それでは男性不妊の予防法や治療法について確認していきます。軽めの運動、バランスのとれた食事と睡眠、深酒しない、禁煙…等々、要は生活習慣を正すことで予防できると言われています。
それらは大切なことなのですが、それにより精子が劇的に多くなることはないと吉村先生は指摘します。生活習慣を正常にすることは無意味ではないが、それによる効果は限定的だとのこと。
「造精機能障害」の治療は難しいが、別の選択肢も
一方で、投薬で精子の数を増やすという治療法もあります。しかしながら、これも効果が認められるのは限定的な症例だそうです。
「男性不妊、特に『造精機能障害』を治療により抜本的に改善することは、残念ながら難しい。つまりは精子の質や量に問題がある男性は、治療法があまりないのが現実です。
とはいえ、近年は体外受精や顕微授精などの生殖医療が発達しており、男性不妊を生殖医療で乗り越えるケースが増えているのです。要は、精子の数や運動率を改善しなくても、妊娠を諦めなくても大丈夫になっているとも言えます。
仮に妊活をはじめてすぐに検査をして『造精機能障害』や『性機能障害』が明らかになったら、生殖医療に切り替えることをお勧めいたしますし、実際にそのような選択が一般化しつつあります」(吉村先生)
もちろん「造精機能障害」を治療によって改善されるケースもありますが、そこにかかる時間やコストを考えると、それを選択して自然妊娠を目指すよりも早々に生殖医療に舵を切った方が現実的だと吉村先生。特にカップルともども高齢である場合は、早い決断が望ましいと言えるかもしれません。
体外受精や顕微授精は保険が適用されます
大切なのは妊活をはじめる段階で、男性も不妊症検査を受けること。もしこの段階でなんらかの障害がわかった場合、タイミング療法などで自然妊娠に望みを託すより、体外受精や顕微授精での妊娠を目指すのがお勧めです。
「以前まで、体外受精や顕微授精などの『生殖補助医療』は、妊娠を望むカップルにとって経済的なハードルがありました。しかしながら2022年4月1日より、人工授精等の『一般不妊治療』、体外受精・顕微授精等の『生殖補助医療』について保険適用されるようになっています。女性の開始時の年齢や回数に制限はあるものの、体外受精や顕微授精が3割負担で出来るようになっているので、不妊に悩まれているなら、ぜひ前向きに検討いただければと思っています」(吉村先生)
1949年生まれ。日本産科婦人科学会理事長、日本生殖医学会理事長を歴任した不妊治療のスペシャリスト。これまで2000人以上の不妊症、3000人以上の分娩など、数多くの患者の治療にあたる一方、第2次~第4次安倍内閣では、少子化対策・子育て支援担当として、内閣官房参与も務める。「一般社団法人 吉村やすのり 生命の環境研究所」を主宰。