この数年、政府主導で女性活躍推進の施策が活発化し、2017年1月には改正男女雇用機会均等法が施行。働くママを取り巻く社会的な状況は徐々に改善されつつあります。一方で「まだまだ不十分」という声もワーキングマザーのみなさんから聞かれます。そこでミキハウス出産準備サイトでは、働くママの労働環境整備を積極的に進める企業を取材し、その取り組みや問題点などについて紹介していきたいと思います。
今回お話を伺うのは、株式会社リクルートホールディングスの伊藤綾さん。伊藤さんは同社のグループ理念 “一人ひとりが輝く豊かな世界の実現”を目指す「サスティナビリティ推進部」のパートナーとして多忙な業務をこなしながら、11歳になる双子の息子さんたちを育てる先輩ママでもあります。
あらゆるハラスメント対策は「知ること」からはじまる
――改正男女雇用機会均等法(※1)には、これまでの「妊娠・出産、育児休業等を理由とする不利益扱いの禁止」に加えて、「上司・同僚が職場において妊娠・出産・育児休業・介護休業等を理由とする就業環境を害する行為をすることがないよう防止措置を講じなければならない」という条項が新たに設けられました。働く女性が母性を尊重されつつ、その能力を十分に発揮できる雇用環境を目指したものということですが、リクルートさんではすでにサスティナビリティ(持続可能な社会)という非常に先進的な取り組みが始まっていますね。
伊藤さん:当社グループでは2006年からダイバーシティ推進に取り組んできました。現在リクルートホールディングスのダイバーシティの考え方から人権問題までを統括しているのが、私が属している「サステナビリティ推進部」で、現在 の名称になったのは2017年からです。私たちは、個が生きる社会のための「働き方の進化」、自らの人生を自ら選択できる「機会格差の解消」、違いを認め合い創発する社会をつくる「多様性の尊重」、従業員など多様なステークホルダー の「人権の尊重」、地球上に存在する人間の共通使命である「環境の保全」を重点テーマに、経営理念である「一人ひとりが輝く豊かな世界の実現」を目指して、組織の中で起きるいろいろな問題と向き合い続けています。女性社員の妊娠・出産・子育てに関する問題はダイバーシティの専門部署 が担当し、グループ全体ではサステナビリティの一環として捉えています。
――ダイバーシティ(多様性)という大きなくくりの中で、ママもマタニティさんも、未婚の方、子どものいない方も、みんなの多様性を認めて、それぞれが働きやすい環境をつくろうというわけですね。
伊藤さん:はい。ハラスメント行為……マタハラにしろ、セクハラにせよ、男女かかわらずハラスメントは絶対にしないというのは現代の常識です。私たちは、そういう「人権についての本質論」をすべての社員ときちんと共有し、学びを続けていくことが個の尊重の第一歩となると考えています。
――みんなが知らないとはじまらない、ということですよね。つまり知らないことで、無意識にハラスメントをしている方もいるかもしれないと。
伊藤さん:マタハラは特にそうだと思いますね。不平等な扱いや降格などの雇用の問題は法律遵守の観点からも捉えるべき重要な点 ですが、問題意識の欠如も有形無形のハラスメントを生むものです。また意識改革の働きかけをしないままハラスメントを禁止するだけでは現場は混乱してしまいますから、そういうことをわかりやすく伝えていくことも私たちの仕事です。
――働く人の意識から変えていくことがサスティナビリティを実現するために必要ということですね。
伊藤さん:職場では一人ひとり違う特性を持つメンバーがチームを作って働いています。同じ形のチームは二つとないですから、自分たちなりに個を生かすチームのあり方を考えなくてはならないわけです。それが例えば子育て中の人や障がいがある人などにとっても力を発揮できるダイバーシティにつながっていくのではないでしょうか。マネジメントにとっては、それぞれの個を生かせるチームづくりをいかにできるかが腕の見せどころでもありますね。
――法律が整備され、それに伴って育休などが取りやすくなってきたはずなのに、2018年の厚生労働省の報告書(※2)では働く女性の約5割が出産を機に仕事を辞めています。御社ではありませんが、会社がパパの育休など子育て世代のための制度を作ってもなかなかうまく運用できないというのもよく聞く話です。
伊藤さん:運用面での課題もありますよね。当社でも管理職への教育は行っていて、法律や人事制度などを新任マネージャー研修の時に教え、上司や職場の「知らない」、「分からない」という声をなくすことに取り組んでいます。13年前の私も“知らない上司”でした。
――そうだったんですか。
伊藤さん:ある社内研修で「妊娠した部下が、そのことをあなたに伝える時に最初に言う言葉はなにか?」という問いがありました。当時の私は、当事者の気持ちをきちんと理解できておらず、答えることができなかった。正解は「すみません」。当時、上司への妊娠の報告を多くの人がこの言葉から始めるというのです。女性たちは自分の妊娠の喜びより、職場に迷惑を掛けることを心配していたんですね。
――なるほど……13年前まで御社でもそうした“報告”が一般的だったと。もしかしたら今でも、そういう会社は少なくないのかもしれませんね。
伊藤さん:ええ。妊娠報告の際、産休・育休で職場に欠員が出ることを気にしての言葉だったのですが、「すみません」と言わせてしまう職場環境ってなんだろうと当時、議論しました。まずは「おめでとう。良かったね」と一緒に喜んで「体は大丈夫?」といたわる。これが普通に、ごく自然に行われていれば、少なくとも報告の最初の言葉として「すみません」は出てこないはずだと。
――おっしゃる通りだと思います。
伊藤さん:また「知らない」と微妙に違うのが、「分からない」という反応がマネジメント層にあること。人権やハラスメントに対する意識は時代とともに高まり、以前とは違う決まりや法律があることを知識として知ってはいても、自分の感覚まで変わっていないため、いざ自分ゴトとして対応しなければならなくなると、どうしたらいいか分からなくて戸惑ってしまうことも多いんです。会社としては、それを解消する教育(研修)や情報提供も必要だと思います。「知らない」と「分からない」をなくしていく努力は、「一人ひとりが輝く」ためには不可欠ですからね。