パートナーとともに…「男性不妊」治療の現場(前編) 

ミキハウス編集部

無精子症でも子どもはできる?

――精子のない「無精子症」の人に施す治療はあるのでしょうか?

あります。無精子症と診断されても、精巣の中に精子がまったくないというわけではない可能性があるからです。治療法をお知らせする前に、無精子症について説明しておきましょう。

無精子症は男性のおよそ100人に1人いると言われるもので、「閉塞(へいそく)性無精子症」と「非閉塞性無精子症」に分けられます。

閉塞性無精子症は、精子の通り道である「精路」に問題のあるケース。無精子症の約15%にあたりますが、精路の詰まっている場所をバイパスする「精路再建術」の手術などの治療法があります。余談ですが、もう子どもは欲しくないという人が受ける、いわゆる「パイプカット」は逆に途中で精路を断つもの。精子は精巣内ではつくられているのですが、途中で行く手を阻まれるので、卵子とめぐりあわないのです。

 

精子を“工場”まで取りにいく手術

閉塞性無精子症のそのほかの治療法としては、陰嚢の皮膚を1センチほど切開して、精細管(せいさいかん)という精子をつくっている管を採取する「Simple TESE(シンプルテセ)」という方法もあります。TESEとは、「Testicular Sperm Extraction」の略で、訳すと「精巣内精子採取」のことです。

無精子症の約85%は、非閉塞性無精子症です。これには2タイプあって、「精巣内で精子形成がまったくない」場合と、「精巣内でほんのわずかに精子がつくられているが、出てくるほどではない」場合に分かれます。

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矢印が拡張した精子を含む精細管
写真提供:リプロダクションクリニック大阪

非閉塞性タイプの人に対して行われる手術が、「Micro TESE(マイクロテセ)」。手術用顕微鏡を用いた精巣内精子採取のことですが、これは1998年にニューヨークのコーネル大学で初めて成功したもの。陰嚢の皮膚に約3センチの切開を加え、手術用顕微鏡で精巣内を観察し、良好な精細管を選別し採取します。手術中に精細管の形態をモニターでリアルタイムに観察し、1300本ある精細管の中から、状態のよい管を選びます。太く、蛇行していて、白濁している精細管に精子のいる確率が高いというのが、研究でわかっています。 

僕のクリニックに来る人は、このマイクロテセを希望されて来られる人が多いです。よくこういうたとえ話をするのですが、コンビニエンスストアに行って、欲しいパンが売っていないとします。でも、本当につくられていないかというと、そうじゃない可能性がある。それを確かめるために、パン工場に行ってみようと。行ってみたら、ほんのわずかだけどつくられていることがある。たまたま店で売っていないだけ、流通していなかっただけということがあるんですね。

だから、工場である精巣まで行って、たった1本でも太く蛇行している管があったら、精子が造られているかもしれない。精子がいたら、その後顕微授精(けんびじゅせい)ができる可能性がありますよということです。

非閉塞性無精子症の人で、まったく精子がつくられていないか、わずかでもつくられているかを判断するには、切開するしかありません。多くの施設では、マイクロテセは全身麻酔をして、「精子が取れました」または「取れませんでした」ということを術後に伝えているだけですが、今はその状況が変わってきています。

(後編に続く)

 

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【プロフィール】

石川智基(いしかわとももと)

「リプロダクションクリニック大阪」CEO
男性不妊症専門医。1974年兵庫県生まれ。2000年神戸大学医学部卒業。同大腎泌尿器科に入局した後、米・ニューヨークのロックフェラー大学、コーネル大学で最新の男性不妊手術を学ぶ。2005年に帰国後国内で診療と研究に携わり、2009年より再び日本を離れ、豪州メルボルン、モナシュ大学にて研鑽を積む。
現在は、リプロダクションクリニック大阪のほか、東京など全国で診療を行う。

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