一般的に、プレママがおなかの赤ちゃんの存在に気づくのは、妊娠4週か、5週目ぐらいが多いと言われています。そこで今回は妊娠5週頃までの「妊娠超初期」にスポットを当て、ほとんど自覚症状がない中で起こっている体内の劇的な変化や、妊娠の兆候についてまとめてみました。
記事の監修は、慶應義塾大学名誉教授で産婦人科医の吉村泰典先生です。
妊娠超初期はいつからいつまで!?
実は医学的には「妊娠超初期」という考え方は存在していません。しかしここ最近は、妊娠5週頃までを「妊娠超初期」と呼ぶことがあります。
となると妊娠0週から5週が「妊娠超初期」になるかというと、そういうわけでもありません。ちょっとややこしいですが、それは妊娠の数え方がちょっぴり特殊なことに関係しています。
妊娠の始まりは「受精の日」ではありません。最後の月経が始まった日を0週0日としてカウントし、その2週間後が排卵期ですから、精子と卵子が結合して受精卵となった時点で、すでに妊娠2週となっています。
精子と卵子が結合した受精卵は、細胞分裂をしながら卵管から子宮へと移動していきます。このとき、子宮内膜はホルモンの影響で厚くふかふかな状態になっています。
なお受精卵が子宮内膜にもぐりこんで育ち始めることを「着床」といい、受精から着床までは約1週間かかります。このときはじめて妊娠が成立するため、妊娠は3週目からスタートすることになります。
そういう意味では、「妊娠超初期」とは妊娠3週目から妊娠5週頃までを指すといえそうです。ただ、一般的に妊娠に気づくのは早くても妊娠4週か、5週目ぐらいが多いので、「妊娠超初期」は妊娠していることすら認識していない時期といえるでしょう。
妊娠検査薬はいつから正しく反応する?
市販の検査薬で妊娠を確認できるようになるのは、着床して10日ほど経ってからです。妊娠していたとしたら、4週をちょっとすぎた頃。ただ、あくまで目安なので、もし検査薬で陰性だったとしても、1週間待って月経が始まらないなら、もう一度検査をしてみてください。陽性になったら、産科で妊娠を確認してもらいましょう。
妊娠超初期の赤ちゃんの様子や大きさは?
妊娠の成立を意味する着床。着床から1週間程度経過し、妊娠4週になると、子宮内の胎児を覆っている直径2mmぐらいの「胎のう」が超音波検査で確認できるようになります。胎のうは赤ちゃんではなく、赤ちゃんを包むための“部屋”みたいなものです。
妊娠5週には、胎のうは数mmから1cmほどの大きさになり、その中で赤ちゃんは急速な発達を遂げています。
早ければ妊娠5週末から6週前半には「胎芽(たいが)」と呼ばれる小さな赤ちゃんの姿が確認でき、また心拍も確認できるようになります。
妊娠超初期の症状とは?
妊娠超初期は妊娠検査薬でも正しい反応がほとんど出ません。ただし、いつもと違う症状やちょっとした体調の変化など、妊娠の兆候が現れることもあります。
ということで、早い人で妊娠3週から表れるという妊娠の兆候を症状別にご紹介していきます。
もしかしたら妊娠してるかも? 超初期サインのチェックポイント
【月経が始まらない】
いつもは規則的に訪れている月経が始まらない場合は妊娠している可能性が。月経不順だったり、出産後で月経が止まっている時は、妊娠に気がつかないこともあるようです。
【基礎体温が高い、微熱が続く】
高温期が2週間すぎても続き、体温が低くならない場合。妊娠していると風邪を引いた時のように、微熱が続いてからだが熱っぽくてだるさを感じることもあります。
【痛みを伴わない微量の出血がある】
妊娠4週ぐらいに、ごく少量の出血が見られることがあります。ちょうど次の月経予定日と重なる頃なので、月経と間違いやすいのですが、量が少なくて痛みもなく、1~3日ぐらいで終わってしまうなら着床出血の可能性が高いです。この出血を月経と思い込み、妊娠しているはずがないというプレママもいます。
これは受精卵が子宮内膜にもぐりこむ時に小さな血管を傷つけることで起きる出血で、1~2割のプレママに見られる妊娠の兆候のひとつです。ただし出血量が多い、血液に塊がある、下腹部が痛むなどの症状が見られる時は、流産や子宮外妊娠など別の疾患かもしれないので、産婦人科で診察を受けるようにしましょう。
【乳房の張りや痛み】
乳房が張る、乳首の先が痛む、乳輪が黒ずむなどの変化が見られることがあります。
【眠気、集中力の低下】
妊娠を成立させ、継続していくためにはホルモンが多く分泌されます。このホルモンは眠気を生じさせる働きもあるため、睡眠を十分に取っていても、なんとなく眠気を感じたり、頭がボーッとするということもあります。
【頭痛、むくみ】
妊娠すると疲労やストレスを感じやすくなるために、頭痛に悩まされる方もいます。また妊娠すると黄体ホルモンが増加してからだに水分を溜め込みやすくなるために、手足がむくんでしまうことも。
【つわり】
吐き気や嘔吐などのつわりは早い人で4週ぐらいから始まることがあります。一般的には妊娠5週ぐらいから始まり、8~10週頃をピークに収まっていくことが多いです。ただし個人差は大きいです。
【メンタル面での不調】
つわりの時期に、落ち込んだり、イライラするのは珍しいことではありません。ホルモンバランスの急激な変化から来るからだの不調によって、出産や将来に対する不安が募ってしまうということが原因とされています。
【便秘】
女性ホルモンの増加は腸の運動を低下させます。そのため多くのプレママが妊娠初期から便秘に悩んでいます。
【おりものの変化】
腟分泌物は増加し、おりものは白色乳汁状になります。またサラッと粘り気のない水っぽい状態になります。またにおいがきつくなることも。もちろん個人差があるので、このとおりの変化になるとは限りません。
妊娠超初期に気をつけるべきこと
この時期は、妊娠していることを気づいてないケースがほとんどなので、「妊娠超初期に気をつけるべきこと」は、妊娠を意識したとき(妊活時期)から気をつけるべきことと同意とお考えください。
飲酒も喫煙も避けましょう。
妊娠が分かってから心配することがないように、妊活中からタバコを控えておくのが望ましいです。
またアルコールも同様。妊娠中の飲酒は、ある一定量を超えると赤ちゃんの脳の発育を阻害する「胎児性アルコール症候群」のリスクを高めるとも言われているので、注意が必要です。
なお日本産婦人科医会によると、1日のアルコール摂取量が15ml未満であれば、胎児の影響は少ないとされています(ないわけではありません)。15mlの目安は、ワインでいうとグラス1杯、日本酒はコップ1/2杯、ビール350ml 缶1本となります。
飲酒による胎児の障害は、妊娠期間中のいつの飲酒でも起きる可能性があるので、妊娠が分かってから授乳終了までは、アルコール飲料は避けましょう。
胎児への影響が明らかになるのは1日90ml以上から。この量を超えると「奇形の発生が明らかに高くなる」、そして1日120m以上になると「胎児アルコール症候群発生率30~50%」となります。
ちなみに妊娠超初期に、妊娠とわからず飲酒したとしても、妊婦や胎児にただちに影響を及ぼすことはないので、仮にその後流産したとしても「あのときの飲酒が原因で…」と考える必要はありません。とはいえ妊娠が分かったら、禁酒をおすすめします。
睡眠は十分取って、バランスのいい食事を
十分な睡眠を取るなど、健康的な生活を心がけておくことが重要です。
なお妊娠中に不足しやすいのはビタミンB群。ビタミンB1は豚肉、赤身肉、全粒穀物、ナッツ、大豆などに多く含まれます。またビタミンB6はにんにく、マグロやカツオ、牛レバーなどに、ビタミンB2は豚レバー(牛も鶏もOK)、うなぎ、焼きのりなどに多いです。
鉄分は、妊娠前の約3.1倍必要になるので、牛肉やアサリ、レバー、納豆、小松菜、ナッツ類、海藻類などを、鉄分の吸収率を高めるビタミンCと一緒に摂取することがおすすめ。
ただ食事は特定の栄養素を意識するというより、バランス良く食べることが基本です。
葉酸は積極的に摂取してください
食事はバランスよく、が基本ではありますが妊娠初期に大事な栄養素「葉酸」だけは意識して摂取しておきましょう。「葉酸」は通常の食事で必要量を摂取することが難しく、どうしても不足しがちなので、サプリなどで積極的に摂るようにしてください。
葉酸は赤ちゃんの先天性の障害である「神経管閉鎖障害」のリスクを減らすといわれています。先天異常は妊娠7週間頃までに起きるとされているので、その予防のためにも葉酸は妊娠をしたいと思ったときから摂取するようにしてください。なお葉酸は産後でダメージを受けた子宮を回復する手助けをしてくれるので、産後もしばらく摂取されることをおすすめします。
感染症対策はしておきましょう
妊娠中は免疫力が下がるため、風邪やインフルエンザなど各種感染症にかかりやすくなったり、場合によっては重症化しやすいので注意しましょう。感染症の中には、風しんのように胎児の成長に影響を及ぼすものもあるので、妊娠を意識した時点で抗体検査やワクチン接種をするようにしてください。
極端に神経質になる必要はありません
妊娠初期に感じる妊娠の兆候は、「なんとなく変」という程度の軽いものが多いようです。でもどんな症状があるかは人それぞれで、感じ方も違います。同じプレママでも最初の妊娠では違和感があったのに2度目はまったく分からない、というように妊娠の度に異なる感じ方をします。もし他の人と違っていても、また以前の妊娠時と違っていても、極端に神経質になる必要はありません。
おなかに宿った新しい命。かけがえのない我が子の存在。愛おしい気持ちをもちながら、ゆっくり焦らず、育ててくださいね。
1949年生まれ。日本産科婦人科学会理事長、日本生殖医学会理事長を歴任した不妊治療のスペシャリスト。これまで2000人以上の不妊症、3000人以上の分娩など、数多くの患者の治療にあたる一方、第2次~第4次安倍内閣では、少子化対策・子育て支援担当として、内閣官房参与も務める。「一般社団法人 吉村やすのり 生命の環境研究所」を主宰。