【小児科医監修】withコロナ期の子育て――今、本当に注意すべきこととは?

小児科医 / 高橋孝雄先生

withコロナ期の子どもにとって、最大の脅威は実体験の減少と両親の不仲です

I:少し話は変わりますが、withコロナ期における生活の変化で、家にいる時間が長くなった結果、ゲームで遊ぶ時間が長くなったと言われています。そのことで、社会問題にもなっている「ゲーム依存」が深刻化するのではないか、との懸念もあるようです。

高橋先生:外出もままならない世の中ですから、家でゲームをする時間が長くなるのは仕方がないとは思います。問題は“コンテンツ”です。ボタンを押すと人が殴られて、倒れるとポイントがもらえるなんて、実社会ではありえないし、決してやってはいけないこと。そんなゲームは一切するなとまでは言いませんが、現実社会との区別がつかなくなるまで、ゲームの仮想空間に没頭するのは危険だと思います。

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I:ゲームそのものが悪いというより、実体験も積まずに、ゲームという疑似体験ばかりをするのが大問題だということですよね。

高橋先生:ええ。五感で感じることのないデジタル世界に入り込む以上は、実体験とリンクする内容であることが大前提です。「そうだ、そうだった!」と実感し、共感できるような疑似体験であれば、あまり問題はないと思います。そもそも家から一歩外に出て、友だちと30分も遊んでいれば、ゲームの世界で起きることは現実にはありえない、ということぐらい子どもにも分かります。そこの区別ができるのであれば、多少ゲーム時間が長くなったところで、それほど心配する必要はないのでは。

I:そうなんですね。ただ、日常的に長時間ゲームをやることが当たり前になって、依存症のきっかけになることだけは注意したいですね。

高橋先生:だからこそ、コロナのことを意識しすぎて外遊びを制限しているとしたら、それは「解除」してあげてほしいと思います。友だちと外で遊ぶ中で得られる実体験は貴重です。風を感じたり、雨に濡れたり。現実世界での会話やもめごと、時にはケンカも、子どもが成長していく上では不可欠なこと。大人は会食をしたり、旅行に行ったり。それらは経済活動という名のもとで許されているし、条件付きとはいえむしろ推奨されている。もちろん、取り立てて非難されるようなことでもありません。しかし、子どもに対しては、まだまだ我慢を強いていることが多いのでは。そのくせ、子どもたちのゲーム依存について心配するのは矛盾していると感じます。子どもに対する有形無形の規制は、少しゆるめてもいいのではないかと個人的には思っています。

I:先生は社会全体として、コロナに対して神経質になりすぎていると思われますか?

高橋先生:少なくとも子どもに対してはそう感じています。仮に外遊び、友だち遊びまで我慢しなさいというのなら、それは慎重すぎませんか? 子どもにとっての遊びは、大人にとっての経済活動と同様に大変重要なものです。こういう状況だからこそ、なおさら子どもの育ち方について考えていただきたいですね。東日本大震災が起こった時に「(風評被害に惑わされずに)正しく恐れよう」と言われたものですが、僕はお父さん、お母さんにこの言葉を思い出してほしいと思っています。「今こそ、正しくコロナを恐れよう」と。

I:コロナを正しく恐れる、ですね。改めて、戒めたいと思います。

高橋先生︰ところで、withコロナ期における子どもたちにとっての最大の脅威は、親からの虐待です。これは新型コロナの感染拡大が始まってステイホームが叫ばれた頃から、広く注意喚起されていました。お父さん、お母さんがイライラしたり、落ち込んだりすると、家庭で一番弱い立場にある子どもにしわ寄せがくるものなんです。

I:実際に虐待は増えているんですね。

高橋先生: 環境の変化についていけず、一種のパニックになる大人も少なくありません。残念ながら、そんな状況ではあらゆる種類の虐待が増えるものなんです。虐待と言うと、暴力を振るうとか、食事を与えないとか、無視するなどの行為を想像しますが、それだけが虐待ではありません。withコロナ期の新しい生活形態で最も気をつけなくてはいけないのは、子どもの前での夫婦喧嘩ではないでしょうか。認識されていない場合も少なくないのですが、子どもにとって最大、最悪の虐待は、お父さんとお母さんが不仲であることです。

I:夫婦喧嘩は虐待なのですね。

高橋先生:はい。お父さんとお母さんはそうとは気づかないけれど、夫婦喧嘩は子どもへの立派な虐待です。コロナ禍でストレスをためている人はたくさんいて、子育て世帯のお父さんやお母さんもイライラしている人が少なくないでしょう。無理もないことです。でも、そうした苛立ちから家庭内で諍いが起こり、それが日常化することで、知らず知らずのうちに子どもが“虐待”の被害者になっていることもあるのです。ここは本当に注意していただきたいところですね。

I:これは無意識にやっているケースもあるかもしれないので、今一度、意識していきたいですね…自戒を込めて。

高橋先生︰学校が休みでも、外で友達と遊べなくても、マスクなしでは外に出られなくても子どもの将来に大きな影響はないかもしれないけれど、温かかった家庭の雰囲気が台無しになるのは将来的にも大きな問題です。さきほど「まずは大人が前向きになろう」と言ったのは、まさにそういうことです。仕事がうまくいかない、将来が不安だ…等々、確かにさまざまな不安が襲ってくるかと思います。でも、新型コロナの影響であなたの生き方が否定されたわけでもなんでもない。そして子どもはどんな状況でも、ちゃんと育ってくれる。子どもの力を信じて、自身も前向きになることが今必要なことだと思います。


長期化する非日常――どこまで続くかわからないですが、子どもはそんな状況でも強く育つもの。先生のその言葉を信じて、ママもパパも前向きに明るく毎日をすごしていただきたいと思います。そのことが子どもにとってなにより大切なことなのですから。

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