パートナーとともに…「男性不妊」治療の現場(後編)

パートナーとともに…「男性不妊」治療の現場(後編)

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不妊治療というと、女性がレディースクリニックなどで検査や診察を受けるものというイメージの人も多いでしょう。けれど不妊の原因は、女性だけでなく、男性にある場合もあります。アメリカやオーストラリアで研究、治療の経験がある、リプロダクションクリニック大阪の石川智基医師は、日本の不妊治療の現場を変えたいと思っている人のひとりです。それは、「パートナーと一緒に治療に行くことを当たり前のことにしたい」という思い。前編に引き続き、男性不妊について、またその最新治療技術についてお話をお聞きしました。→ 前編はこちらからどうぞ。


モニターを見て会話をしながら進む「精子回収」手術

――「無精子症」と診断された人にも「マイクロテセ」という手術を行い、精子を取り出せる可能性があるというお話でしたが、最新の手術はどのように行われるのですか?

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現在は全身麻酔の必要はなく、局所麻酔で、日帰り手術が可能です。僕は、手術中に患者さんにもモニターを見てもらい、説明しながら手術を進めます。一生に一回しかできないような手術ですが、もし、精子がなくて回収できなかったとしても、患者さんには納得していただきたいんです。もし回収できなくても、それからの人生も長いわけですから、納得して前に進んでほしいと思っています。だから、画像やデータもすべて見せて、説明しています。

――無精子症かどうか、診察を受ける前に自分でチェックすることはできるのでしょうか?

いや、それがまったくわからないんです。自覚症状はありません。俗に精液が透明だと精子がいないなどといわれることもありますが、そんなこともないんです。

無精子症の人は男性の100人に1人の割合ですが、精液所見(=精子の質)が悪い人は年々増えてきていると思います。これも問題ですね。

よい精子を造るための10カ条とは?

――よい精子を造るために、男性ができることはあるのでしょうか?

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ひとつは、「禁欲期間を短くして射精をする」こと。射精をしないと、古い精子がたまって新しい精子を攻撃してしまうからです。精子の生存期間は約3日間ですから、禁欲期間は1~2日くらいが理想的です。また、精巣は熱に弱いので、「ブリーフよりも通気性のよいトランクスをはく」「長風呂、長時間のサウナは避ける」「膝の上でノートパソコンを使わない」ことも心がけるといいでしょう。さらに「自転車・バイクに乗りすぎない」「育毛剤を飲まない」こと。前者は、乗ったときに会陰部を圧迫したり、ウエアで肌を密着したりすることで、生殖機能への影響が懸念されます。育毛剤は、すべてではありませんが、主成分に男性ホルモンを抑制する働きをもつものが使われていることがあり、精子数減少などの副作用が考えられるからです。

問診では、喫煙や飲酒習慣、規則正しい生活をしているかについて聞きます。喫煙は、生殖機能に及ぼすマイナス影響が報告されていて、勃起不全(ED)の原因にもなるとされています。二日酔いになるような度を超えた飲酒や、不規則な生活も精子形成によい影響をもたらさないので注意が必要です。また、放射線も精巣によい影響がありません。1.0ミリシーベルト以下では問題とは考えられませんが、医療関係者など被曝の恐れがある人は生殖器を守る防具を必ずつけるようにしましょう。

いい精子を造るための10カ条

  1. 1禁欲期間を短くして射精をする
  2. 2ブリーフよりも通気性のよいトランクスをはく
  3. 3長風呂、長時間のサウナは避ける
  4. 4膝の上でノートパソコンを使わない
  5. 5自転車・バイクに乗りすぎない
  6. 6育毛剤を飲まない
  7. 7禁煙する
  8. 8お酒を飲みすぎない
  9. 9規則正しい生活を送る
  10. 10放射線に注意する


男性も一緒に不妊検査を受けましょう!

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2年間性生活があるのに子どもができなかったら、まずはパートナーと一緒に検査を受けましょう。もしかすると無精子症かもしれないし、女性の側が卵管障害があるかもしれない。いろいろな原因が考えられますから、二人が同時に検査を受けることがいちばんよい方法です。

日本の不妊治療は、ウィメンズクリニックなどの婦人科の病院で行われていることがほとんどです。奥さんだけが一人で検査を受けて、医師から「問題ないですよ」といわれたとします。すると、排卵日に合わせて性生活をもつよう指導される「タイミング法」を行ったり、次のステップとして「排卵誘発(はいらんゆうはつ)法」をすすめられたりします。そんな感じで1年という時間を使った後、初めてご主人の精液検査をやって、男性の側に問題があることがわかるということもあるんです。女性が妊娠するためには年齢という因子は重要ですから、せっかくの時間を無駄にしてしまうと、可能だったことも不可能になってしまうんですね。

日本には不妊の専門医は480人くらいいて、男性不妊を専門とする人は45人ほど。しかも、数が少ないうえに大学病院にいる医師がほとんどです。僕は男性不妊の専門医で、婦人科の医師とともにクリニックを運営しています。ナース、胚培養士(はいばいようし)、カウンセラーなどスタッフ一丸となって、患者さんと同じ方向を向いて、全力を尽くしています。チームとしてやらなくてはどうにもならないのが、生殖医療なんです。ただ、このように男性不妊、女性不妊の専門医が常駐して治療にあたっているのは、日本ではここが初めてです。

――ということは、海外ではカップルが同時に検査をする形が一般的なのですね?

ヨーロッパではそれが当たり前です。日本でもこういうクリニックが増えればと思っています。レディースクリニックだと男性は行きにくいし、そもそも男は不妊治療クリニックに行きたくない。プライドもあるし、自分のせいだといわれたくないし。でも、僕は「それが本当にプライドを守ることになるんですか?」と思います。妊娠するには配偶子、つまり卵子と精子が必要なわけです。どっちが欠けてもダメで、そういう意味ではフィフティフィフティです。

男性が不妊治療の最初の過程で、一度検査を受けているかいないかは本当に大事なんです。もしも、男性に問題があった場合は、「自分に問題があるので、嫁にしんどい思いをさせて申し訳ないな」といういたわりの気持ちが出てくるでしょうし、そうでない場合でも、一度病院に行っていれば、不妊に対する理解と思いが変わると思います。いま不妊で悩んでいる人は、奥さんだけ泣いていることが本当に多い。旦那さんは奥さんがどんな治療をしているか、よく事情を知らないというケースです。

男性不妊に初めて助成金も

――いまだに、不妊は女性のものという認識の人も多いのが実情ですね。

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そうですね。これをまず、子どもが欲しいと思っているカップルから変えていくべきだと思います。夫婦で子どもをつくろうと決めたなら、二人で治療をするのは自然なこと。どっちが悪いかということをはっきりさせるのではなく、お互いが一緒に同じ方向を向くのがとても重要です。うちのクリニックに来る夫婦は仲がいいし、前向きな人が多いです。

現在、自治体から不妊治療に関して助成金が出されています。1回15万円で、1年度で2回まで交付されますが、体外受精、顕微授精に対してです。これはすなわち、女性に対してしか出ないということ。男性不妊に対してはまったくゼロです。それが、今年4月から初めて、三重県で助成金の交付が始まりました。テセの手術に5万円です。額は十分ではないですが、とても意味のあることだと思います。これがどんどん日本中に広まって、男性不妊の問題に目が向けられ、社会の認識が変わり、患者さんが周囲からストレスではなく温かいサポートを受ける。それが僕の希望です。

 

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【プロフィール】

石川智基(いしかわとももと)

「リプロダクションクリニック大阪」CEO
男性不妊症専門医。1974年兵庫県生まれ。2000年神戸大学医学部卒業。同大腎泌尿器科に入局した後、米・ニューヨークのロックフェラー大学、コーネル大学で最新の男性不妊手術を学ぶ。2005年に帰国後国内で診療と研究に携わり、2009年より再び日本を離れ、豪州メルボルン、モナシュ大学にて研鑽を積む。
現在は、リプロダクションクリニック大阪のほか、東京など全国で診療を行う。

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