【小児科医・高橋孝雄の子育て相談】
子ども時代の環境要因は
その後の人生に影響する?

小児科医 / 高橋孝雄先生

慶應義塾大学医学部の小児科教授である高橋孝雄医師によるWeb子育て相談室。今回のテーマはママのお腹の中にいる胎児の頃から幼児までの「環境要因」について。胎教、早期教育という言葉もあるほど、スポーツでも勉強でも早いうちからトレーニングを始めたほうがその子のためになると親が考えるのは不思議なことではありません。ただ、脳の発達に精通している小児科医の立場から見ると、そのような考えはどのように映るのでしょうか。
一児の母である出産準備サイト編集スタッフKが高橋先生に伺いました。
(本記事はミキハウス出産準備サイトにて2017年8月31日に配信された記事の再掲となります)

高橋孝雄(たかはし・たかお)
慶應義塾大学医学部 小児科主任教授 医学博士 

専門は小児科一般と小児神経。
1982年慶應義塾大学医学部卒業後、米国ハーバード大学、マサチューセッツ総合病院小児神経科で治療にあたり、ハーバード大学医学部の神経学講師も務める。1994年帰国し、慶應義塾大学小児科で現在まで医師、教授として活躍する。趣味はランニング。マラソンのベスト記録は2016年の東京マラソンで3時間7分。別名“日本一足の速い小児科教授”。

大事なことは「遺伝子」で決まっている

大事なことは「遺伝子」で決まっている

K:今回は、子どもの脳の発達と教育についてお話をお聞きしたいと思います。「胎教」という言葉があるように、赤ちゃんは生まれる前から脳に刺激を与えてあげると発育がよくなるというイメージがあります。このことについて、先生はどんな考えをお持ちですか?

高橋先生:僕の考えをお話する前にちょっと別のお話をしますね。人間の脳にはしわがありますが、赤ちゃんの脳はいつからしわがあると思いますか?

K:そうですね…赤ちゃんがママのお腹を蹴り始める頃ですか?

高橋先生:お、いい線いってますね。予定日よりも早く生まれてくる早産の赤ちゃんのうち、日本では妊娠22週以降に生まれた場合に、ひとりの人として治療を受けることになります。体重で言うと300グラムくらいの小さな小さな人です。22週から25、6週くらいまでの赤ちゃんの脳にはほとんどしわがありません。脳にしわがない状態で誕生した赤ちゃんが保育器の中で治療を受けることになります。そんな小さな赤ちゃんでも、保育器の中で1か月、2か月とすごす間にだんだん脳にしわができてきます。

K:すごい…。

高橋先生:そう、すごいんです。保育器の中に入っている間に呼吸の状態が悪くなったり、感染症にかかったり、ショックを起こしたりすることもあります。でも、脳は決められた通りに正確にしわを作っていきます。その様子は、まるで折り紙を折るように、遺伝子によってあらかじめ決められているのです。早産で生まれて数か月間保育器の中で育っても、大人と同じ脳のしわがきっちり作りあげられるわけです。なにが言いたかったかというと、脳の形や機能が作りあげられていくための遺伝子の“決定力”はとても強く、少々環境が悪くても、大事な部分はしっかりと作られていく、ということです。

K:なるほど、よくわかりました。

高橋先生:例えば、体重は食生活や運動などの環境要因でも大きく変わりますが、身長は遺伝子でだいたい決められているので、いくら沢山食べても、鉄棒にぶら下がっても、なかなか伸びたりしません。脳の形や働きも簡単には環境要因に左右されないように守られています。たとえ十分な栄養が取れないような厳しい環境で育った子どもでも、脳の大きさや形、そして働きは変わりません。脳は非常に大切な部分なので、遺伝子でがっちり守られているのです。

K:目からウロコが落ちてしまいそうです(笑)。ちなみに私は身長が低いのがコンプレックスで、子どもの頃から牛乳をたくさん飲んだんですよね。それでも背が伸びなかったのは、そもそもが「どうにもならない問題」だったからなのですね(苦笑)。

高橋先生:まあ、そういうことですね(笑)。たとえ未熟児として小さく生まれても、予定通りに脳を含めて体の形が作られていき、そこに予定通りの機能が宿っていくようにできています。ひとりの赤ちゃんが育っていく様子は、人が動物として進化してきた過程を思わせるほど、着実で確かなものなのです。

次のページ 「胎児のときから子育てが始まっている」は事実

この記事をシェアする

  • Facebook
  • Twitter
  • LINE

あなたへのおすすめ

おすすめの記事を見る

記事を探す

カテゴリから探す

キーワードから探す

妊娠期/月齢・年齢から探す