漫画家・鈴ノ木ユウさん×出産カメラマン・繁延あづささん対談
――出産、そして家族のものがたりを紡ぐということ<前編>

ミキハウス編集部

昨秋のテレビドラマ化を経て、連載3年目に入った漫画『コウノドリ』(講談社)。作者の鈴ノ木ユウさんは、わが子の出産を目の当たりにし、子育てを経験することでこの作品を描きはじめました。そして、雑誌や広告などで撮影をする傍ら、ライフワークとして「出産写真」をカメラに収めている写真家・繫延あづささん。今年初めて出産写真を1冊の本にまとめ、その内容には賞賛の声が上がっています。

出産の“奇跡”を目の当たりにし、創作活動を行ってきたお二人が、出産、子ども、家族をテーマに対談。自身の作品への思いや、お互いの作品への感想も交えながら、思う存分語っていただきました。

*   *   *

 

イメージとは違った、わが子の出産、誕生

――お二人は実は一度会って、お話をしたことがあるそうですね。

繁延さん(以下・繁延):そうなんです。『コウノドリ』はドラマ化される前から読んでいて、鈴ノ木さんってどんな方なのだろう? とずっと気になっていました。そして、私の出産写真の本『うまれるものがたり』(マイナビ出版)が出たときに、本を読んでいただけないかなと思っていたら、友人のつてをたどってお会いすることができて。

鈴ノ木さん(以下・鈴ノ木):たしかJR高円寺駅前のカフェで会ったんですよね。おしゃれなのか、どうなのかよくわからないような(笑)。

繁延:そうそう、いい意味で微妙なところ(笑)。私も昔よく行っていたお店で、好きな場所。かっこよすぎないから落ち着けるんです。

鈴ノ木:で、最初に会ったときにお互いのことがなんとなくわかったんですよね。出産という同じ題材を俯瞰する目をもって表現していることと、同じ“中央線の匂い”(※)がしたということで。初めて会った人なのにスッと話ができたというのが第一印象でした。
(※編集部注 お二人とも若い頃はJR中央線沿線にお住まいでした)

繁延:そうですね。出産に対する“違和感”から作品を作りはじめたというところも似ていると思いました。

――違和感というのはどういうことですか?

繁延:自分で経験する前は、出産ってもっときれいで、もっと感動的なものだと思っていました。この上ない感動の瞬間が訪れると思っていたのですが、そんなことはなくて、激しい痛みに耐えた後で、全身が脱力し、放心状態に…イメージしていたものとのギャップが大きすぎて、自分が間違えてしまったような気持ちになりました。

鈴ノ木:僕も妻の出産に思いがけず立ち会ったのですが、イメージしていたものとは違いました。ドラマなどであるように、お父さんが分娩室の外の廊下で待っていて、赤ちゃんの泣き声が聞こえて「生まれたか!」みたいなことはなかったですし、生まれたばかりの赤ちゃんって血まみれで汚いし、かわいくねーじゃんと(笑)。

――お二人とも自分が思い描いていた出産シーンではなかったわけですね。

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鈴ノ木:ええ。出産の現場では、“遠く”から見ていることしかできなかった。その場にはいるんですけどね。ただ、そこにいたこと、立ち会えたことは本当によかった。妻だけでなく、お医者さんや助産師さんたちも戦っているんです。そんな姿に心を打たれて、じわじわと胸に迫るものがありました。そして、産まれた子どもを見ても“あんまりかわいくねーじゃん”と一瞬は思ったのに、子どもを抱いたら“かわいい”と思えたんです。

――繁延さんは、ご自分の出産はいかがでした?

繁延:私は助産師さんやまわりのことなんて見えてなかったですね。私、一人目のときは友人のカメラマンが出産に立ち会っていたんですよ。「作品にしたいから撮らせてほしい」と言われて。

――ということは、最初は“被写体”だったのですね。

繁延:ええ。産後1か月くらいにその時の写真を見せてもらったんですけど、それはそれは「自分が見ていなかった風景」がたくさん写っていました。出産時は、自分の主人の手くらいしか見えていなかったですから、すごく新鮮でしたね。

鈴ノ木:それだけでも見えていて、すごいじゃないですか。

繁延:あ、そうか(笑)。そんな状態だったのと、産後はすぐ赤ちゃんのお世話が始まったこともあって、産んだ実感がなかったんですよ。だから、陣痛のときに夫が私の汗をぬぐっている写真を見たときは、まるで自分と夫じゃないような感じさえしました。でも、写真を眺めているとだんだん自分が産んだという実感がわいてきました。変な感じですよね、自分の目の前に赤ちゃんがいるのに、客観視した他人の写真でそう思えたんです。

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鈴ノ木:写真家だから、ビジュアルから感じる力が強いというのはあるかもしれないですね。僕は産んだことはないからなんとも言えないですけど、うちの妻は確実に僕のことは見ていなかったですねぇ(笑)。僕に完全に背を向けていたので、とにかく背中をさすって、「大丈夫か?」って声をかけるしかできなかった。

繁延:産む側は、余裕はないですからね。私、主人にもカメラを渡していて撮るように言っておいたんですけど、実際に主人が私に冷静にカメラを向けていることに、イラッとして、そのカメラを取って投げたりしましたね。でも、彼は訳がわからずそのカメラを拾ってまた撮ろうとするけど、また私が投げて(笑)。

鈴ノ木:どんな感じで?

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『うまれるものがたり』(マイナビ出版)より

繁延:もう奪い取って投げる感じ(笑)。自分がお願いしたことなんですが、完全に冷静さを失っていました。「私がこんなに必死なのにあなたは何をやってるの?」みたいな気持ちになったんですよ。でも、それを説明する余裕もなくて。鈴ノ木さんの奥さまはどんな感じでしたか?

鈴ノ木:彼女も必死でしたね。いざ産む直前になったときにすごく苦しそうにしていて、本気で「え、死んじゃう?」って思ったほどです。

繁延:あぁ、私も一人目のときはそんな心境になる苦しさでした。

鈴ノ木:人って苦しむとこんな顔をするのかとも思って。

繁延:そうそう。私は写真を撮っているので、妊婦さんの顔で陣痛の進み具合が予測できる部分があります。傷みが本格的になると、特有の表情になります。たぶん、ふつうのときに見せない、やってみようとしてもできない顔。それほど痛い。

鈴ノ木:ええ、ヨソじゃ見せられない顔になっていますよ(笑)。

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