K:子どもの能力や性格は環境要因よりも遺伝子で決められることの方が大きい、ということはなんとなく理解しました。そうなってくると教育、特に早期教育などの「意味」についても少しお伺いしたいのですが。
高橋先生:教育環境は重要な環境要因の一つですね。早期に質の高い教育を施すことが子どもの運命を左右すると考えている親御さんは多いものですが、基本的にはそうではないと思います。特定の勉強、科目が得意か苦手かは、教育効果よりも生まれつき決められていることのほうが大きい。これは運動能力にも同じことが言えます。
K:うーん、親としては早いうちからスポーツなり、勉強なりをさせれば、それだけ先行者利益を得られるというか、メリットが大きいかなと思っていたのですが…。
高橋先生:親としてやらせてみたいことがあるのなら、是非、やらせてみたらいいと思いますよ。ただし、早くできるようになる、ということはあるでしょうけど、それ以上でもそれ以下でもない…つまり、将来的に結果は大きくは変わらないと思います。2歳から水泳をやっているからといって、親が平均的な運動能力の場合、子どもがオリンピック選手になるかというと、その可能性は低いと言わざるをえません。だから、習いごとを始めた以上は「2年間続けるべし」「週3日はやるべし」などということにこだわらないほうがいいですよ。子どもが嫌がる習い事であるなら、“無理せずやめさせたらどうですか”、“他にやってみたいことを試してみてはいかがですか”と私ならアドバイスします。
K:う~ん、そんなものですか。やると決めたら、やるっていうのは美徳とされるじゃないですか。親としても「続ける力」を養いたいとも思いますし。嫌がったらやめようというスタンスだと、「意志の弱い子」になってしまうか心配です。
高橋先生:いや、そうすることで意志の弱い子になるということはないですよ。
K:そうなんですか!
高橋先生:ええ、その子の持つ性格や性質も、環境要因よりも遺伝子要因で決まる部分が大きいですから。早くから水泳をやらせたら水泳のオリンピック選手になり、幼稚園のうちに算数をやらせたら数学者になり…ということには普通なりません。ですからスポーツや習い事は楽しみとしてやるのが良いと思います。意志の強い子に育てるためにするという考えでは決して良い結果は得られません。ご自分が果たせなかった夢を子どもでかなえようとするのはどうかと思いますよ。
K:耳が痛いです(笑)。でも、自分の夢を子どもに託したくなるものですよねぇ。
高橋先生:子どもにさせずに、今からでも遅くないですからご自分でやってみてください(苦笑)。もちろん、「何が好きか」という嗜好も遺伝する可能性があるので、両親の得意なこと、好きなことを子どもにやらせてみたら、それが向いていたということは十分にありえます。それはいいと思うんですよね。ただ、神様が作った−−−−つまり遺伝子が作った−−−−その子の才能を「無理強いの早期教育」で捻じ曲げないほうがいい。無理をしないほうがいいと思います。
K:その子本来の個性を生かすほうがいいということなのですね。
高橋先生:はい。話はまた少しそれますが、私の病院には「学校に行きたくないという症状」の子がやってくることがあります。その子たちには「学校には行かなくてもいいよ」と話します。そしてご両親にも「学校に行かないだけで人生を踏み外した大人を見たことない。社会に出てから仕事に行きたくなくなってしまうことがあるけれど、そういう人のほうが大変な苦労をしているから、お休みしたいなら義務教育のうちにお休みしておきなさい」とお話しします。
K:(追い込まれた)子どもにすればすごく安心できる言葉かもしれませんね。ただ、親はびっくりするでしょうけど。
高橋先生:たいてい驚きますね。でもそんなものですよね。嫌だと思っていることを無理にさせてもいいことなんてないわけです。なるようにしかならないと腹をくくるしかない。そしてそういう状況を悲観的にとらえず、どのようにすれば我が子のためになるか前向きに考えること。子どもさん自身が失った自信を回復できるように、褒め言葉であふれるような家庭環境を作ってあげることが大事だと思うのです。