高橋先生:日本人のしつけはこれまで、親はこう思うとか、わが家の家訓とか、たったひとつの正解を与えて、それに従うことを求めてきました。実際、大人が示すことって結構正しいんです。それに従うことで勉強やスポーツで成果をあげる子どもも少なくありません。でも、そのやり方そのものが間違っているんじゃないか、という話です。
I:大人がひとつの正解だけを教えるのは違うと?
高橋先生:親が考え抜いて、どちらも正解だと思う複数の選択肢を子どもに与える。そこで子どもに選ばせる。そうすると自分で決めたことになるので、子どもは自分で最後までがんばろうとするでしょう。それが本当に身につくしつけというものではないですか。
I:大人でも自分で決めた事なら、がんばれますね。
高橋先生:習い事だったら、できれば2つ見せて「どっちをやってみる?」って決めさせるといい。食事のマナーもしかり、です。2つぐらい正しいことを提示して、どっちかをまずやらせてみる。とにかく自分で判断させるように仕向けるのが親の役目じゃないかと思います。
I:子どもによっては自分で判断することが苦手な子もいるかとは思いますが。
高橋先生:いるでしょうね。でもそれなら練習を積めばできるようになりますよ。レストランで、どのメニューを選ぶか悩ませればいいんですよ。さんざん迷った挙げ句、自分で決めて食べてみたらおいしくなかった、なんていう経験は貴重なものです。「お兄ちゃんと同じものにすればよかったな。それ、僕にもちょうだい」「ダメ!」となれば、弟にとっては非常にいい経験です。自分で決めて失敗したわけですから。
I:失敗したのは自己責任であると。ただ、自己責任という考え方はいきすぎると“逆・諸刃の剣”というか、他の子に対しても異常に厳しい子になるんじゃないかという不安もあります。実際、親に厳しく育てられた子が、他の子どもに厳しくしているシーンを見かけることもあります。
高橋先生:そこもバランスですよね。他の子に厳しすぎる子どもは、自分にもしっぺ返しが来る時があります。そんな負の連鎖を断ち切るのは自分でなくてはいけない。自分のしたことが自分に返ってくることを覚えれば、それがいけないことだとわかるでしょう。
I:早めにそれを学んでほしいですね。
高橋先生:ここで親として誤解してはならないことは、子ども本人に選択させることが、親が様々な決断を放棄することにはならないということです。子どもに一から全部選択させるのは、親としては無責任な行為でしかありません。親としてのしつけの方針に沿って、いくつかの選択肢を示して、最後に決めるのは子ども。つまり親は責任を持って押し付けるんです。
I:あくまで決定権は子どもに。そこが非常に大切なんですね。
高橋先生:そうです。いくつかの選択肢のうち、ひとつを選ばせてもいいし、やるかやらないかを選ぶのでもいいんです。でも、やらないって言った以上、その責任は本人にもたせる。小さい頃「ご飯いらない」なんて言ったら、「あっ、そう」って返事が返ってきて、後でおなかがすいて後悔したことはありませんか? ただ注意すべきは、後悔をさせすぎないこと。自分で選んだ結果が、9勝1敗ぐらいになるように選択の機会を与えるのが理想的です。5勝5敗とか3勝7敗だと、自己肯定感が育まれないので、選択肢の用意の仕方も“勝率”を意識していただきたいと思います。
I:少しずつ失敗の経験を積み重ねていけるようにするのも親の役割ということですね。本日もためになる話、ありがとうございました! 早速、今日から実践したいと思います。
「幸せな人生を送ってほしい」「思いやりのある優しい人に」というわが子への思いから、しつけのつもりでちょっぴり口うるさく自分の考えを一方的に押し付けてしまうことはあるでしょう。しかし、そうした押しつけ型ではなく、子どもに選択肢を与え、考えさせることが大切だと高橋先生はいいます。先生の教えは、身に付くしつけをするというばかりでなく、子どものリテラシーを育むためにも役立ちそうです。是非、子育ての参考にしてくださいね。
専門は小児科一般と小児神経。
1982年慶應義塾大学医学部卒業後、米国ハーバード大学、マサチューセッツ総合病院小児神経科で治療にあたり、ハーバード大学医学部の神経学講師も務める。1994年帰国し、慶應義塾大学小児科で現在まで医師、教授として活躍する。趣味はランニング。マラソンのベスト記録は2016年の東京マラソンで3時間7分。別名“日本一足の速い小児科教授”。