I:男性の育児参加を改善していくには当事者やそれを取り巻く人々の意識の変化もさることながら、労働、雇用、賃金格差まで、いろんな社会課題をも解決していく必要があるように思います。子育て支援部分だけを制度設計しても全体に歪んでいると進みづらいいというか…。
安藤さん:突き詰めると、子育てしづらい社会には構造的な問題があるという話にもなってきますよね。全部一度に解決するのは到底無理な話ですから、自分ができる事から取り組むしかないんですよ。
ですから、「自分は全然できていないな」と感じている父親は、是非母親と同じ目線・同じ方向を向いて「生活」してほしいと思います。その時間を少しずつ長くしていけば、自然と家庭の一員としての連帯感や共感が生まれると思います。
I:そうですね。母親の気持ちに寄り添いながら、おむつを替えたり、ミルクをあげたり、泣いているときに抱っこする。ゴミ捨てやお風呂そうじ、洗濯といった間接育児をすることでもいいですよね。そうやって母親とふたりで赤ちゃんを見守ること、これが子育ての一歩ですね。
安藤さん:最後に育休についてお話しさせてください。僕は常日頃から「育休はスタートアップ」と言っています。育休は父親になるスタート地点。ここをちゃんとやることが、父親としてのその後の成長を決定づけると思っています。母親が出産で全治3か月の重傷を負っている時に、父親がどれだけ自分事としてコミットできるか、やってみて「こんな大変なこと一人じゃ無理だ。母親は偉大だったんだ」と腹落ちすることがスタートアップで、そこで育児・家事が身に付けば、その後はワークライフバランスなんて当たり前になって、仕事も育児も上手くいく、笑っている父親になるはずです。
I:それくらい育休は、その後長く続く子育てにとっても重要だということですね。
安藤さん:そもそも“育児休業”という呼び名から変えるべきと僕はずっと国に言っているんです。産後の母親は休まなくてはいけないから、ご飯を食べることとトイレと授乳以外やらせてはいけない。家事全般や授乳以外の赤ちゃんのお世話はほとんど父親の役割ですから、てんわやんわになるはずです。決して「休み」ではないんです。育休を長期で取った父親は必ずこう言います。「仕事している方がぜんぜん楽だ」って。
I:それは大切な指摘であり、みんながちゃんと認識しておかないといけない事実ですね。
安藤さん:育児を知らない上司が「いいな。お前は育休取れて」って言ったとしても気にしなくていい。育休は「休業」じゃなくて「修行」ですから。でも、それは辛い修行ではない。そこには必ず幸せが待っています。専業主婦全盛時代のほとんどの男性上司は仕事だけして育児やって来なかったから、それを知らないだけです。
そう、わが子の存在は親を幸せにしてくれます。それは親になってはじめて知ることでもありました。育児は母親だけがやることではもちろんないし、母親の特権でもない。父親にも子育てにジョインし、子どもと一緒に人生を歩む権利があります。これからの父親たちには母親と手を取り合って、子どもともちゃんとかかわり合って、人生を楽しく送ってもらいたいなと思っています。
「子どもは産んでくれた人が好きなのではなく、毎日世話をしてくれる人に懐くんです」と安藤さんは言います。また、父親とかかわり合う時間の長い子どもには、自己肯定感やコミュニケーション力が育つという研究結果もあるそうです。
子育て支援制度が拡充する今、父親がわが子ときちんと向きあう機会を作ることは以前ほど難しくはなさそうです。家族との時間をもっと楽しむために、育児や家事に主体的に取り組んでみませんか?
東京都出身。1962年生まれ。明治大学卒。出版界やIT企業で働いていたが、仕事中心に陥りがちな自らの生き方をリセットするべく、2006年にNPO法人ファザーリング・ジャパンを創設。企業や自治体の父親の子育て支援・自立支援事業に係りながら、講演会や子育てセミナーなどを行っている。3人の子どもの父親。
- <参考資料>
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※1平成28年度社会生活基本調査(総務省)
https://www.soumu.go.jp/main_content/000769737.pdf -
※2令和3年労働力調査(総務省)
https://www.stat.go.jp/data/roudou/sokuhou/nen/ft/pdf/index.pdf -
※3育児・介護休業法の改正について~男性育児休業取得促進等~(厚生労働省/2022年)
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000851662.pdf
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※1平成28年度社会生活基本調査(総務省)