最近、「赤ちゃんが欲しいのに妊娠しない」と悩むカップルが増えています。2015年に実施された国立社会保障・人口問題研究所の「第15回出生動向基本調査」(※1)によると、不妊を心配したことがある(または現在心配している)夫婦は35%と、2002年の26.1%から大幅に増加。また、実際に不妊の検査や治療を受けたことのある(または現在受けている)夫婦は6組に1組(2002年は8組に1組)というデータもあります。
かつては「不妊は女性側の問題」という認識が一般的で、男性の不妊について語られることはあまりありませんでしたが、医学が進歩して、最近では男性側に起因する不妊症もあることが知られるようになってきています。しかし、その原因・理由までは一般に認知されていないようです。
そこで今回は獨協医科大学越谷病院泌尿器科の小堀善友先生に「男性不妊」について伺い、前後編の2回に分けてお届けします。前編のテーマは「精子の話」。現代の男性に起こりやすい精子に関する問題や心がけることなどを取り上げます。
男性の精子濃度は50年で40%減少しているってご存知でしたか?
2016年、男性の精液に含まれる精子の数が、この50年間ですべての世代において40%も少なくなっているという調査結果が発表され、赤ちゃんを望む人たちや医療関係者に大きな衝撃を与えました。
同調査は欧米の男性を対象に行われたものですが、「同様の事態は日本人男性にもあてはまるものです」と男性の不妊治療のスペシャリストとして、多くの患者さんの悩みに向かい合っている小堀先生は言います。
「人種や住む地域に関係なく、現代に生きる男性の精子の質は著しく劣化しています。その理由ははっきりしていませんが、原因のひとつとして考えられるのはライフスタイルの大きな変化。100年ぐらい前までは、人は暗くなったら寝ていましたが、現代人は夜遅くまで起きて仕事をしたり、お酒を飲んだりします。食生活も変わり、人によってはたばこなども嗜む。さらに肥満などの生活習慣病、ストレスなども現代人特有のもの。人間として“不自然な生活”をすることが悪影響となって、精巣で精子を作る力が弱くなっていると考えられています」(小堀先生)
現在、日本には不妊男性が約90万人いるという試算があります。妊娠は男性と女性がいて成立することですから、不妊を考えるなら、男性側の原因についても知っておきたいものです。小堀先生に精子にまつわる男性不妊の実態についてもう少し詳しく教えていただきましょう。