連載「高橋たかお先生のなんでも相談室」 発達障害の子どもとの「向き合い方」

連載「高橋たかお先生のなんでも相談室」 
発達障害の子どもとの「向き合い方」

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慶應義塾大学医学部の小児科教授である高橋孝雄医師による新連載「高橋先生のなんでも相談室」。第2回目のテーマは、高橋先生の専門である「発達障害」についてです。

一般的に発達障害がある子どもは、落ち着きがなかったり、コミュニケーションや対人関係をつくるのが苦手だと言われています。しかし、いったいそれがどんなものなのか正直よくわからないという方も多いことでしょう。また子どもがもし発達障害と診断された場合は、親としてどのように行動すればいいのかも気になるところですよね。

一児の母で、発達障害と診断された甥をもつ、出産準備サイト編集スタッフKが高橋先生に伺いました。

 

発達の途中で症状が明らかになるのが「発達障害」

K:「発達障害」という言葉は、今の親世代が子どもの頃にはあまり聞かなかったように思うのですが、どういう症状を指すのでしょうか。

高橋先生:前回の連載で、生後12か月間の“発達”で「言葉によるコミュニケーション」「2本の足で歩く」「小さな物を指でつまむ」という3つの機能を獲得するとお話しました。「発達障害」はこれらの発達が遅れること指していると思われている方もいるかもしれませんね。でも、その場合は「発達遅滞(はったつちたい)」と呼ばれます。「発達遅滞」と「発達障害」は別のものなのです。まずこの点をご理解いただきたいと思います。

K:では発達障害とはなにを意味するのでしょうか?

高橋先生:自閉症だったり、注意欠陥多動症、それから学習障害などを総称して指す言葉です。一般には社会に溶け込みづらい人のイメージがありますが、それはある意味、正しい理解です。もう少し詳しく解説すると、「発達」するにしたがってだんだんはっきりとしてくるコミュニケーションや行動パターンの問題のことなんですね。つまり発達遅滞と違って、生まれて半年、1年で発達障害か否かを判断することは非常に難しいです。言葉でコミュニケーションをとる年齢になり、集団生活の場が増えるにつれて「この子の問題は言葉の遅れというよりはコミュニケーション全般の問題なのかな」「知能が遅れているのではなく、あまり考えずに行動して落ち着きのないことが問題なのかな」などと思い当たるようになるわけです。発達“遅滞”が文字通り発達の遅れであるのに対して、発達障害は発達するにつれて明らかになってくる問題という意味です。

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K:発達の途中で症状が明らかになるということは、生まれつきというわけではないのですか?

高橋先生:発達障害の多くは持って生まれた強い個性のようなものです。ただ、生まれてしばらくは生活の範囲が狭く、社会生活で問題となる強い個性が発揮される機会もないので、それに気づかれにくい。活動範囲が広がりいろいろな場面に遭遇すると、どうも落ち着きがないなとか、どうも衝動性があるなと周りが気づくようになるわけです。

K:そこで初めて「あれ、発達障害かも?」と認識するというわけですね。

高橋先生:ええ。成長して行動範囲が広がり、人とのコミュニケーションができるようになった時点で、少しおかしいことに気づくものなのです。もちろん通常は、人生で最初のコミュニケーションの対象はお母さんやお父さんですね。他の例をあげると自閉症の特徴として良く知られているものに「目が合わない」という症状があります。でも、生まれたばかりの赤ちゃんは目で物を見つめることをしませんので、目が合うも合わないもないわけですね。「あっ、私と目が合うようになってきたな。見つめてるな」とお母さんが感じるようになるのは生後1か月ごろのことです。

K:なるほど、そういうことなのですね。お医者さんが発達障害という診断を下す際、明確な基準はあるのでしょうか?

高橋先生:診断のための基準はあるのですが、だからと言って、客観的に、断定的に診断がつくものではありません。他の障害と同じように、症状が強く、典型的に表れている場合と、そうでない場合がありますからね。無理に診断を付けようとせず、病名をつけることにメリットがあるときに、必要に応じて診断名をお伝えすれば良いと思っています。

K:といいますと?

高橋先生:病名をつけることで救われる人に対しては、伝えるということです。ある男性は、病名を知ったことで「内なる敵がわかった。自分で行動を変える努力をしたり、訓練である程度克服できる病気だとわかって良かった」と言っていました。

K:病名を伝えられることで前向きになれるタイプの方もいるということですね。

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高橋先生:一方でデメリットに感じる人もいる。自分ではさほど気にしていなかったのに、まわりから「君はアスペルガー障害のようだね」と言われる。自分では、口が重くて、仲間に加わるのが苦手なだけだと思っていたのに。

K:そういう人にとって病名をつけられることは、レッテルを貼られることに感じてしまうかもしれませんね。

高橋先生:そういうことです。ご両親にとっても同じことです。診断基準は診断を付けるための目安であって、ここからが発達障害で、ここまでは正常といった線引きはできません。患者さんやご家族にとってのメリット、デメリットを良く考えてから、診断名について触れることが大事だと思うのです。

K:ちなみに私の妹は、息子の衝動性や攻撃性にほとほと困っていて悩んでいたのですが、医療機関で発達障害と診断され、ホッとした様子でした。「私の育て方が悪かったわけでないんだ、この子の個性なんだ」と安心したと言っていました。

高橋先生:それは病名がついてよかったケースですね。

子どもと大人では目立つ症状が異なる

高橋先生:発達障害は、大きくなるにつれて症状が変わっていくものです。たとえばADHD(注意欠陥・多動性障害)は、小さいときは落ち着きのなさが目立ちます。でも、大人になっても甚だしく落ちつきがない人って、あまりいないですよね? 会議中に歩き出すとか、本棚を階段に見立てて登るとか、大人はしません。だけど、小学生だと、何かのはずみで物を投げたり、授業中に歩き回ったりするわけです。つまり衝動性、多動性は年齢を重ねるにつれ落ち着いていきます。

K:大人になれば症状が軽くなるということですか?

高橋先生:それともちょっと違います。大人になると、環境の変化によって、適応することがさらに難しくなっていく場合もあるからです。小学生のうちは忘れてはいけないものはそれほど多くないですね。宿題くらいでしょうか。でも大人になるとたくさんある。うっかりミスなんて、小学生のころは気にも留めないことも多いけれど、社会に出て仕事をするようになったらそういうわけにはいきませんからね。

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K:大人になるにつれ環境や立場が変わり、逆に目立つようになってくる症状もあるということなんですね。私の甥は現在小学3年なんですが、以前よりずいぶん落ち着いてきて、本人の中で折り合いをつけていっているのだなと感じます。自分の経験値が上がって、その症状が表れないように努めているのかもしれません。

高橋先生:そういうことでしょうね。甥っ子さんは、良い友だちやご両親に恵まれたのが良かったのかもしれませんね。人間関係に恵まれると、ADHDの傾向がある人も、自閉傾向のある人も、驚くほどの成功を手に入れることが珍しくないんですよ。

K:そうなんですね! まわりの理解と愛情が大切……って、すべての子どもに言えることかもしれませんが、発達障害の子どもには、より寄り添う気持ちが必要ということですね。

高橋先生:社会的に成功するかどうかは、まわりの人間の力が大きいんですよ。特に、お母さん、お父さん。ご両親や兄弟がどう接するかが、とても大切なことなのです。

子どもに「セルフ・エスティーム」を持たせることが大切

高橋先生:発達障害では、二次障害を未然に防ぐことが大変重要です。生まれつきの性格で多動傾向があったり、自閉傾向があったりすることを“一次”と考えると、お前はダメだ、変わり者だ、と言われ続けて育つことによって起こってくるのが二次障害です。たとえばADHDの子であれば、多くの物に興味が湧いて目移りするという個性は“才能”と捉えることもできるのですが、「お友達をみてごらん。なぜ、できないのかな…」「ここに座っていなさい、話を最後まで聞かなければダメ」などとダメダメダメでやっていくと、次第に自信を失い、「自分が好きという感覚」、つまりセルフ・エスティーム(=自己肯定感)が失われていくのです。

K:そこから二次障害が生まれると。

高橋先生:そうです。たとえば、お母さんに叱られてばかりいると、「僕は本当にしょうがない。お母さんを泣かせている」と思いはじめ、「たしかに自分はみんなと違うし、自分なんか幼稚園にいないほうがいいし、お母さんに迷惑をかけるから行かない」というふうになる。子どもは皆、自分が王様なので、生まれながらにセルフ・エスティームを持っているんですね。しかし障害が理解されず、ずっと叱られ続けていると、生まれ持ってのセルフ・エスティームが次第に削がれていく。そうすると自信がなくなって、さらに失敗を繰り返す。社会にますます適応できなくなっていく。これが二次障害です。二次障害を防ぐためには、まず親が寛容になることです。

K:注意したいところですが、一方で親としてはやはり最低限ダメなことはダメと教えたいと思いますよね。すごく線引きが難しいところですが、親はどこまで子どもに寛容であるべきなんでしょうか?

高橋先生:思いっきり寛容になることです。

K:即答されましたね(笑)。

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高橋先生:はい。子育てでは、障害の有無にかかわらず、気にしないこと、楽しむこと、が基本だと思っています。とにかく寛容になること。寛容になることで子どもをダメにするということは、まずないでしょう。

具体的には、特に発達障害のあるお子さんでは、1回注意したいと思ったら、まず9回褒めること。9回褒めたら、1回叱る。そして叱るときはその場で叱って、後で言わない。その場で短く簡潔に叱る。

K:9回褒めて1回ですか。

高橋先生:そう! 褒めると言っても、そう難しいことではありません。共感することです。根気よく「やったね」「そうだね」「そのとおりだね」と共感すること。子どもが「学校に行きたくない」と言ったら、「それはダメよ」と返すのではなく、「そうだよね、行きたくないよね。寒いもんね、今日はやめようか」というふうに答える。「そりゃそうだよね、ママもそういうことあるよ」と共感する。

K:親はグッとこらえて、子どもを認めてあげることが大事なんですね。

高橋先生:その通りです。それから発達障害のお子さんのもう一つの特徴は、ものすごく得意なことと、ものすごく苦手なことがあるというところ。球技は苦手だけど、走るのが速いって子はたくさんいますよね。そんな子に球技だけやらせて、どうします?

K:もったいないですね。

高橋先生:そう思うでしょ! 野球ではなく、陸上部で走らせたほうがいい。得意なことだけやらせる。得意なことを伸ばせば、セルフ・エスティームが育つわけです。

K:得意なことだけを……どんな子どもにも、何か得意なことがあると?

高橋先生:絶対あります! それを親であったり周りの大人が見つけ出してあげればいい。なにもすべての子を同じ型にはめる必要はないのですから。日常生活の他の子どもにとっての「当たり前のこと」ができないのに、何か他のことにものすごく長けている場合が発達障害の子どもたちでは多い。自閉傾向があれば、目から入る情報に強くて、一回見たものは本当になんでも覚えてしまう。お城好きの子なんかは、石垣のパターンを見ただけで「あ、これは姫路城だ」って言い当てるみたいな。

K:ある意味、天才型でもあるんですね。先生、今日はどうもありがとうございました! 仮に自分の子が発達障害だとわかっても、「ほかの子より少し強い個性の持ち主で、非常に得意なことのある子」と認めてあげることが大切なんですね。先生の話を聞いて、よくわかりました!

高橋先生:最後に一言。本当に気になるなら、その時は遠慮なくお医者さんに相談してください。くれぐれもひとりで悩んだり、くよくよしないで。

 

<プロフィール>
高橋孝雄(たかはし・たかお)
慶應義塾大学医学部 小児科主任教授 医学博士 専門は小児科一般と小児神経
1982年慶応義塾大学医学部卒業後、米国ハーバード大学、マサチューセッツ総合病院小児神経科で治療にあたり、ハーバード大学医学部の神経学講師も務める。1994年帰国し、慶應義塾大学小児科で現在まで医師、教授として活躍する。趣味はランニング。マラソンのベスト記録は2016年の東京マラソンで3時間7分。別名“日本一足の速い小児科教授”。

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