連載「高橋たかお先生のなんでも相談室」
ひとり親、地域格差、貧困――
“困難な環境”における子育てについて

小児科医 / 高橋孝雄先生

自己肯定感があれば、格差をエネルギーに成長できるのでは

自己肯定感があれば、格差をエネルギーに成長できるのでは

I:この夏、ある記事がSNS上で話題となりました。長崎県諫早市に暮らす高校3年生の女性が描いた地域間格差をテーマにしたもので、10代の子たちが直面している「格差の現実」がリアリティをもって描写されています。住んでいる地域や、その他の環境要因で、目指せるゴールが違うのではないか。今はデジタルデバイスもあるし、本人が“その気”にさえなれば高みを目指せるのだから、そうしないのであればそれは自己責任である――彼女はそうした一般論に対して強烈なカウンターを放っています。先生も読まれました?

高橋先生:はい、送っていただいたので読みました。

I:将来は世界中の貧困や格差の問題を解決するために、国際舞台で活躍したいという大きな夢を持っている女性です。その彼女が、自分の身近にある格差について書いているんですよね。

高橋先生:格差を身をもって体感している状況が描かれていましたね。「このままではいけない」という危機感が彼女を動かす原動力、モチベーションになっているように感じました。そう感じられる人って強いですよ。彼女は自分を取り巻く格差にちゃんと気づいて、今の自分に危機感を持てたんです。共感力、意思決定力、そして自己肯定感が高い方なのですね、きっと。こういう人はどこに住んでいても、やることをちゃんとやるんだろうなって思いました。もちろん危機感が劣等感につながるタイプの子もいますので、そこが人生の大きな分かれ道になってくるのかもしれません。

I:地域格差が広がっていくことで、どんなに危機感を持ってどんなにがんばったとしてもそれが報われないような社会構造になりつつあるのではないかという指摘もありますよね。例えばシングルマザーで収入が低くて、お母さんは忙しすぎて子どもの言うことをちゃんと聞いてあげられないなんていう状態だと、子どもがもうちょっとがんばりたいという、いい意味での前向きな危機感に応えてあげられない…そうなると格差というのは問題になってくるのではないかと思うんですが。

高橋先生:たしかにそのとおりですね。だからこそ、お父さん、お母さんには、どんな状況であっても、子どもの自己肯定感を削がないように心がけていただきたいです。子どもの心の中に自由な発想が自然と生まれるような環境であれば、共感力と意思決定力も育まれ、自己肯定感は守られます。自己肯定感さえあれば、格差をエネルギーに、糧にして成長できるんだと僕は思います。

I:経済格差、地域間格差、教育格差…さまざまな格差がありますけど、それは社会をひとつの尺度で見た時に生じる“差”とも言えます。でも、世の中には本当はいろんな尺度があって、物差しは実は多様だということを示すのも必要なんでしょうね。単一の尺度での格差ばかりを意識しすぎると、劣等感につながりそうですし。

高橋先生:世の中にはいろんな尺度がある、つまり多様性ですね。最近、よく耳にする言葉です。みんな違うから面白いんですよ。その意味では、むしろ格差があることで人は生きる力を手に入れるのかも知れませんね。格差のない平坦な社会は僕にはそれほど魅力的には思えません。今の自分とは違う場所に行きたいという思いがあるからこそ、みんながんばるんです。自分を信じて努力すれば、チャンスは平等にあるのです。どのような環境にあっても、子どもたちが「それぞれの夢」を叶えることは決して夢ではないと思います。


大正末期の童謡詩人金子みすゞの『私と小鳥とすずと』の歌詞の中に使われている言葉に「みんなちがって、みんないい」という1節があります。ひとり親でも、裕福でない家庭でも、どんな地域に住んでいても、お互いの違いを認める心を持つことが、広い世界で自分の夢に向かって困難を乗り越える力を子どもに与えてくれるものかもしれません。まずはママ・パパから「みんなちがって、みんないい」を実践してみませんか?

<参考資料>

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