育休取れても取らないのはナゼ?
「父親育児」の現状を専門家にお聞きしました

ミキハウス編集部

楽しみながら父親を「する」

楽しみながら父親を「する」

I:日本の子育て支援制度、特に育児休業制度は世界でもトップレベルに充実していると言われています。事実、ユニセフ(国連児童基金)が2021年に発表した報告書「先進国の子育て支援の現状」の中で、「育児休業制度」ランキングではトップに評価されていますね。

安藤さん:子育て家庭に対する給付金の額など、日本の育休制度は先進国でも最高水準なんですよ。また時短勤務や企業内保育所などの子育て支援・両立支援制度を持っている企業は多い。女性もかつては育休が取りづらく出産で会社を辞める人が多かったのですが、今では大企業のほとんどで100%取得になっています。そういう意味では女性活躍はある程度進んでいると言えるでしょう。

でも、男性はそうなってない。「会社を休んで子育てをしてくださいね」という制度が男性にもあるのにそれが活用されていないんですね。本人が取りたくても男性が育休を取りづらいムードがまだ職場にある。制度より風土。そこに課題があると思っています。

安藤さん:そうなっている理由は先ほども言いましたが、男性自身の意識が変わっていないし、職場でも男性の育休を歓迎する雰囲気はまだないということ。本人も育休なんか取ると、「同僚に迷惑をかける」、「収入が下がる」、「評価が下がってキャリアに傷がつく」などと考えてしまい、結局は取らない人がほとんど…というのが現状で、制度を十分に活用できていないんですね。「子育てなんかで会社を休んでいいんだろうか」という思い込みが、男性にも職場にもまだまだあるということです。

I:その一方で社会の変化に伴って、さまざまな意識や価値観も急速にアップデートされているように感じています。少し楽観的な見方かもしれませんが、日本の子育て環境も男性の育児参加も、どんどん改善されていくのではないかと思ってはいるのですが。

安藤さん:そう思いますよ。すでに変化は始まっていて、この15年、「現場」を見てきてすごく実感しています。“イクメン”だって、ただのブームに終わらず、育児を楽しむタレントやアスリートの男性を見るにつけ、「かっこいいなあ」と感じる男性が増え、父親自身の意識改革に貢献したし、リーマンショックや 3.11 の影響で働き方や家族に対する考えも随分変わりました。コロナ禍だって、決して悪いことばかりではなく、家族のあり方や仕事との向き合い方などを省みるいい機会になったとも言えます。

安藤さん:僕は「イクメンの不可逆性」と呼んでいるけれど、父親の育児は当たり前になってこの先も推進されていくだろうし、もう昭和の時代に戻ることはないでしょう。目に見える変化が訪れていないことに対する苛立ちもわかりますが、現在、男性育休が当たり前になった国々もかつてはそうではなかったし、それこそ時間をかけて男女の役割分業意識も制度も変えて今があるわけです。日本も時間はかかると思いますが、最近の若い父親たちの言動を見ていると、間違いなく良い未来に向かっていると信じています。

I:若い人と話すと、意識も全然違いますしね。

安藤さん:そうなんですよ。僕は大学でも教えているので、男子学生に「もし子どもが生まれたら、家事をやる?」と聞くと、ほぼ100%が「やる」と言います。「これからの時代は男性のライフデザインとして、『いっとき主夫になる』という選択肢があると思うんだけど、やってもいいと思う人は?」の問いには、約1/3の男子学生が手を挙げます。かつての若者とは、感覚がかなり変わってきていることを実感しますね。

安藤さん:カップルが手を取り合って「協働」でやろう、という感覚が浸透しているように感じています。よく、家事分担の割合を5:5にするのが平等だろうという議論がありますが、本当にふたりが自分事として育児・家事をしていれば、そういう平等論ってあまり意味がないと思います。つまり、その時にできる方が家事をするというやり方です。家事分担5:5は、どうしても「義務感」が伴ってしまいますからね。頑張って50%はしなきゃいけない、みたいな数値目標を設定してしまうと、会社のノルマみたいになってしまい、家事も子育ても楽しくならないと思います。

I:たしかに。もちろん家事も子育ても、義務としてどちらかがらやらなければいけない側面はあるわけですが、意識として全てを義務に捉えてしまうとお互いに窮屈になってしまう。

安藤さん:育児・家事は日々の営みですからね。そこに家族がいるんだから父親にもホームワークはあるわけです。だって、多くの働く母親は仕事と育児家事どっちもやっているわけで。仮に今、「自分は家事育児やっていない、やれていないな。母親に負担かけているな」と思う男性は、そこでスイッチ入れて毎日少しでもいいからやることが大切です。

I:少しでもいいからやれることを。

安藤さん:そう。朝20分早く起きて、できる家事や子育てをやればいいんじゃないでしょうか。そのときに「やらなければいけない」という意識ではなく、育児・家事は楽しむものである、というポジティブな姿勢で取り組んでほしい。義務だと思っている限り続きません。自分もかつてそうでしたからよく分かります。僕たちは「子どもたちが笑顔でいるために、父親として何ができるのかを考えようよ」と呼びかけていますが、子育て中の男性には、ぜひ父親であることを楽しんでほしいと思います。

I:子どもが笑顔でいるために父親としてできることってなんでしょうか?

安藤さん:主体的に楽しむことだと思います。僕は絵本の読み聞かせでスイッチが入りました。どんな本を選んだらいいんだろうとか悩まずに、フィーリングが合う作家さんの描いた絵本を読めばいいと思うんです。

父親が笑って絵本読んだりして子育てを楽しんでいれば、子どもも笑顔になるだろうし、そんな父親って子どもから見ても頼れるカッコいい大人ではないでしょうか。子どもが生まれたら男性はみんな名目上「父親になる」けれど、本来は楽しみながら「父親をする」ことが家族にとっても自分にとっても大事なことだと、僕たちは考えています。

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