁延:力を注ぐところがそこじゃないんですよね、きっと。

鈴ノ木:息子は漫画が好きで、とくに今は『ドラゴンボール』が好き。もうぎりぎりまで読んでいるんですよ。大好きだから、歯磨きをしながらとか、漫画を読みながら歩いてたりとか。そこまで好きなら別に怒ることないなって思うんだけど、うちの妻は、宿題は宿題でちゃんとやってほしいと思っているから、宿題もしないで漫画を読みふけっている息子を叱るわけです。

繁延:はい、その状況よくわかります。

鈴ノ木:でも僕は、結果的に子どもが自分の好きなものを選んでいき、それが彼の人生になると考えているんです。面白い本とか素晴らしい音楽とか、そういうものがあることを知らせること、触れるきっかけを与えることは親の仕事だろうと思っていますが、最終的に選ぶのは子ども自身。そして育つ。そこが子育てってすごく面白いなと思うところです。

繁延:ある意味、勝手に育っていく強さも子どもにはありますからね。

鈴ノ木:ええ。まぁ、本当は僕もがっつり子育てしたいんだけど、今はなかなか忙しくてそれができていないのが現状です。それでたまにやると“いいとこ取り”みたいになっちゃって(苦笑)。子育てはどうしてもお母さんが中心になるし、だからこそお母さんは大変な思いをするんですよね。

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繁延:それを知っているからこそ、鈴ノ木さんの作品からは、お母さんの大変さに寄り添ってくれている視点が感じられるんですね。読むたびに、この人は女の人の味方だなって思いますし。

鈴ノ木:そうなんです、僕は女の人の味方なんですよ(笑)。女の人は子育てや家事などに追われていたりすると、やっぱり子どもをきつく怒ったりもするじゃないですか。僕、それを見るのが少しつらいので、妻が怒る前に自分が子どもを叱るようにしているんです。

繁延:優しいですね。

鈴ノ木:まぁ、でもなかなかうまくはいかなくて、自分がちょっと早いタイミングで怒るようにしているんですけど、確率的にだいたい4割しか「成功」しない。6割くらいは間に合わなくて、すでに妻が子どもを叱っているんですよ。そこの怒るタイミングが読みきれないことは多々あります(苦笑)。

繁延:私もいつも怒ってるなぁ。でも、本気で怒りたいわけじゃなくて怒っているセリフを言っているだけだなと気づくときもあります。無駄だと思うこともあるんですが…母親だからそうなのかな?

鈴ノ木:そうだと思いますよ。子どもが“間違えない”ように、母親を演じなきゃいけないんですよ。

繁延:母親をフォローしていただきまして、ありがとうございます(涙)。

 

子どもの誕生日に伝えたい“生まれた日”の話

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『うまれるものがたり』(マイナビ出版)より

鈴ノ木:話は変わりますけど、僕、子どもの誕生日に毎年、彼が生まれた日の話をするんですよ。出産当日は雨が降っていて、お母さんは病院に行ったけど1日目には産むことができなくて、結局、丸々2日かかってお前を産んだんだよ、と。いい加減、毎年同じ話をしているから、息子がだんだんうんざりして「また?」って顔はするけど、どこかうれしそうにしているんです。だから、僕にとって“その日”がいかに大切な日だったかっていうことを毎年息子に話しています。

繁延:いいですね。

鈴ノ木:僕、子どもができたって言われたとき、36歳だったんですが漫画家として大成しておらず、アルバイトしかしていなかったし、やりたいこともまだいっぱいあって、「やばい、人生終わったな」と思ったんですよ。

――やりたいことできなくなるじゃないかと?

鈴ノ木:そうそう。でも、実際に子どもが生まれた日に「ぜんぜん終わってなかった!」って心の底から思ったんです。そのときに初めて本気でがんばらなきゃなと思った。そのきっかけをくれたのが息子で、それが彼の誕生日でもあるんで、伝えたいんですよね。

繁延:かなり詳しくお話されるんですか?

鈴ノ木:はい。妊娠したときはお母さん(妻)と二人でワンルームのアパートに住んでいたとか。お前(息子)が3歳までは6畳二間のアパートに住んでいて、すきま風がすごく入っていた話とか、そういうしんどかったときのことも話します。今、息子は欲しいものがあればすぐに買ってもらえる環境にいるけど、そのときのことも伝えたいんですよ。

繁延:私もしんどいときってありましたね…。うちは妊娠のときじゃなくて、つきあっていて、私の子宮に病気があることがわかったときに、主人が無職だったんですよ。『コウノドリ』にも、子どもが産めなくなって離婚を切り出す女性が出てきましたけど、病気がわかったときに、私も「別れようか」と話しました。子どものいない人生に巻き込んでしまう気がして…。結局、結婚しましたが。無職の彼と、産めないかもしれない私という、心もとない二人家族のスタートでした。

鈴ノ木:ええ。

繁延:その当時の話を、私も息子にしています。今、家族5人で一緒に暮らしている風景が当たり前じゃないということ、子どもを産めないかもって思ったことがあったんだよ、という話を知ってほしくて。でも、息子は何度もこの話を聞いているから、「はいはい」って感じで、話が終わる前に「で、3人で産んだでしょ?」とオチを言われてしまう(苦笑)。

鈴ノ木:うわー、その感じすごくわかる(笑)。

繁延:息子には伝わらないんですよねぇ。

――伝わってると思いますよ(笑)。

鈴ノ木:どうかなぁ(苦笑)。まぁ、伝わらなくてもね、いいと思うんですよ。ある意味、自己満足ですから。

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繁延:ええ。でも、うちの上の息子は『コウノドリ』を読んでるんですよ。だからね、産めないかもと思った私の気持ちがわかってくれるかなって期待はしています。

鈴ノ木:僕が言うのもなんですけど、あれを読んでるなら、気持ちは伝わっていると思います(笑)。

――間違いないです。

鈴ノ木:でも、伝わらなくてもいいんです。自己満足であったとしても、僕と妻がどういう思いで君を迎えたのか、毎年誕生日に言いたいんです。息子はあっという間に8歳になって、このあと息子としゃべる時間はあんまりないなと思うとね、なんでも話しておきたいんですよ。中学生や高校生になるとますます話す機会は減っていくじゃないですか。自分がそうでしたし。だから、今すごくしゃべっています(笑)。

繁延:小さいときの1年と大きくなってからの1年って、ぜんぜん親子関係の密度が違いますしね。うちの長男は11歳なので、私との時間も、もう少ししか残っていないなと思っています。

 

お二人が「出産」のそばにいる理由

――取材にしろ撮影にしろ、お二人は“他人”の出産の現場に何度も立ち会っていますよね。そのとき、どういう思いを抱かれているのでしょうか?

繁延:私の場合は、自分の子を出産するときに、「生まれてきてくれればいい」とたった一つの願いを持っていたことを思い出します。子どもが大きくなると、もっとあれができるようになればいいとか、親としての欲が出てくるじゃないですか。

――たしかにおっしゃるとおりですね。

繁延:でも、出産の現場で撮影していると“原点”に帰れるんですね。だから、撮っているそばから家族に会いたくなる。他人の出産に立ち会っているのに、自分の家族を感じます。それで家に着くと、また赤ちゃんが欲しいなと思っちゃうんですよね。3人いますけど。

鈴ノ木:まだ欲しいですか(笑)。

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繁延:まぁ、リアルには難しいかもしれないですけどね(笑)。きっと、鈴ノ木さんの作品を読まれる人も同じような感情をもつんじゃないですかね。産んだことのある人や、子どものいる人たちが、「やっぱり、子どもはかわいいな、自分の子どもは大事だな」と思って、何度も読むんじゃないかなと。

鈴ノ木:いろいろな読者の方がいるとは思いますが、そう思ってくれるといちばんうれしいですね。僕は読んだ後に、「家族が好きだな」「子どもはかわいいな」「奥さんのこと、好きだな」と普段は恥ずかしくて思えないことが、ぽっと芽生えれば、それだけで十分だと思って描いています。あづささんはこれからも出産撮影を続けますか?

繁延:まだやめないと思います。鈴ノ木さんは、出産にまつわる物語を描いていきますか?

鈴ノ木:僕の場合は、別に出産だけを描きたいわけでもないんですよ。だけど今後も描きたいのはやっぱり「家族」のこと。だからこの先、出産というテーマから離れたとしても、そこは変わらないと思います。結局、僕は家族が好きなんですよ。

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鈴ノ木ユウさんと繁延あづささんの特別対談、いかがでしたでしょうか。出産の現場を見つめ、作品に昇華してきたお二人の言葉は、とても心に響くものばかりでした。妊娠、出産、子育ては、本当に奇跡の連続。そのことを教えてくれるお二人のご活躍、これからも期待しています。

 

【プロフィール】
鈴ノ木ユウ(すずのき・ゆう)
1973年、山梨県甲府市生まれ。大学卒業後はロックスターを目指していたが、漫画家に転向。「ちばてつや賞」入選後、『モーニング』誌で2012年8月、短期集中連載を行った『コウノドリ』が人気となり、2013年春から週刊連載に。昨年10月には本作が綾野剛主演で『コウノドリ』(TBS系)としてドラマ化。今年5月、第40回講談社漫画賞(一般部門)に輝き、現在、単行本の発行累計が350万部に達する大ヒット作になる。プライベートでは妻と8歳の息子の3人暮らし。

繁延あづさ(しげのぶ・あづさ)
1977年、兵庫県姫路市生まれ。県立明石高校美術科卒業後、桑沢デザイン研究所ID科に学ぶ。その後、写真家の道に進む。雑誌・広告の写真撮影や執筆、カメラ教室の講師をするとともに、ライフワークとして出産撮影に取り組んでいる。著書に『うまれるものがたり』(マイナビ出版)、『カメラ教室~子どもとの暮らし、撮ろう~』(翔泳社)など。今年夏に、写真を担当した『あなたが自分らしく生きれば、子どもは幸せに育ちます』(小学館)と、10月に『こどものみかた 春夏秋冬』(福音館書店)が出たばかり。現在、長崎で夫、11歳・9歳の息子、3歳の娘の5人暮らし。
http://adusa-sh.sakura.ne.jp/

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