専門医が語る withコロナ時代の妊娠と出産

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新型コロナウイルス感染拡大は世界を一変させました。そしてこのやっかいな感染症と共に生きていく時代が、しばらく続くのではないかと言われています。そこで今回は慶應義塾大学名誉教授で産婦人科医の吉村泰典先生に、知っておくべき“withコロナ時代”の妊娠・出産に関する基本知識を分かりやすく解説していただきましょう。

 

感染防止のための対策をしっかりと

感染防止のための対策をしっかりと

――まず単刀直入にお聞きいたしますが、新型コロナウイルスへ感染が妊娠や胎児に影響はどれくらいあるのでしょうか? 現状わかっていることを教えてください。

吉村先生:現時点では新型コロナウイルス感染で妊婦さん自身が重症化しやすいとか、おなかの赤ちゃんに悪影響があるとか、あるいは流産や早産が増えたとか、死産が増えたとか、そういう報告はありません。海外ではごく少数ながら、母体の感染から子宮内の胎児のウイルス感染が疑われる例も報告されましたが、生まれた赤ちゃんに影響は見られていないようです。

――少し古い話になりますが、2009年に流行した新型インフルエンザのときは、妊婦さんへの注意喚起がかなり行われていたかと思います。

吉村先生:そのとおりです。あの感染症も世界中で数千万人が感染したといわれるほどの爆発的な流行になったのですが、海外で大きな問題になったのは、高齢者と妊婦さんの致死率の高さでした。日本では医療業界からの注意喚起が上手く機能したおかげで、妊婦さんが亡くなった例はひとつもありませんでした。

――あの時は明らかに妊婦さんにとって新型インフルは“特別な脅威”だったんですね。

吉村先生:はい。しかし、新型コロナウイルスはそういうものではありません。妊娠中に新型コロナウイルスに感染しても、症状の経過や重症度は妊娠していない人と変わらないと思われます。ただし、一般的に新型コロナウイルス以外の肺炎でも、妊婦さんが肺炎になった場合には重症化する可能性がありますから、感染しないように気をつけていただきたいですね。

――気をつけるといっても、妊婦健診などでどうしても外出しなければならないこともありますよね。

吉村先生:日本の状況(2020年6月中旬取材)から考えると、病院に行くことを止める必要はないでしょう。体調に変化がなければ、決まった時期に妊婦健診を受診していただきたいと思います。感染を避けるために、病院までの移動はマスクを着け、3密(密閉、密集、密接)のない場所を選ぶようにしてもらいたいですね。

――病院で感染することはありませんか? 院内感染のニュースを見ると、そこも心配にはなります。

吉村先生:もっとも感染リスクが高かった時期に、多くの新型コロナウイルスの感染者を受け入れていた病院であれば心配は必要だったでしょうが、今、産院に行くことに心配する必要はありません。産院でも一般的なコロナ対策をしっかりとしていますから、安心して受診していただけます。

産院でも一般的なコロナ対策をしっかりとしています

――過剰に心配をする必要はないとはいえ、個人でできる感染予防はしっかりしておくべきですね。

吉村先生:そうですね。一般的な予防策と同じですが、こまめにていねいな手洗いをする。人混みを避け、3密にならない環境を選んで行動する。それからマスクをするということですね。妊娠するとからだの中で大きな変化が起きるわけで、免疫力が低下しがちです。免疫力の低下は感染の要因にもなります。ですので十分な睡眠とバランスの良い食事を心がけて、体調を整えておくことです。仕事があるなら、テレワークなどで外出を控える工夫をすることも妊婦さんには有効でしょう。

――働いているプレママは外に出て人と接触する機会が多いので、余計に気をつかいます。

吉村先生:厚生労働省が制作した「新型コロナウイルス感染症に関する母性健康管理措置について」というリーフレットによると、令和2年5月7日~令和3年1月31日までの特別措置として、働く妊婦さんに対するテレワークの推進や妊娠中の通勤緩和について配慮するように事業主に求めています。妊婦さんはこうした制度を上手に使って、感染しにくい環境を整えたいものですね。

――プレママの感染予防には、家族の協力も必要ですね。

吉村先生:妊婦さんのご主人など、妊婦さんと一緒に住んでいる家族は、夜の外食を避けるとかね。いつ誰が感染するか分からないのが新型コロナウイルス感染症のこわいところですから、身近に妊婦さんがいるのであれば、予防には充分気をつけていただきたいところです。

気になることがあれば、早めに電話で相談しましょう。

気になることがあれば、早めに電話で相談しましょう。

――もし同居の家族に感染の疑いのある人や感染者がいる場合は、プレママへの感染を防ぐためにできることはありますか?

吉村先生:インフルエンザなど他の感染症の場合と同じで、生活する部屋は別々にする、タオルや食器を共有しない、家庭内でもマスクを付けるなどして、ご自身を守っていただかなければなりません。軽症者でもホテルで療養することができるなら、それを利用してもらうといいでしょう。妊婦さんが感染者の濃厚接触者となったり、その疑いがある時には、妊婦健診前に産科に電話で相談することも忘れないでいただきたいですね。

――新型コロナウイルスは本人が意識しない中で感染していたり、感染させていたり…いわゆる“無症状感染”がとても怖いですよね。

吉村先生:だから予防するしかないんです。感染症予防に手洗いが有効性であることは国際的に認められていましたが、マスクについては効果が疑問視されていたんですよ。ところが、WHOは6月5日にそれまでの指針を転換して、公共の場でのマスクの着用を推奨すると発表しました。感染している人が唾液をまき散らすのを防ぐマスクには、他の人にうつさないという効果もあるはずです。うがいもあまり意味がないとは言われているけれども、やらないよりやったほうがいいです。マスクやうがいという、日本人が小さい頃から家庭や学校で教えられたことっていうのは、生活習慣として正しいということが今回証明されたと私は考えています。非科学的だという人もいるかも知れないけれど、感染者や死亡者が日本で少ないことは事実ですし、それには日本人の習慣が非常に大きなファクターになっていると考えることができますよ。

――日本を含めてアジアでの感染者数、死者数が少ないのはさまざまな要因があるのでしょうね。もし、妊婦さんが「私もコロナかもしれない」と思ったらどうしたらよいでしょうか?

吉村先生:万が一風邪の症状や37.5度以上の熱が2日以上続く場合は帰国者・接触者相談センターに電話した上で、かかりつけのお医者さまにも電話で相談しましょう。強いだるさや息苦しさがある場合も要注意です。
お住いの地域の帰国者・接触者相談センターは厚生労働省のHPから探すといいでしょう。

新型コロナウイルスへの感染が心配で妊婦健診を延期する場合

――症状は軽いけれど、妊婦健診に行かずに少し様子を見たいという場合はどうしたらいいですか?

吉村先生:感染が心配で妊婦健診を延期する場合は、自宅で血圧を測って、記録を取っておくといいでしょう。不正出血、お腹の痛み、血圧の上昇などがある場合は、かかりつけの産科の医師に電話で相談してください。

――プレママはちょっとしたからだの異変でも遠慮せずにかかりつけのお医者さまに相談した方がよさそうですね。

吉村先生:そうですね。気軽に電話していただきたいです。風邪のような症状でも、市販のお薬で治そうとせずに、まずは医師や薬剤師に相談していただきたいです。抗菌薬(抗生物質)を自己判断で服用すると、万が一新型コロナウイルスに感染した時に、細菌性肺炎の治療が難しくなることも考えられます。

――ところで、妊娠中のレントゲンやCT撮影は可能なんでしょうか。

吉村先生:胸のレントゲンは全く問題ないです。CTにしても胸だけなら、大丈夫です。妊娠に気づかずに胸のCTを撮っても線量的には全く問題はありませんから安心してください。

里帰り出産、立ち会い出産を希望するなら、かかりつけ医と相談しましょう。

里帰り出産、立ち会い出産を希望するなら、かかりつけ医と相談しましょう。

吉村先生:新型コロナウイルス感染症には現時点では特効薬はありません。インフルエンザ、HIV、マラリアの薬や吸入ステロイドが有効な可能性がありますが、これらの薬には副作用があるといわれています。ワクチンもまだ開発中です。

――薬もワクチンもまだないというところも怖いですよね…。

吉村先生:ワクチンの開発にはおそらく時間がかかるのではないかと思います。新型コロナに感染した人が回復して陰性になっても、1か月とか2か月経ってからまた陽性になるケースがあります。抗体を持っていれば再感染はしないはずですから、再感染するということは抗体がまだ作られていない時期だったのか、1回目の感染で抗体ができていないということを示しています。もしかすると、抗体があっても病気を予防することができないという可能性もあるわけです。

――有効なワクチンがいつできるかもわからず、それが広く普及することを考えると、かなり長い間、新型コロナの感染に注意をしながら生活をしていかなければならないわけですね。現在、妊娠している方も、これから妊娠を考えている人にとっても、そのことは認識しておくべきですね。

吉村先生:ええ、それ以前の常識が常識でなくなった瞬間でもあります。日本産科婦人科学会では4月21日に「里帰り分娩自粛要請」をHP上で発信しました。妊娠33、34週の妊婦さんが公共交通機関を使って帰省し、実家近くの産院で出産すると、移動中の感染のリスクが高まるし、感染していた場合、出産の時に院内感染を引き起こさないとも限りません。感染者のうち少なくとも半数以上の人が無症状と言われていますから、その危険性は高いんです。だから今の状況では、できるだけ妊婦健診をしていた産院で出産する事を考えていただきたいですね。絶対に里帰り出産はいけませんということではありませんけれど。もちろん感染がわかっている妊婦さんは、里帰り分娩はできません。

――里帰り出産は実家の両親にうつしてしまうかもしれないというリスクも考えなくてはならないですしね。

吉村先生:そのとおりです。どこでどう出産するかについて家族で話し合うことが今まで以上に必要になるでしょうね。里帰り出産が難しくなると、退院後の生活をどこで誰がサポートするかという事も考えておかなくてはいけませんからね。

――ご主人やパートナーの立ち会い出産も難しいですよね…?

吉村先生:ほどんどの病院では、これまでご主人やパートナーの立ち会い出産を中止しています。病院としては感染防止のために、できるだけ人との接触を避けるために、お見舞いや面会も禁止せざるをえない状況ですからね。僕個人としては、症状がなくてマスクをしているなら夫が出産に立ち会うのは構わないのではないかと思いますけれど、今は仕方がないでしょうね。これからは立ち会いを希望するのであれば、フェイスガードをつけ、防護服を着て手袋を装着しなくてはいけないということになっていくかもしれません。治療法が確立していくまではとにかく予防するしかないということです。

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妊娠・出産や胎児への影響は今のところみられないとはいえ、妊婦さんはより感染に注意を払う必要があります。ただ、過剰に不安がることはないと吉村先生はおっしゃいます。他の方と同様、こまめに手を洗い、3密を避けるなど、基本的な予防策を取って、元気でかわいい赤ちゃんを産んでくださいね。

 

dr

【プロフィール】
吉村泰典(よしむら・やすのり)
1949年生まれ。慶應義塾大学名誉教授 産婦人科医。日本産科婦人科学会理事長、日本生殖医学会理事長を歴任した不妊治療のスペシャリスト。これまで2000人以上の不妊症、3000人以上の分娩など、数多くの患者の治療にあたる一方、第2次~第4次安倍内閣では、少子化対策・子育て支援担当として、内閣官房参与も務める。「一般社団法人 吉村やすのり 生命の環境研究所」を主宰。

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