専門医が語るwithコロナ時代の妊娠と出産

産婦人科医 / 吉村泰典先生

里帰り出産、立ち会い出産を希望するなら、かかりつけ医と相談しましょう。

里帰り出産、立ち会い出産を希望するなら、かかりつけ医と相談しましょう。

吉村先生:新型コロナウイルス感染症には現時点では特効薬はありません。インフルエンザ、HIV、マラリアの薬や吸入ステロイドが有効な可能性がありますが、これらの薬には副作用があるといわれています。ワクチンもまだ開発中です。

――薬もワクチンもまだないというところも怖いですよね…。

吉村先生:ワクチンの開発にはおそらく時間がかかるのではないかと思います。新型コロナに感染した人が回復して陰性になっても、1か月とか2か月経ってからまた陽性になるケースがあります。抗体を持っていれば再感染はしないはずですから、再感染するということは抗体がまだ作られていない時期だったのか、1回目の感染で抗体ができていないということを示しています。もしかすると、抗体があっても病気を予防することができないという可能性もあるわけです。

――有効なワクチンがいつできるかもわからず、それが広く普及することを考えると、かなり長い間、新型コロナの感染に注意をしながら生活をしていかなければならないわけですね。現在、妊娠している方も、これから妊娠を考えている人にとっても、そのことは認識しておくべきですね。

吉村先生:ええ、それ以前の常識が常識でなくなった瞬間でもあります。日本産科婦人科学会では4月21日に「里帰り分娩自粛要請」をHP上で発信しました。妊娠33、34週の妊婦さんが公共交通機関を使って帰省し、実家近くの産院で出産すると、移動中の感染のリスクが高まるし、感染していた場合、出産の時に院内感染を引き起こさないとも限りません。感染者のうち少なくとも半数以上の人が無症状と言われていますから、その危険性は高いんです。だから今の状況では、できるだけ妊婦健診をしていた産院で出産する事を考えていただきたいですね。絶対に里帰り出産はいけませんということではありませんけれど。もちろん感染がわかっている妊婦さんは、里帰り分娩はできません。

――里帰り出産は実家の両親にうつしてしまうかもしれないというリスクも考えなくてはならないですしね。

吉村先生:そのとおりです。どこでどう出産するかについて家族で話し合うことが今まで以上に必要になるでしょうね。里帰り出産が難しくなると、退院後の生活をどこで誰がサポートするかという事も考えておかなくてはいけませんからね。

――ご主人やパートナーの立ち会い出産も難しいですよね…?

吉村先生:ほどんどの病院では、これまでご主人やパートナーの立ち会い出産を中止しています。病院としては感染防止のために、できるだけ人との接触を避けるために、お見舞いや面会も禁止せざるをえない状況ですからね。僕個人としては、症状がなくてマスクをしているなら夫が出産に立ち会うのは構わないのではないかと思いますけれど、今は仕方がないでしょうね。これからは立ち会いを希望するのであれば、フェイスガードをつけ、防護服を着て手袋を装着しなくてはいけないということになっていくかもしれません。治療法が確立していくまではとにかく予防するしかないということです。


妊娠・出産や胎児への影響は今のところみられないとはいえ、妊婦さんはより感染に注意を払う必要があります。ただ、過剰に不安がることはないと吉村先生はおっしゃいます。他の方と同様、こまめに手を洗い、3密を避けるなど、基本的な予防策を取って、元気でかわいい赤ちゃんを産んでくださいね。

吉村泰典(よしむら・やすのり)
慶應義塾大学名誉教授 産婦人科医

1949年生まれ。日本産科婦人科学会理事長、日本生殖医学会理事長を歴任した不妊治療のスペシャリスト。これまで2000人以上の不妊症、3000人以上の分娩など、数多くの患者の治療にあたる一方、第2次~第4次安倍内閣では、少子化対策・子育て支援担当として、内閣官房参与も務める。「一般社団法人 吉村やすのり 生命の環境研究所」を主宰。

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