企業が取り組む妊娠・出産・育児を経験する従業員への支援
――リクルートホールディングス
多様性を尊重した職場づくり
最初にやることは個々の「意識変革」

ミキハウス編集部

キャリアと子育ての両立には周囲の理解も必要

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伊藤さん:職場でマタハラが起きないようにするには、マネージャー層の意識を変えていくことが大切です。リクルートマーケティングパートナーズでは、ワーキングマザー・ファーザーの生活を体験することでダイバーシティを理解し、マネジメントに生かしてもらうために、 マネージャー・リーダー 職の男女社員で希望する人を対象に「イクボスブートキャンプ」という研修を作りました。これは対象の社員が二人一組 で、社内 のワーキングマザー・ファーザーの代わりをするというプログラム。会社帰りに保育園に迎えに行き、買い物をしてご飯を作り、一緒に遊び、時に宿題を見たりした後寝かせる。これを数日間体験するんです。

――それは面白い。反響はどうでしたか?

伊藤さん:参加したマネージャーたちは口々に「育児と仕事の両立をリアルに体験できた。頭で理解していたことと、実際とは違った」と言っていました。先ほどの「知らない」ことを自分で体験して、身をもって知ってもらえたんですね。また、別の意見・アイディアも生まれたんです。

――別の意見ですか?

伊藤さん:はい。実際に体験したことで、同時にいくつもの作業を進めるマルチタスクスキルや、子どもたちとのコミュニケーションで培われる伝達スキルなどはもっと組織の中でも生かせる、支援したいという意見でした。また時短勤務で使いづらいメンバーという見方もなくなり、そのメンバーと組織を超えた斜めの関係も生まれます。

――それは今でも続いているんですか?

伊藤さん:はい、今でも続いています。また リクルートグループではVR(バーチャルリアリティ)を利用して同じような研修も行っています。こちらも希望制による実施で、ワーキングマザー・ファーザーの1日をVRで体感し、彼女たちの両立への具体的な取り組みを知って、マネジメントに生かす機会としています。また誰にでも可能性があり、成長余地があって貴重な人材だと理解できるようです。ハラスメント対策というと、たとえば「こういう言動はアウトです」「これもハラスメントになりますので注意を」という“NG”を説明することも多いかと思うのですが、やはりそれだけでは本質を理解するのは難しいと思います。

――たしかに。ちなみに、妊娠・出産の当事者である女性たちへの研修はあるのでしょうか。

伊藤さん:はい。28歳前後の女性には会社から招待状を送って、希望者を対象に「Career Caf e28(キャリアカフェ28 )」という研修を実施しています。個人により異なりますが、結婚、妊娠・出産、子育てとライフイベントの変化が比較的大きい28歳前後のタイミングで 、やっておくべきことの情報が必要という声に応え、始めました。例えば20代の間にできるだけいろいろな業務を経験して、自分のキャリアを意識して育てていくこと。そうするとたとえば出産で時間的なブランクができたとしても慌てなくてすみます。また、上司に自分のキャリアや今後のライフプランを可能な範囲で話しておくことも将来のために役立つのではと思います。

――なるほど。そうなるとやはり上司のみなさんの“理解”も不可欠ですよね。

伊藤さん:そこで私たちは「Career Cafe 28 BOSS(キャリアカフェ28ボス)」というマネージャー層向けのプログラムも行っています。これは「Career Cafe 28(キャリアカフェ28)」に参加する女性の上司を中心に参加を呼びかけるもので、先ほど紹介したワーキングマザーのVR映像を見たり、30歳前後の女性社員が自分のキャリアプランを上司に相談したくても出来ない現実をデータで知ってもらい、彼女たちへの理解を促すという内容です。出産、子育てなどを考えてキャリアにブレーキをかけがちな女性をいかに支援していくか、ライフイベントは人によって違っても彼女たちをビジネスパーソンとして育てていくことを教えていきたいと、大切にしている研修です。

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――素晴らしいですね。こういう取り組みが広がっていけば、もっと多くのワーキングマザーが活躍できる日も遠くないと思います。

伊藤さん:私自身、大学などでも就職前の学生を対象にダイバーシティの講義を行っていますが、今の学生たちはとても関心が高く、夫婦の家事分担などについても盛んに質問があります。私の学生時代は妊娠とか、体の仕組みについて教わることはあっても、ライフプランについて教えてもらうことはあまりありませんでしたからね。人の一生やキャリアは決して想定通りではないものの、就職前から自分で考える機会をもつことは素敵なことだと思います。

※          ※          ※

今年も世界各国の男女格差を測るジェンダーギャップ指数(※3)が発表されましたが、日本は149か国中110位という結果でした。それでも前年の調査に比べると経済分野のスコアは大きく上昇していて、労働参加率の男女比や同一労働における男女格差は改善傾向にあることが分かります。企業の制度や環境の整備、周囲の理解が進んで、当事者である女性のライフプランに対する意識が高まっていけば、妊娠・出産、子育てと仕事のキャリアの両立を軽々とこなせるワーキングママが増えていきそうですね。

 

〈参考資料〉
(※1)妊娠・出産・育児休業・介護休業等を理由とする不利益扱い・防止措置
(厚生労働省/2017年)
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/0000130144.pdf
(※2)仕事と育児の両立支援に係る総合的研究会報告書(厚生労働省/平成30年3月)
https://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-11903000-Koyoukintoujidoukateikyoku-Shokugyoukateiryouritsuka/0000093556_1.pdf
(※3)世界経済フォーラムが「ジェンダーギャップ指数2018」を公表(内閣府/2019年1月)
http://www.gender.go.jp/public/kyodosankaku/2018/201901/201901_04.html

 

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【プロフィール】
伊藤 綾 (いとう・あや)
株式会社リクルートホールディングス サスティナビリティ推進部 パートナー 早稲田大学卒。出版社勤務、専業主婦を経て、2000年に株式会社リクルート入社。2011年にゼクシィ統括編集長に就任。“17時に帰る編集長”として双子の育児との両立に奮闘。2015年株式会社リクルートホールディングス ダイバーシティ推進部部長、2016年同ソーシャルエンタープライズ推進室室長。2017年よりサスティナビリティ推進室 室長。 2018年より現職。

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