【小児科医・高橋孝雄の子育て相談】
子どもの可能性を伸ばすには、「褒める」ことがとても大切です

小児科医 / 高橋孝雄先生

人にはそれぞれ苦手なことがあって当たり前とわかっていても、わが子の苦手を解消してやりたい、もっとできるようにしてやりたいとママ・パパは考えてしまうもの。苦手なことでも努力さえすれば、人より優れた能力が身につくものでしょうか。また得意なことをもっと秀でたものにするためにママ・パパは何をしてあげられるのでしょうか。慶應義塾大学医学部小児科主任教授の高橋孝雄先生に伺いました。

高橋孝雄(たかはし・たかお)
慶應義塾大学医学部 小児科主任教授 医学博士 

専門は小児科一般と小児神経。
1982年慶應義塾大学医学部卒業後、米国ハーバード大学、マサチューセッツ総合病院小児神経科で治療にあたり、ハーバード大学医学部の神経学講師も務める。1994年帰国し、慶應義塾大学小児科で現在まで医師、教授として活躍する。趣味はランニング。マラソンのベスト記録は2016年の東京マラソンで3時間7分。別名“日本一足の速い小児科教授”。

苦手なことでも、努力して今の自分を超えれば貴重な経験に

担当編集I(以下、I):今日はわが子が苦手なことを克服して、得意なことをもっと伸ばすためにママ・パパはどう導いたらいいのかを教えていただきたいと思います。親としては、「苦手」の克服を成功体験として、得意なことももっとできるようになってほしいと願うものですが…。

高橋先生:そうですよね。がんばれば報われる、そのことを幼少時から体験することはとても大切だと思います。ただ、ほとんどの子にとって、苦手なことに一生懸命がんばって取り組んでも、生まれつき得意な子を追い越すことはなかなか難しいものなんですよね。

I:はい。わかりやすいのは脚の速い、遅いですよね。脚の速い子はトレーニングを積まなくてもやっぱり速い。脚の遅い子がどんなに練習しても勝てないということは往々にしてあります。

苦手なことでも、努力して今の自分を超えれば貴重な経験に

高橋先生:得手不得手というものがありますし、それは「個性」とも言える。運動でも種目によって得手不得手はありますよね。例えば、僕は、球技はとっても苦手なんだけど、走ることはそれなりに得意なんです。運動なら何をやらせても上手な子もいるし、逆に運動全般にからっきし苦手な子もいる。でも、運動以外ではその立場が逆転することも多いですよね。

I:大人の世界でも、仕事をしていて「適材適所」という言葉を実感することはよくあります。もちろん仕事ではなにやらせてもすごい人もいます。だけど、プライベートではパッとしないこともあったり(笑)。話は戻りますが、苦手なことでも努力すれば、人ってちゃんと上達するものじゃないですか。子どもには、そういう成功体験でもって、前向きな気持ちになってほしいと思うんですよね。

高橋先生:そこは本当に大事です。どんなに苦手なことでも努力すれば、その子なりにちゃんと上達するんです。運動でも勉強でも、苦手だからと努力しないでいると、できないままで終わってしまいます。結果を伴わない努力は無駄、なんてことはないですよね。別の言い方をすると、無駄になる努力もあっていい、むしろ必要ということになります。

I:そうですよね。努力は報われることもあるし、無駄になることもあるけどそれも大事。そして努力をしたときに、「その子なり」とはいえ「上達する」ということがとても大事なんですよね。

高橋先生:そうです。生まれ持った素質として運動が得意な子、勉強が得意な子、いろんなジャンルにおいて、それぞれ秀でた子どもがいるわけです。だから、努力がそのまま誰にとっても平等に結果に結びつくわけではありません。「その子なり」に伸びるだけであって、得意な子と苦手な子の最終到達点が同じレベルになるわけではない。それは仕方のないことであり「現実」です。

高橋先生:ただその「現実」を前に絶望する必要はありません。努力を重ねることで自分なりにできるようになったという実感、つまり達成感が心の成長に何より大事。それを大切にしてほしいんです。繰り返しになりますが、同じように努力しても“到達できるレベル”には子どもによって差があって当たり前です。だから、お母さん、お父さんは到達点を設定して他の子どもと比較するようなことはしないであげてほしいと思います。

I:他の子どもと比較するような到達点を設定…やってはいけないとは思いつつ、親はつい他の子どもと比較しがちなんですよねぇ。

高橋先生:大切なのは自分なりの目標を決めて、努力した結果を実感できること。仮に(他人に)追いつくことはできなくても、「努力すればできるようになるんだから、がんばろう」と思えるような経験を積み重ねること。そうすれば苦手なことに直面しても決して投げ出さないようになるのでは。

I:他人基準ではなく、自分基準で目標を立てることが大事。そうしたスタンスの子に育つように、親も促してあげなきゃいけないのかもしれませんね。

高橋先生:そのとおりだと思います。誰かと比べるんじゃなくて、今の自分を超えることを目標にするんです。例えば、読み書き障害の子と平均的な子の読み書きテストの点数の年齢ごとの推移をグラフにするとします。どちらも努力に応じて同じ傾きの右肩上がりで上達するんです。

この現象をネガティブに見れば、ふたつのグループの子どもたちの点数はずっと平行線、読み書きが苦手な子はどこまで行っても平均的な子に追いつくことはない。しかし、ポジティブに見るなら、同じだけがんばれば同じだけ報われるということ。大人はそのことを子どもに伝えないといけない。そこを理解できれば、子どもも前向きにがんばることができると思うんです。

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