連載「高橋たかお先生のなんでも相談室」 
リテラシー教育の基本は、幼児期のしつけにある?
大切なのは「自分で選択する」を習慣づけること

小児科医 / 高橋孝雄先生

「しつけが行き届いてるね」――わが子へのほめ言葉を聞くと、ママ・パパは自分がほめられたようでうれしくなりますね。“しつけ”は子どもを育てていく中で、気になる言葉のひとつ。しつけの方向性はどうあるべきか、どう教えればいいのか、ママ・パパの悩みはつきませんね。そんななか、「現在の日本のしつけでは、世界標準に追いつかない面もある」と、慶應義塾大学医学部教授で小児科医の高橋たかお先生は語ります。その真意をお伺いしました!

いくつかの選択肢から自分で選択して決める体験は、達成感・幸福感につながります。

お母さんと娘

高橋先生:しつけのお話の中で必ずご紹介したいと思っていることがあります。それは「リテラシー」についてです。

担当編集I(以下、I):リテラシー、ですか? 検索すると「与えられた材料から必要な情報を引き出し、活用する能力」と出てきますが、そういう意味でとらえていいのでしょうか?

高橋先生:そうです。前回の記事で、時代によってしつけの基準は変わると話しましたが、今の時代、幼児期のしつけを通じてリテラシーをいかに高められるかが重要だと思うんです。ちなみに「ヘルスリテラシー」ってどんなことだか知っていますか?健康に関するリテラシー、つまり、健康に関する情報の中から自分に必要な物を選んで、活用する能力となります。世の中にあまたある情報の中から自分で情報を集め、それらの情報を一つひとつ評価し、判断して、複数のいずれも正しい選択肢の中からひとつを選ぶ。そしてそれを実行に移して自分の健康維持、促進に役立てる。簡単に言えば“自分の健康のことを自分で決める力”をヘルスリテラシーと呼ぶんです。

I:難しいお話ですが、なんとなく分かります。

高橋先生:最近ある講演会で知ったのですが、ヘルスリテラシーを国別に調査した結果、日本は40数カ国の中で最下位だったとそうです。1位のオランダ人は平均38点で、日本人は25点だったとか。

I:残念な結果ですね…。

高橋先生:日本人のヘルスリテラシーは低い、しかし平均寿命は長い――このことから推察できるのは、日本人は自分の意思で「生(せい)」を選択できずに、ただ長く生きているだけ。つまり長く生きられるのに、その時間をそれほど幸せに感じていないのではないか、ということです。

I:なるほど(深く考えつつ)。

高橋先生:逆に海外の方に比べて日本人が優れているのは、間違いのない提案を示された時にそれを忠実に実行できる、つまり医者の出した処方箋を理屈など考えずに毎日ちゃんと飲み続けるという従順さなんだそうです。

I:たしかに私たち日本人は、良くも悪くも従順なところはあるかも…。

高橋先生:はい、おっしゃるように良い面もあります。ただ、従順さも度が過ぎるとデメリットも多い。ちなみにEUを中心にヘルスリテラシーの高い国では正解を一つだけ挙げられるのを嫌い、ふたつ以上示された中から自分で選ぶのが当たり前なんです。反対に日本人が欲しがるのはたったひとつの正解で、むしろ複数の選択肢があることを嫌う傾向があるようです。自分で何かを選んだ結果として健康を手にしているわけではなく、言われたことを守って健康を保っているわけですから、どんなに平均寿命が長くても幸せだという達成感が得られにくいのかもしれない。あくまでも私見ですが…。で、話を本筋に戻すと、リテラシー教育としつけは密接に関連していると思うんですよね。

I:そこにつながるわけですね(笑)。

高橋先生:テレビの情報を信じるか、疑ってかかるかという調査もあり、(調査した国の中で)もっともメディアの報道を信じるのが日本人なんだそうです。一方、欧米は疑ってかかる人が多い。評価判断は自分でするんだ、という概念がしっかりあるんです。日本人は国際的に見て幸福感が低いと言われるのは、もしかしたらこんなことも関係しているのかもしれません。つまり自分で選んでいないから、幸せになろうと、不幸になろうと、あまり納得感が生まれない…。ものすごく大きな話になりますが、日本が本質的に幸せを感じられる国になるには、リテラシーを高める必要があって、そのためには幼児期のしつけから変えていかなくてはいけないんじゃないか、とさえ思うんです。

次のページ 自分で決める経験を重ねれば、しつけは確実に身につきます

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