外出時にはマスクをして、ソーシャルディスタンスを保ち、家に帰ったら真っ先に手を洗い、友達との外遊びも制限される――かつてない“日常”を体験している子どもたちのことが気になるっているママ・パパも少なくないでしょう。そこで慶應義塾大学医学部教授で小児科医の高橋孝雄先生に、コロナ禍が子どもたちにもたらしている影響とママ・パパが気をつけなければいけないことについて伺いました。
専門は小児科一般と小児神経。
1982年慶應義塾大学医学部卒業後、米国ハーバード大学、マサチューセッツ総合病院小児神経科で治療にあたり、ハーバード大学医学部の神経学講師も務める。1994年帰国し、慶應義塾大学小児科で現在まで医師、教授として活躍する。趣味はランニング。マラソンのベスト記録は2016年の東京マラソンで3時間7分。別名“日本一足の速い小児科教授”。
子どもというのは環境の変化にしなやかに適応するものです
担当編集I(以下、I): 2年なのか、それとも3年なのか。いわゆるwithコロナの期間がどれくらい続き、“新しい日常”という名の非日常がどこまで続くのかわかりませんが、こうした歪な環境が子どもたちの成長や発達に悪影響を及ぼすのではないかと心配しています。たとえば今3歳の子が5歳とか6歳になるまで、いろいろな制限の中で育っていくわけです。先生は、この生活が続くことの子どもへの影響をどう考えておれますか?
高橋先生:結論から言うと、それほど深い傷は残さないと思っています。個々のケースは別として、社会全体としては、この時期に育った子どもたちに数年後に特有の変化、悪影響が生じるとは考えていません。子どもって、もともと環境の変化に柔軟に適応する能力、つまりレジリエンス(復元力)が高いんです。大人が想像するよりも強く、厳しい環境にしなやかに適応して生きる力を持っているんですね。ですから、親御さんもそんなに心配する必要はないと思います。
I:こうした状況になって最初の数か月はそう思っていたんですけど、これがあと2年や3年も続くかと思うと、本当にそうなんだろうかと不安に感じるんですよね…。
高橋先生:その不安もわかります。昨日まで良かったことが、ある日を境に突然“してはいけないこと”になった。世の中のルールが突然変わるという今回のような経験は、なかなかあるものではありません。ただ、これをネガティブにとらえるばかりでなく、むしろポジティブにとらえてみてはいかがでしょうか。「ああ。こうやって社会が突然変わることもあるんだ」というのは、子どもにとっても大きな学びですね。そして繰り返しますが、子どもはそんな経験を経て、何かをつかんで成長できる「強さ」を持っています。あと数年もすれば、子どもにとってこの騒ぎは思い出話になっているはずですし、そうあってほしいものです。あの時は大変だったよなぁ、って互いに共感できる話題、“ネタ”になっている可能性もあると思います。
I:先生は、とっても前向きですね(笑)。
高橋先生:こういう時こそ大人が前向きにならなければいけないと思います。子どもと触れ合う時間が増えたという親御さんは多いかと思います。せっかく一緒にいられるのだから、この時間をいい思い出にするにはどうしたらいいかを考えていただきたいです。
高橋先生:お父さん、お母さんにはイライラしたり落ち込んだりしないで、こんな時こそ元気と勇気を出してもらいたいですね。子どもにそういう姿を見せる。そうすれば後々、いい思い出にすることも可能なんだと思います。たしかに新型コロナは非日常を日常にしてしまった。それが長く続いているのは大問題なんですけれど、突然に変化した日常であっても、気持ちの持ち方によっては悠々と乗り越えられるんだということを子どもたちに示してあげたいですね。